きみがすき






今日は俺の部屋で一緒に試験勉強中。


分からない公式があるっていうすぐバレそうな口実を使って藤井さんを呼び出した。
その嘘に気付かなかったのか、それとも気付いたけど来てくれたのか……わかんなかったけど、一緒にいられるだけでうれしいからそれ以上考えんのはやめた。


お互い無言のままで、シャーペンの音だけがやけに部屋に響いて逆に落ち着かない。
向かい合って座れば目に留まるのは、長い睫毛とか薄い肩とか細い指先だとか。
ちっとも入ってこない内容に焦っても、逸らせない視線。

「ふっ、藤井さん!」
「なあに?」
「こ、ここって」
「あー、これは…」

沈黙に耐えられなくてつい名前を呼んでしまった。
一生懸命説明してくれるその赤い唇ばっか目で追ってたら、気づけば近づきすぎてた自分にビックリした。

「さ、桜木くん?」
「ん?」

慌てたように名前を呼ばれて藤井さんの顔を覗き込んだら、見えたのは真赤な頬。
意識してたのは俺だけじゃないみたいだ。

「…赤い」

そう言って、火照った頬に指先で触れた。

「近い、よ」
「わざとじゃ、ないッスよ?」
「うん」
「すぐ赤くなるな」

からかうように言えば、恥ずかしそうに俯いてしまった。
一言交わすたび、近づく距離。
親でも、友達でもありえない、特別な距離。

「なあ」
「なに?」
「触って、いいッスか?」
「もう、触ってるよ」
「じゃあ、キスしていいッスか?」
「……ん、いいよ」


近づいて、触れて、重なって。

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