鮮血の迷宮、十コワイモノの望み、目的、執念の意味が分かると、白衣にあったメッセージの不穏さも説明がついた。ちなみに、朝の4時。そのあと、簡単に打ち合わせをして一行は調査に向かう。今回は壁を壊すために工具とか機械を使うから、リンさん含めて全員でいくらしい。誰もベースに残らない、とな。 「いなくなるんだけど、くる?」 うなだれた。行くしかない。眠いし怖いけど置いて行かれるよりはマシ。 とても久しぶりにベースから出た。人目もあるので首輪とリードをつけられて谷山さんが持つ。うう。首の違和感。 そして、一行は調査に向かう。密閉空間があるだろう場所を推測して、壁の薄い場所を機械で測定して、壊していく。奥に、少しずつ。閉ざされた空間は電気も通ってないから薄暗いし、埃っぽい。 「さや、どうだ?」 進むたびに、渋谷さんが問いかける。そのたびに、私は赤いリボンに歯を立てる。 「……気を緩めるな。少しでも一人になれば、おそらく僕たちは連れて行かれる」 現に、オオカミ様はずっと唸っている。私も辺りを見渡しながら唸る。角の曲がった先や、扉の近くに、ちらりほらりと、見える。男性の、足。ふらっと一行の誰かが行ったように。タチの悪い誘い。 知恵も持ってるってなんなの! 谷山さんがふらふらついていこうとした時は、思わず足を踏ん張って止めた。く、首が閉まる。そういえばリードでつながれていたんだった。 『ヴォエェ』 「わわーっ、さや?!」 「麻衣!一人になるなと言っただろう!」 「ご、ごめん。なんか、綾子がこの先にいる気がして。さや大丈夫?!」 『わふぅ・・・』 「すんげえ声がしたけど。綾子そんな変なとこにいたのか?」 「私はその反対側にいたわよ!」 「え?じゃあ、あの人影…誰なの?」 しん、と空気が凍る。 「……狙われていますね。おそらく、この空間に入ってからずっと」 「さやの様子からしてここは奴らの縄張りの最奥付近ってか」 鉄錆の匂いが一段と濃くなる。そして、別の匂いもして鼻もひん曲がる。なんだこの匂い。 「焼却炉?」 一行が走っていく。遠くから、調査チームの「遺体が・・・」という声がした。 オオカミ様がそわそわしている。少しずつ、近づいた。先に焼却炉らしき鉄の塊の中をのぞいていた滝川さんが、私たちに気付く。 「………来るか?あんまり、見ない方がいいと、俺は思うが」 正直怖い。でも、怖いのは原因であって、彼らではない。そう自分に言い聞かせて、同行した。 狭いところに、いた。 鈴木さんでも厚木さんでももう一人でもない。損傷が激しい。お顔もわからない。 二ヶ月前に亡くなった青年であったらしい。 食堂に向かうと、人が集まって騒ぎになっていた。 人影を見た そちらの行方不明の誰かの仕業だろう などと、争う声。 もうたくさんだ と、帰る人。 騒動には一切触れず、渋谷さんが大橋さんを捕まえる。 「・・・死体・・・ですか」 遺体が見つかったという情報にみんなに恐怖が伝染する 南さん?のペテン具合がわかって博士が本物じゃなかったという騒動があったけど、よくわからん。とりあえず滝川さんがとても落ち込んでいた。だいじょぶ? 「さや、俺を慰めてくれるのはお前だけだー」 おっと。撫でることを許した覚えはないぞ。 「そんなー」 「ほら、さや女の子だから」 「せちがらい・・・」 どうやら、渋谷さんの目的はこの屋敷の解決ではなく、有名な博士の偽物疑惑を明らかにすることだったらしい。 一行は帰り支度をはじめるという。オオカミ様は残念そうだけど。一切の人の立ち入りを禁じるのなら、これ以上の犠牲はでないはず。そう思いたい。 私たちは谷山さん達と一緒に女性部屋に同行した。荷物多いしね。私が男性部屋に行く意味ないしね。そもそも、荷造りの場面で私にできることと言ったら、部屋の隅で邪魔にならないように床で伏せていることなんだけど。 とかなんとか考えていたら原さんと谷山さんが言い争いを始めた。 ひええ、女子同士の喧嘩怖い。 でも、根本の原因は渋谷さんへの恋心らしい。 なにこれくすぐったい甘酸っぱい。 その結果、自分の頭を冷やすために部屋の外にでようと、扉に近づく原さん。 危ないよ?一人は怖いよ?念のため一緒に外に出る。 原さんは自分を落ち着かせるためか、大きく深呼吸をして、淡く苦笑いをしながら私たちを見た。 「本当は一人にして欲しかったのですけど」 うーん、ごめんね?心配の方が大きい。 「あなたは本当に優しい方ですのね」 小さく細い手がそっと、頭をなでてくれた。 そうかなー。私は私をすいてくれる人をすいているだけだ。 オオカミ様のように、誰でもどんな人でも慈悲を向けているわけじゃないから、わがままなんだよなぁ。第一優先はオオカミ様だし。オオカミ様が心配するから一緒にいるのだし。 原さんが心配なのは本当。でも、原さんが一人にして欲しい気持ちも伝わる。 一人でゆっくり考えたい、そっとしてほしいと、そう思っている。 こんな危険な場所じゃなかったら、私もそうしたい。 後ろで部屋のドアが開く。多分谷山さんが出てきた。ほら、部屋に戻ろう?オオカミ様が唸る。 『グルル』 「少し、歩きますわ」 え、原さん?移動するの?危ないよ? 見上げたら、原さんの目の焦点が、消えていた。 ぞわりとする。あの目を知っている。みたことがある。この最近。厚木さんと、同じ目。 あぶない。とてもあぶない。 『ワン!』 曲がった先は階段で、誰も、いなかった。ぞわり、と寒気が走る。オオカミ様が吠えた。うそ、こんな一瞬で!?後ろから谷山さんと松崎さんの声がする。 「さや!真砂子はどこ!?」 「一緒にいたんじゃないの?」 『クウ・・・』 原さんが、いない。一緒に、いたのに。守れなかった。 私の様子からして、異常事態が伝わったらしい。赤いリボンを必死に噛む。 「落ち着け、さや。原さんの危ないのはわかったし、お前さんの責任じゃないんだから、な?」 かみかみ、と赤いリボンをかむ。自分の尻尾や腕をかもうとしたら止められて、滝川さんが持ってきてくれたリボン。 「空白部分を探す。さや、悪いが一緒に来てもらう。リンも同行するから」 (46/70) 前へ* 目次 #次へ栞を挟む |