街中をてくてくと歩くわたしのほんの数メートル先を
御剣検事さんがいつもの赤いスーツで歩いている。

後ろからは見えないけれど
きっといつものひらひらもいつもの位置に設置されているのだろう。

目と鼻の先を一定の感覚で歩幅で
わたしと彼はそれはもうてくてくと歩いている 。

ちなみにわたしは成歩堂法律事務所に向かっている。
けどもわたしの前をてくてくと歩く御剣検事さんは
どこに行くのだろう、とふと疑問に思ってはみたものの
この道の先には成歩堂法律事務所、その先には公園ぐらいしかないから
彼もわたしと目的地は同じなのだと思う。

とりあえずわたしの中では御剣ほにゃらら検事、とインプットされている。
下のなまえは知らない。

どうやらあだ名はみっちゃんというらしい。
でもなるほどくんには"その名で呼ぶと
ぶるぶるしだすからやめたほうがいいよ"と言われた。
その5文字のどこにトラウマを抱えているのかは
全く想像が付かないけれども、
どうやら彼にとっては何かを開くヒラケゴマらしい。
なるほどくん曰く、それはもう最悪な意味で。


そういえば彼はわたしのことを知っているのだろうか。
わたしをわたしだと認識しているのだろうか。

眉を顰めて目の前の赤に首を傾げてみたけれど
きっと知らないのだろうな、と自己完結した。
思い出してくれたとしても"いつかの事件のいつかの目撃者"どまりだろう。

そう思うわたしはというと
色んな意味で彼のことが気になって、
なるほどくんに日程を聞いては彼の法廷を見に行っている。

まあ、いつも後ろの後ろの端の端っこでぼんやりと見ているぐらいなもので
逆にそれを覚えられていたら恥ずかしくてどうにかなってしまう気がする。
いいや大丈夫、覚えられてない、覚えられてない。
覚えられていても傍聴大好きっ子ぐらいな認識だと思いたい。


もんもんと自己暗示をしながら歩く最中、
右足にコツンとぶつかった石が、傍の電柱にカツンと当たった。

あ、やばい、音聞こえたかな。

目の前を確認すると
やはり同じ目的地だったらしくようやくたどり着いた事務所に
足を踏み入れるか踏み入れないか迷ったらしい彼は
眉を顰めながら、成歩堂法律事務所の看板を見上げていた。

ああ、そういえば事務所の入り口の段差って
いつも地味に足にひっかかりそうなんだよな、思い出してよかった、気をつけなきゃ。
ふと思い出してうなずいた瞬間
目の前で彼が入り口の段差にガツーンと引っかかって、思いっきり転びかけていた。


(えーー!)

わたしは思わず音を発しそうになった口元を押さえながら
ふるふると笑いをこらえていると

ほんのり頬を赤く染めながら
周りをきょろきょろと見渡して目撃者を探す彼と
ばっちりと目が合ってしまった。


「………あ」

「……っ、!」


わたしが目をぱちくりさせた瞬間に、
彼の頬が桃色からリンゴ色にぶわっと変化を遂げた。

と思ったら、彼は だっ、と事務所の階段を上っていってしまった。

「………」

これは、気まずい、と思いながら
その消えた後ろ姿と消えた足跡を辿って、
とりあえずは事務所に着いた。そう、着いたんだけど。

とりあえずこれで覚えられてしまっただろうな、とぼんやり先ほどのことを思い出し
事務所に足を踏み入れるか踏み入れないか迷ったわたしは
眉を顰めながら、成歩堂法律事務所の階段を見上げた。

はあ、と 笑いと困惑の混じったため息をひとつついて、
さて、あの可愛いらしい検事様になんて挨拶しようかなあ、とぼんやり考えながら
段差をひょいと越えて、ゆっくりと階段を上りはじめた。


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