ピンポーン

ピンポーン

ピンポピンポーン


ガチャ


「はいはい、どちらさ 」

「どうも」


バタン

ガチャリ

わたしは玄関の扉を開けて、まず目の前にいる人物を見て、
そして反射的に扉を閉め、ついでにカギもかけた。

思わず外に背を向けて、そのまま扉にもたれ、
まばたきを二、三度させたところで
インターホンがもう一度鳴った。

『いい度胸してるね』

おそるおそる手に取ったインターホンからは
聞きなれた声で聞きなれた言葉遣いが聞こえてきた。

びくっと一瞬全身の毛を逆立てたものの、
わたしはぎゅっと受話器を握り締めて、言った。


「し、新聞ならいりません」

『顔見知りを新聞屋扱いかよ』

「新聞勧誘ならお近くの検事局へお願いします」

『御剣を身売りする気か』


「あの、な、なんですか?」

『何が?』

「なななんで、うちの家の前に
立ってるんですか?」

『…新聞勧誘でないことだけは主張しておくよ』


「あ、あの お金も借りた覚えないんですけど」

『今度は借金取りか』


はあ、と受話器越しにそれはそれはわざとらしいため息が聞こえて
またわたしはびくっと飛び跳ねた。


『なまえちゃんから ぼくはそんな風に見えてるんだね
よーーく、わかったよ、はあぁ、』

「ぎゃっ!いや!そういうことじゃなくて
何のご用事かなって思ったんです!はい!」


『………』

「…あのー、」

『…御用事がなかったら来ちゃいけない?』

「…え、」

『…用事がなかったら、来ちゃいけないの?』

「……えっ?」


どきり、と心臓が飛び跳ねた

え、 それっ、て まさか

まさか、なるほどさん、ちょっと いや、え、
今の言葉は、いったいどういう、えっ?


『まあ、なまえちゃんが事務所に置いていった手帳を届けにきてあげただけなんだけど』

「……え」

期待に胸を膨らませていたわたしの何かが一瞬でしぼんだのがわかった。
(名誉の為に言っておくが、わたしの胸自体が萎んだわけではない)


『昨日忘れていったでしょ?』

「…………え?」

『いろいろ予定書いてあったし、困ると思ったから
わざわざ持ってきてあげたんだけど』

「…………え、ええええ」


何とも言えない脱力感に襲われているわたしの耳元で

『あのさ、ホントそれだけだから早く開けてもらえないかな』
『手帳いらないの?』と追い討ちをかける彼の声を
遮るようにインターホンを切った。

期待させて突き落とす、なんていう
高等な小悪魔テクを使用しないで頂きたい。
むしろサタンだ、この人は。

ああもうわたしの、わたしの淡い期待を
返せ 今すぐかえせ、恥ずかしい、恥ずかしい!

なんて心の中で悪態をついてみたものの
当たり前にひとつも口に出せないまま
軽く泣きべそをかきながら、わたしは鍵に手をかけるのだった。


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