裏側 | ナノ



1/6



小さい頃、親に聞かせられた昔からの言い伝え。

"裏山のオイヌサマの前で手を合わせ、3回って1拍手してから念じると、願いが叶うんだって"






「っはぁ、、はぁ」

陽が傾き始めた夕方、わたしは誰かに後を付けられていた。半年程前から家に変な手紙が届いたり電車で不自然な視線を感じたりする事があったのだが、それらはこの前触れだったのだろうか。

だんだんと近づく足音に私の歩みも速くなる。最後には全力疾走に近くなり、どこを目指すでもなく背後に近づく影から逃げていた。

不摂生な生活が祟り、間宮にスタミナなど無いに等しい。重い脚をひきずるように逃げ惑いようやく辿り着いたのは、母と小さい頃よく遊んだ裏山だった。もう陽はほとんど沈んでしまい辺りは仄暗い。

ようやく振り切ったかと思い安堵の声を漏らすと、茂みから不自然な人影が這い出してくる。

「やめて、やめて来ないで!」

その物体が何なのかよく分からないが、とにかく逃げねばと思い振り返ると、古びた神社と犬を象った石像が見える。

もう遠くに走る体力は残っていない。追っ手はどんどんこちらに近づいてくる。



その時ふと思い出した小さい頃の記憶。

オイヌサマの前で……………



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



頭の鈍い痛みで目を覚ますと、古い木材とカビの臭いが鼻をつく。重い体を持ち上げ、微かに光が差し込む先をぼんやりと見つめた。


オイヌサマは私を助けてくれたんだろうか。


そのうち古びた臭いに耐えきれなくなり、光の差し込む場所を押すとぎぃっと軋みながら外側に開いていく。外はすっかり明るくなっていた。太陽の光が眩しく目を細めてしまう。

しかし、間宮は周囲の違和感に気づき始める。入っていたのは祠のようだが、果たしてこのような祠が裏山にあっただろうか。見渡すとオイヌサマの石像はあるが、よく見るとその表情が笑っていた。間宮の知るオイヌサマは怒ったような顔をしている。



ひとまず、状況を知るために歩き出す。石段を降り山道を抜けて街に出る。すると、通りには知らないお店が並んでいた。

「ここどこだ……」

GPS機能を使おうとスマホを取り出すと、電源が切れていた。充電の為に近くのカフェに入りブラックのコーヒーを飲んだ。体の内側からじんわりと広がる温かさが、間宮の思考をゆっくり溶かしてくれる。

スマホの電源がつき、ひとまず安堵する。しかし、元々入っていた連絡先は全て消えていた。さらに、地図アプリを使っても自分の住所が表示されない。

さらに、カフェに貼られているカレンダー西暦がおかしい事に気づく。間宮が逃げた日付の、ちょうど10年前になっていた。


間宮は自分を落ち着かせるようにゆっくりコーヒーを飲み、端末に表示されなかった実家のあるであろう場所へと向かった。



back
top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -