「今日は部屋で一人酒か?」

「へ?…ああ、乾か」


夕焼けが藍色に変わりつつある空の下、
家から徒歩2分圏内にあるコンビニで食品を物色していたら突然後ろから声をかけられた。
振り返ると、額に汗を滲ませたジャージ姿の乾がいた。ランニング帰りだろうか。

お疲れ、と言うと ああ、と小さく言葉を切って視線を落とした。
私のコンビニカゴを見ているようだ。なんだ、何か文句でもあるのか。
そう思いながら自分の手元を見下ろす。別に変なものは入っていない、
一般的にはおつまみに分類されている食品がいくつか投げ込まれているぐらいで。

それにしても、乾のジャージ姿とは珍しい。
なんというかいかにもインドアそうな乾がスポーツマンだと知った時は驚いたけれど、
でも確かに運動に有利そうな上背をしている、バレーとか、いやでもバレーっぽくはないか。
首を傾げていると、ふいに顔を上げた乾がいつも通りの無表情で私の方を見ながら呟いた。
酒なら、少しなら付き合えるが。と。


「ん?ああ、今日は飲まないけどもし乾が飲むなら付き合うよ」

「…ということは、そのつまみが今日の夕食である確率87%か」

「な、なにか問題でも」

「少し目を放すとすぐこれだな…、せめて一般的な主食を選択したらどうだ
あまり薦めたくはないが惣菜や弁当があるだろう、…何故つまみに走るんだ」

「今日はするめと鱈チーズな気分だったので…」


「…夕食にしようと思っているものを返してきなさい」

「す、するめ!するめは駄目ですか!」

「今日は俺の家で夕ご飯だ」

「い、いやいやさすがに悪いですし!」

「俺に悪いと思うのなら食生活を改善してくれないか」

「ぐっ…」

「今日はカレーを作る予定なんだが、丁度よかったな」


「…乾のカレーってなんかよくわからないのが色々入ってて
とにかくすごそうなイメージがあるんですが」

「心外だな、と言いたいところだが
…確かにそういったカレーを作ったことはある」

「…あーー!春先でしょそれ!
カレーのようでカレーじゃない異臭がアパートに蔓延してたやつ!」

「ああ、管理人に怒られたよ」

「いや、あれは苦情が出なきゃおかしいレベルだったよ…。
ていうかやっぱりあれ乾だったんだ…」

「身体に良いものを作ったはずだったんだが、一口食べた後の記憶が無くてね」

「よーし!まだ生きていたいから今日は私が作るね!
あと前々から思ってたんだけど、乾は汁物に関する妙なアレンジを控えるべきだと思う」

「アレンジじゃない、改良だ。
ちなみにあれ以来カレーはカレールーの箱の通りに作るようにしている」

「ああよかった、またあの異臭騒ぎが起こるかと思った…。
次またあんなの作ったら追い出されるよ、今日の乾は野菜切る係ね」

「…ふむ、仕方ないな」


「じゃあ、買い物済ませよっか」

「ああ、カレールーとドリンクを買おうと思っていたのだが」

「ん、じゃあルーのチョイスは任せた 私は…鱈チーズだけ買う」

「…まあ、夕食にしないのなら構わないが」

「買うのあったらカゴ入れていいよ、一緒に買うから」

「悪いな、…じゃあこれを頼む」

「はいスポーツドリンクね、2、3本入れていいよ、あとは?」

「いやこれだけでいい、ありがとう」


鱈チーズと、スポーツドリンクと中辛のカレールーを
白い袋にぶら下げて私と乾はコンビニを出た。もうすっかり日は落ちていた。

何となく足元を見下ろすと私の右手にぶら下がる袋から
スポーツドリンクとカレールーがちらちらと覗いている。
なんとなしに見つめていると乾が左手を差し出してきたので、
短いお礼の言葉と共に持っていた袋を手渡した。

正直な話、あまりスポーツをしない上にどちらかと言うと甘口派の私にとっては
どちらも馴染みのない食品であって、
きっとこれからもこういった縁が無ければ買うことはないんだろうなあと、
ぼんやりと若干のカルチャーショックのような、何か新しい心地よさを感じながら
コンビニから徒歩2分圏内にある家に向かっててくてくと歩みを進めるのだった。


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