人形の館、書斎

大混乱の家族は霊能者たちになだめられて戻っていった。今私、ベースと呼ばれる部屋に来た。今まで入れてくれなかったのに。何でかな。しかし、機械がたくさんある部屋だなぁ。何だろうこのコード?あ、カメラもある。この画面は礼美ちゃんの部屋で、こっちは台所?ほうほう、こっちは温度が色でわかるサーモグラフィと言うやつだな。よくわからんが高そう。ものすごく。

「あ、さや機械に興味津々」

そりゃあね。なかなか見ないよこんな機械だらけの部屋。

「ただ単にカメラの画面にびっくりしてんだろ。箱の中に家がある!とか思ってんじゃね?」

しっつれいな!カメラの画面ってことぐらいわかるわい!ちょ、オオカミ様全力で尻尾振らないで。テレビを見たいのはわかったから!後でじっくり見ますから!
今にも唸りそうになっていたら、渋谷さんと目が合ってしまった。

「麻衣、そいつに機械を触らせるなよ。責任はお前だ」

ひぃぃぃぃぃいいいい!
雪だ。吹雪だ。ブリザードだ。触りません絶対に!コードをびくびくしながらよける私に谷山さんは笑ってた。失礼な!犬でもやっちゃいけないことはわかるんだからね。…て、私完全に意識わんこだわ。自分で自分に落ち込む。そんな私なんか放置して何やら、霊能者たちは小難しい話をしだした。ポルターガイストとか心理学とか専門語が多すぎてわからんが、雰囲気からすると、誰がこの家の怪現象を起こしているのか、というところらしい。難しすぎてわからん。さっき曽根さんからおにぎりもらったばっかりだし、眠気が…。

「引っ越したときからおかしなことが起こった、って典子さん言ってたよな?」

あ、滝川さんの声がする。いつまで難しい話続くんだろう。だめ、本当に眠い。頭がかっくんかっくんしてる。

「としたら、このワンコロが迷い込んだのもその時期じゃね?」

突然私に視線が集まってきた。私まどろんでいたのに。何だ何だ。まさか、私の周りに何かいるのか。左向き右向き…何もいないじゃん。問い詰めるつもりで、霊能者たちを見かえす。

あうん?

首を傾げれば一斉にため息をつかれた。

「なさげ」
「ないよね」
「ないわ」
「…」

ちょっと、何その失礼な反応!話の流れについていけないけど、けなされたのはわかるよ何となく!こら、謝罪求む! とか何とか話してたら急に背筋が泡立って全身の毛が逆立つ。

「お、怒ったか?」

滝川さん違う!背中の画面見てよ!オオカミ様だって警戒して唸っているんだから。

「画面が…」

サーモグラフィーの画面が真っ青になる。部屋の温度が下がってる、てこと。しかも氷点下とか。見たくないけど見える、あの子たちが暴れまくっているのが。奇怪な音にびくっと体が震える。

「人間ではありえない」

渋谷さんの一言、全員、否定しなかった。


話の流れをぶち壊すこと承知で言っちゃうとさ、あらゆる可能性を想定して原因を探るのは確実なんだろうけど、見えてしまうものからするともどかしく思ってしまう。私でも役に立てればいいのに。じゃないと、ここは危険だ。何より彼らは礼美ちゃんを狙っている。霊能者や館に住む家族にも、あの子たちは容赦しない。早く、早く…焦っても何もできない自分が悔しい。伝えるって難しいよ、オオカミさま。


オオカミさま、困らせすぎてごめん。首を傾げすぎて倒れこまないで。ホントにごめん。



◇◇◇


また明け方に倒れこむように谷山さんが帰ってきた。疲れてるなぁ。そりゃあ、まともに寝れないし常に恐怖と緊張の嵐だもんね。熟睡してるとこ悪いけどお客人だ。すー、と渋谷さんが扉を通り抜けてきた。

『なにしにきたの』

例のごとく喉から出るのは唸り声なんだけどね。警戒する私に苦笑いでしー、とやって、谷山さんの額に手を当てている。何しているのこんなところで!
でも、なんかをしているみたいだから邪魔しない。おすわりで待ての体制を続けていれば終わったらしい。私の方を向いた。

「僕のわがままで、あなたを巻き込んでしまった。でも、僕の願いをあなたは聞いてくれた」

何の話。ん?渋谷さんじゃない?え、少年!?

「もう、僕がナルにできることはこれくらいだから。だから、ナルをお願い」

こら、何遺言みたいに言ってるの。君まだ生きてるから!え、病院で急変とか起こってない!?


どういうこと?オオカミ様…て寝てるし!ちょっと、もしもーし!!
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