海からくるもの、一

首輪に迷子札?ですって?つまりは発信機?

どこから怒ればいいんだろう。プライバシーの侵害?人権?は適応されないとしても。あれ、でも、事務所の方々、私がいうのもおかしいけど、私の存在気付いてたよね?ある程度の意思疎通図れる存在であると知っておられます、よね?

でも、これとそれは別ということ?

どういう立ち位置でこの人たちはいるんだろう。私たちの、オオカミ様の敵か。ならば、私はオオカミ様を守る。ずき、と胸の辺りが重くなる。ショック、だったのかなぁ。
渋谷さんと滝川さんから距離を置いて体勢を低くする

「ほら、ナルちゃん。さやがお怒りだぞ」
「僕は必要と判断したから行ったまでだ」
「本人に説明と同意がないとなぁ。そりゃさやも怒るわ。あー、うなるよなー、そうだよな。説明するから、な?」

そんなことで止まるわけがない。せめて説明が欲しかった。教えて欲しかった。

「さや。ここは人目につく。詳しくは事務所だ」

その車に乗れと?この行き先もわからない、移動する密室に?

「あんなに人の出入りを気にしていた依頼人だ。僕たちがいることを決して快くは思わないだろう」

ここにいるのが危険と言うなら、私たちは勝手に移動する。山の中でも生きてきた。じりじりと、後ろ足から茂みの方へ移動する。速さで言えば私達の方が勝てる。

「さや」

滝川さんの真面目な声。

「説明しなかったのは悪かった。お前が怒るのも分かる。頼む。それでも、俺たちはお前と仲違いしたいわけじゃないんだ。お前が大事なんだ」

そんな、いつになく、神妙な声で。あなたの後ろにいる研究者は何も言わないのに。
たちが悪い。本当にたちが悪い。唸り声と足も止めてしまう私が本当に嫌だ。オオカミ様。どうしたらいい?私にはわからない。オオカミ様を守りたいのに。ただ、それだけなのに。

がさごそと、人の移動する音。誰か来た。知らない足音。知らない匂いだ。あの屋敷の人間か。

「頼む。さや」

懇願する声。許したわけではない。でも、困らせたいわけでも、ないのに。
今は、まだ。警戒は怠らない。じりじりと、様子を見ながら滝川さんの後に続く。研究者はそれ以上何も言わなかった。
車に乗った。車内でも後ろに乗ったのは滝川さん。運転席にはリンさん、助手席には研究者。運転席にいるリンさんは何も言わない。あの場にもしリンさんがいたら、逃げ出す際に一番に警戒すべきはリンさんだ。走ったら速そうだし。
でも、リンさんはちらりとこちらを見ただけで、何も言わない。説明するわけでも、私たちに何かを要請することもない。それが、今唯一の幸い。


東京に戻るまでの車内は重苦しい沈黙が続いた。誰も一言も話さなかった。私がずっと警戒していたことはみんなに伝わっていたとも思う。

「帰ってきた!」

東京につくと、連絡を受けていたらしい谷山さん、松崎さん、原さんが事務所の中ではなく、外で待っていた。暑いのに。

「随分と怒ってるじゃない。大変だったわね」

松崎さんが怒りながら撫でてくれる。そーだそーだ、もっと言って!もっと撫でて!
事務所の中に入って一同ソファに座る。何これ事情聴取?

「さや」

研究者が何か言おうとする。

「あーあー、毛も逆立てちゃって」
「でも、さやからすれば、無断で、見知らぬ男性に、発信器つけられたってこと?」
「「「はい、アウト」」」
「見知らぬ、ではないと思うが」
「そこじゃないぜ、ナルちゃん」

主に女性陣が判断を下してくれた。そう、何より私が言いたくて、怒っているのは、ここ。
こわかったの。こわいの。根本的に、異性に発信器つけられるとかそれどんな犯罪?しかも無断?
警察駆け込んだらいい?物証あるよ?おまわりさんここほれわんわんしたらいい?

じとり、と見上げる。さぁどうだ。伝われこの気持ち。

「さやの能力を知った上でのことだ」

なんか言いよるぞこのまっくろくろすけ。じっとりべったりした主に女性一同(私含む!オオカミ様はきょとん)

「知能を持ち、思考し、僕たちの言葉も理解する。そんな存在が異能も持っているとわかれば。人は、強いもの、わからないものは管理下に置きたがるものだ」

この研究者。言っていることは淡々として冷たいのに視線を逸らして眉間にシワ。機嫌が悪いわけではない。今まで経験したことのないアプローチをされて戸惑っている。ほー、へー?女性は寄ってくるもので追うものじゃない感じで?そのお顔ですものね?
こんなふうに女性達に囲まれて責め立てられたことある?
…あるわ。この人しょっちゅう谷山さんに怒られてる。

ずべし、と音がした。白い手が、わりと勢いよく研究者の頭に下された。

「こら。そういうときは心配しているんだと言うのよ」

森さん?!いたの?!

「説明もせずごめんね。研究者としてあなたの存在自体とても興味深いものではあるの」

森さんが、眉を下げる。

「だけど、本人に意思がある以上、それを無断でやっていいことではないわね。女性として以前に、人としてしてはいけないことね」

………。でも、この人はきっと、研究者がすることを知ってた。予測してた。

「テレポーテーションの能力があることは今までの経過で予測されたからな」

なにそれ、私たちの同意は?!個人情報保護は?!

「興味深い現象も確認できた。データを取ってはいけないとは、言ってないだろう?」

ひ、ひきょうな。

「さや。身体的負担のない実験に協力できないか?」

へー?この状況で、言う?
あちゃー、と滝川さんが頭を抱えている。リンさんも顔色が悪い。ちょっと口を開けているのは、研究者を止めようとして言葉が出なかったと?
(49/70)
前へ* 目次 #次へ
栞を挟む
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -