柳と苗字が一緒だったら
中間や期末テストが終わると、廊下に成績優秀者が貼り出される。そこに必ず載る人がふたり。今回、中2の2学期末テストでもそこには同じ苗字がふたつあった。
「………また奴のほうが上」
ひかりは同じ苗字なのに全て1枚上手な蓮二を越えたくて仕方がない。委員会での発言はスマートで的確、部活動の成績は優秀、髪の毛サラサラ、何も見てないようで全部見透かしてくる、淡々と喋ってくる、背が高い、スラっとしている。
勝ち誇ったような涼しい笑みが悔しくて仕方なかった。
隣にいる友達が宥めるように声をかける。
「ひかり、頭から湯気出そうだよ。柳の後ろにつけるだけでも相当凄い事だよ?」
「うわぁん悔しいよぉ」
「あーあー、もう泣かないの」
隣から差し出されるハンカチで目元を抑えながらトイレに向かっていると、後ろから張本人に声をかけられる。
「ちょっと良いか。先生が呼んでいる」
「あー柳丁度いい。この子どうにかしてよ」
泣き止むまで教室にも帰せないし連れて行っちゃってと背中を押され、ひかりと蓮二は少し距離を開けながら空き教室へと向かう。
ガラリと戸を開けるが、そこに先生などいなかった。
「先生が呼んでいるというのは嘘だ。すまん。」
「なんなの、」
悔しさと恥ずかしさが入り交じって、どんどん視界は滲んで行く。
「テストの結果が出ると毎回泣いているが、何故だ?」
「そんなのもう分かってるでしょ」
「あぁ、分かっている」
じゃあ聞くなよと思いながら、その余裕に悔しさが募り胸がいっぱいになる。先程から蓮二の顔は1度も見ていない。ハンカチを大きく広げて顔全体を覆ってしまっているからだ。だから、蓮二が私の目の前にいることにも気づかなかった。
ふと、自分とは違う柔軟剤の匂いに気づきハンカチを外す。それと同時に目の前が再び真っ暗になった。
蓮二はひかりを包むように抱きしめながら、愛おしそうに呟く。
「お前が柳蓮二の事を目の敵にしている事は知っている。その動機が何なのか、お前が思っているように"悔しい"では全て説明できないと思うぞ。なぜ同じ委員会に入っているのか、なぜ自分の部活中にもテニス部の方を見ているのか」
ひかりは何も言い返せない。
「でもな、勝ち負けという点でいうと、お前は既に柳蓮二に勝っている」
先に惚れた方が、負けだからな。
そう言ってそのまま去っていった蓮二に、ひかりの中の気持ちはもう抑えきれなかった。
「や、柳!」
空き教室から飛び出し大声で名前を呼ぶと、蓮二は振り返り、いつものように涼やかに笑った。
Q.柳と苗字が一緒だったら
A.柳を越えたくて仕方がなくても越えられなくて、結局最後まで越えられない
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