06
降ってきた餌に一瞬で牙を立てる。あとは追わずに放置。餌(今日はネズミであった)は水槽の中で己から少しでも離れようともがくが、次第に動きが鈍り、痙攣し始める。急速に生命反応を消していく。痙攣すらも収まったのを確認し近づき、顎の関節を外す。ゆっくりと、今の己よりも(忌々しいことに)太いネズミがゆっくりと口内に飲み込まれていく。

「蛇って全部獲物を締め付けると思ってた」

食事中(正確には消化だが)の己に邪魔が入る。声だけだが。答えるのも腹が立って仕方ないが、契約故吾(われ)はシューと声を出す。

『死ぬとわかって無駄なことはしない。絞め殺すのは毒のない者だ』
「なるほどね。毒の強さとしてはどう?弱まってる?」
『吾は基本目で殺すか牙で貫いていた』
「ぉおっと」
『が、以前と対して差はないように思う。獲物の大きさにもよるであろうが』
「ふむふむ」
『人間、本当に吾らのことを知らぬな』
「知らないから研究しているんだよ」

にぃ、と人間が笑った。己の目は確かに形を取り戻した。目覚めた時より見えるようになった。しかし、この目はもはや何の害も与えられない。契約のせいではない。あの鳥に貫かれてより、魔眼の力が失われたらしい。ぐつぐつと改めて腹が沸騰する。憎い。苛立たしい。あの部屋で起こったことも、今の吾の現状も。

「あれま。また苛々してる。そのうち血管切れるよ?」

何より腹立たしいのが、この人間の飄々とした態度だ。

「ま、ここらで切り上げるかな。とりあえず神経毒ってことは分かったし」

人間はそういって試験管を振る。中にあるのは吾の牙から滴った毒だ。ちなみに場所は吾が目覚めたところと同じ部屋。ここはどうやら研究室であるらしい。実験器具や何のためか不明な本やメモが散乱している。散らかっているが部屋にはこの人間一人しか来ないらしい。吾もその方が良い。晒し者にされるなど我慢ならぬ。

『元より興味が無いのであらば何故今更調べようとする』
「それは内緒。言ったらつまらない」
『…本当に、吾に喰われるつもりか』
「あんれ。食べてくれるの?あたしはてっきり打ち捨てられて終わりだと思っていたよ」

この、何も言わぬ態度が。笑いながら自分を無とする態度が、わからぬ。吾ら魔法生物,否、生物は本能で生きようとする。だが、こやつからは生に対する執着を見せない。存在感の希薄さは、それが影響しているのか。

「執着してるよ、あたし。何が何でも、生きたいと思っている」
『…開心術か』
「まさか。あたし呪文一切使えないし」
『何?』
「だからここで用務員してる。校長のお優しー計らいでね」

そういって何かを思い出すのか、遠くを見る人間は笑んでいた。だが、とても冷やかに。目を細める様は蛇のよう(と、己が言うのも不思議だが)この人間は学生時代スリザリン所属であったという。その笑みを見て吾は納得した。

この人間は狡猾に己の牙を隠しているのだろう。

初めて人間に興味を抱いた。


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