「うおっ!」
びっくりした!!!
びっくりしすぎて心臓がすごいはやさでドクドクいってるのがわかる。
肩にのっかったやわらかい体温にそっと視線を向けると、予想通りというかなんというか、そこには気持ち良さそうに目を閉じている藤井さんがいた。
安心しきったその顔がなんだかとてもくすぐったい。
当たり前のように俺の隣にいてくれることにまだ慣れなくて、こういうときもどういう顔をすればいいのかわからないんだ。
「なにしてんだ?」
「ぬ!る、流川っ!!」
いつの間にこんなに近くまで来ていたのか、立ったまま俺たちを見てる流川。
その視線が藤井さんに向かっているのを感じて、その寝顔を流川から隠すように抱きしめた。
「み、みんじゃねえ!!」
「ドアホ…もう見たことある」
「なっ…!!」
予想外な台詞にでかい声が出てしまって慌てて塞ぐが、見下ろした藤井さんの睫毛が小さく揺れたのが視界に入ってしまった。
「あ、れ?」
「すみません藤井さん!でも悪いのは流川なんです!」
「え、えっ…桜木くん?どうしたの?!」
抱きしめてる俺の腕からこっちを見上げてくる藤井さんもかわいい…が、今はそれどころではない。
何故ならば、そんな俺を置いてきぼりに、なにやら目と目で会話を交わす流川と藤井さんがいるからだ。
それに焦って、なんとしても意識をこっちに向けさせたくて、さらに強く藤井さんを抱きしめる。
「ふ、藤井さんはもう俺んだからな!だからおまえにはやらん!」
「ちょっ、桜木くん!」
「…ドアホ」
大きなため息と共にそう一言を返すだけ。
そんなもんにさえ奴の余裕を感じて悔しくなる。
そして、藤井さんの頭をぽんぽんとたたいて背中を向けてどこかに行ってしまった。
「…もう、桜木くん」
流川の背中が見えなくなると、困ったような藤井さんの声が耳に届いた。
困ってるのは俺の方なのに…
「流川くんとはそんなんじゃないって、前にも言ったのに」
「ううっ…わ、わかってるんすけど!」
「なら、どうして?」
不思議そうに首をかしげる。
そんな仕草さえもかわいいなんで卑怯だ。
「…恋じゃないってわかってたって、あいつは俺の知らない藤井さんをいっぱい知ってるから…不安になるんす」
いつか藤井さんを持ってかれちまうんじゃないかって、思っちまうんです。
さすがにそこまで言葉にできないまま、俯いた。
そんな俺にさっきよりももっと困った顔をした藤井さんの手が俺の赤い髪を撫でていく。
「私が好きなのは桜木くんだもん、ずっと傍にいるよ」
桜木くんが傍にいてもいいって言ってくれるまで。
そんなふうに、そんな台詞を、そんな泣きそうな顔で言わないでほしい。
嬉しいのとか安心とか胸がぎゅってなるのとかが一気にきて苦しくなる。
「お、俺だって、っ」
そう言って藤井さんを抱きよせて、その肩に額をぐっと押しつける。
「…好きっす」
「うん」
そこに恋がなくても嫌なんだ。
あなたの一番はいつだって俺がいいんだって、言わないけど、思うことだけは許してほしい。