「それにしても、御剣さんは本当にカッコいいなあ…」


たった今まで話していた内容をぶった切って、脈絡もなくため息混じりに呟くと
なるほどくんはほんの一瞬黙りこくって、から
「はいはい」とどうでもよさそうに返事をした。


「…何、今の間は」

「…また始まったなあって思ったんだよ」

「また、とか言わない!」

「だってなまえちゃん、御剣の話になると…
マシンガントークっていうのかな、
まあ本物のマシンガントークに比べたら可愛いものだと思うけどさ」

御剣さんへの熱い篤い想いは、確かにマシンガンレベルで誰かに伝えたいと思う。
そしていつもこの銃撃被害に遭っているのは、わたしの目の前で
「あれはマシンガンというよりはガトリングに近いのかな」とか遠い目をしながら
わけの分からないことを呟いているなるほどくんだ。

本当は女の子同士できゃいきゃいコイバナなるものを咲かせたいものだけれど
わたしの身近に居る女の子と言ったら、春美ちゃんと真宵ちゃんぐらいで
春美ちゃんに知られてしまったら、文字通りとんでもない方向に進んでしまいそうで恐ろしいし、
真宵ちゃんに言ってしまったら、何かものすごく気を利かせて色々としてくれそうで申し訳無い。

ということで、一番御剣さんに詳しい上に わたしの気持ちやパッションを伝えても、
何も思わなそう且つ誰にも言わなさそうななるほどくんに白羽の矢が立ったのである。

とかなんとか格好良く話を捏造してみたけれど、実のところは
ある日突然なるほどくんに「御剣のこと好きなの?」と言われて以来、
バレてしまったならもう仕方が無い、と開き直ってしまった次第である。


「それでなまえちゃんは御剣の何処がカッコいいと思うの?顔?」

「そんなストレートな…、
顔立ちや格好ももちろん素敵だと思うけどそれだけじゃないよ」

「…それ以外は?」

「初めて見たのはなるほどくんの法廷だったわけだけど、
あの時は冷酷で嫌味で上から目線で自信過剰で
とにかくイヤ〜な男だと思ってたわけで」

「…うん、なまえちゃん、よく威嚇してたよね」

「でも、この人のこういうところが嫌だなあ、苦手だなあって思ったところが
全部メッキだったんだなってわかったあたりからかな」

「御剣のことを好きになったのが?」

「だ、だからストレートだよなるほどくん!」

「あれ、好きじゃなかったの?」

「もーいい加減にしてよー!」


「…なーんて、これ以上ヒートアップする前にさ、
御剣もいい加減、入って来たら?」

「、へ?」


なるほどくんが ふいに声を投げたその方向を
反射的に追ったわたしは 自分より遥か後ろを振り返り、
先の彼の声が沈んだ場所、壁に組み込まれた事務所の扉に視線を合わせていた。

なるほどくんが言った内容は右耳から左耳へすり抜けてしまったため、
一瞬触れてすぐに消えてしまった記憶を必死になぞる。
けれど、脳が上手く働いてくれないようで、彼がどういう文字を喋ったかは分かったものの
それがどういう意味を指しているのかは、何故か 分からなかった。

なるほどくんの方を向き直そうとしたその瞬間、扉の方からガチャリと音が聞こえて、
そしてその刹那 わたしは先ほど彼が言った言葉の全貌を理解した。


「………!」

「…ム、…その…」


つい先ほどまでわたしが弾幕を張り巡らせていた原因とも言える
その渦中の人物はドアノブを握り締めたまま、
微妙に赤らんだその顔の 目は伏せられ、その視線はふらふらと泳ぎ、
誰がどう見ても、非常に困った表情をなさっていた。

そしてそれを受けたわたしは現在、固まっている状態である。
頭も動かなければ、髪をかきあげていた途中の右腕も動かない。
ぽかんと開いたままの口も情けないことに閉まらない。

なるほどくんは、硬直状態のわたしの横をすり抜けて
扉の位置のままで部屋に入ってこようとしない御剣さんに

「昨日言っていた本だけど、似たようなタイトルがいくつかあってさ
しかも結構分厚くて、こっちの部屋に全部移動させるの大変だったから
隣の部屋にまとめて置いてあるんだけど、悪いけどちょっと確認してくれるか?」
と、声をかけた。

それを聞いた御剣さんはようやく部屋に足を踏み入れ、
なるほどくんに何か白いものを渡してから、隣の部屋に消えていった。

かと思うと、右手に分厚い本を持って すぐに出てきた。


「…よく分かったな」

「ああ、たまたま一番上に積み上げられていたヤツだったからな」

「いつもみたいにもう2、3冊持っていかなくていいのか?」

「い、いや、きょ…今日はこれだけで、いい」

「そうか」

「あ、ああ」


そうして御剣さんはなるほどくんといくつかの会話を交わしてから
「また今度返しに来る」と言ったかと思うと、
逃げるように扉の方に向かい ドアノブを握り締めて、

そして何故かそのままの状態で彼は硬直した。

彼がドアノブを握り締めていたのは十数秒か数十秒か、
しばらくすると、ギギギと音がしそうな程にぎこちない動きで
未だ硬直状態のわたしの方を向き、「で、では…失礼する」と頭を下げたかと思うと
ものすごい勢いで部屋から出て行ってしまった。


---

嵐のように去っていった彼の言動をひとつひとつ辿り終えてから
ようやくわたしは右腕を下ろすことに成功した、けれど
気が付けば、時計の長針は60度も傾いていた。

ずっと突っ立っていたわたしの横には
いつの間にかなるほどくんも一緒に突っ立っていて、彼はコーヒーを飲んでいた。

ゆっくりと、なるほどくんを見上げると
わたしの視線に気付いているのかいないのか
何ともない顔をしながら、彼はマグカップに顔を埋めて液体をすすった。


「…いつから、」

「なまえちゃんが御剣の話をし始めたあたりからかな
摺りガラス越しに見えてたんだよ」

「ど、どうして教えてくれなかったの!」

「無理やり止めたら逆効果になるかと思ってね」

「それどころかヒートアップさせといて!馬鹿!」

「うん、そうだね はいコレ」


真横に見えるその肩を、拳でガツンと叩くと
なるほどくんは、先ほどと変わらず何ともない顔でなあなあな返事をしながら
わたしの顔の前に何か白い物体を突き出してきた。

それはどこにでもありそうな、白い箱だった。
何故か取っ手の部分が湿って少しふやけていたものの、
少し考えてみるとその白い箱は使用が限られる白い箱であり、
どこかで聞き覚えのある文字が印刷されていることにも気が付いた。


「これっ、これって!」

「なまえちゃんが前に食べたーい!って
言ってたケーキ屋さんのケーキ、かな」

「わあ! あれ、でもこれ…?」

「御剣が持ってきたものだね」

「えっ、な、…なん!なんで!?」

「昨日、御剣から本貸してくれって電話がきた時に
なまえちゃんも明日来るみたいだよ、って言ったから
わざわざ買ってきてくれたんじゃないかな」

「…うそ、え、うそ!」

「嘘ならここにないと思うよ」

「ど…どうしたらいい!?」

「…食べればいいんじゃないかな」


「どうしよう…!」

「お皿とフォーク取ってくるから、この手、離してほしいんだけど」


想いが全部筒抜けになってしまったことが恥ずかしすぎてのた打ち回るのと
まさかの出来事があったことが嬉しすぎてのた打ち回るの
どっちでのた打ち回ったらいいのか、わからない。

そして、これから御剣さんに対してどう接すればいいのかもわからない。

彼の肩をがしりと掴んで、どうしよう、どうしよう、と
興奮のままにゆさゆさと揺さぶっていると
「先に言っておくけど、ぼくはキューピッドには向いてないからね」と
なるほどくんはめんどくさそうに呟いた。


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