「なるほどくん、今なにしてました?」


現在時刻、午前5時43分
わたしはボタンをひとつふたつ押して彼のケータイを鳴らす。

そしてここからは自分の予測にすぎないけれど、
彼の耳元では音高らかにトノサマンの音楽が鳴り響き、
何事かと、彼は思わず飛び起きたに違いない。


『……なに、してたと思う?』

「その声は、寝てました?」

『…そうだよ』


ひどく不機嫌そうなひどく擦れた彼の声が耳に流れ込んできて
そうか、彼でもこんな感情を露わにするのかと
そして彼でもこんな声を出すのかと、二つの事実にぞくりと震えた。


「あの、すみません、寝起き悪いんですか?」

『…いや、もう悪いとかいいとか
そういう問題じゃなくて…、
どうしたの、なまえちゃん』


わたしとなるほどくんは少し年の差のある友達、
いや、仲の良い知り合いと言った方が正しいかもしれない。

まあ要するにそんなどうでもいい相手から
朝っぱらから電話をかけられたのだから、
彼がたった今発した「どうしたの」という困惑の言葉はとても自然なもので、
不思議そうにしているであろう彼の顔が目に浮かぶ。


「えーと、なにしてたかな、って」

『…………』

「ええと、本当に、ですね」

『…うん、わかったから』


本当に何も考えずにかけた電話だったので上手い嘘を吐くこともできず、
迷惑そうな顔をしているであろう相手に受話器越しに笑うしかなかった。
ああ、受話器の向こうから無言の重圧がひしひしと、ひしひしと伝わる。
でも何も考えずというのは少し違うかもしれない。

そう、わたしが彼に電波を飛ばしたのは、
ただ彼の声が聞きたかった、ただそれだけの感情であり
これといった理由は何一つなく、
そしてわたしは何か的確な嘘をつけるほど頭が回る人間でもなく、
その結果、時間的に寝ているに決まっている彼の動向を問うという
不可思議にまみれた言い訳しか出てこなかった。

だからといってまさか声が聞きたかったなど本当の事が言えるわけもなく、
だからわたしは携帯電話越しに苦笑するしかなかった。


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