何気なく視線をさまよわせた先に、竜崎の背中を発見した。
ふわふわ漂うように揺れて見えるその体。
すぐに無理する彼女に、嫌な予感がして足を速める。
「危なっ!」
予想通りくらりと傾いた小さな背中をギリギリのとこでなんとかキャッチ。
「ぁ…リョーマ、く?」
「なにしてんの?」
無意識に低くなった自分の声を聞いて、思ってる以上に自分が苛立ってることに気付いた。
ああ、また泣かせちゃうかも。
「ごめんなさい」
「体調悪いのに素振りしてたとかじゃ、ないよね?」
困ったように俯く姿を見て、答えなんか聞くまでもなくわかってしまった。
「…バカ」
「うん、ごめん」
「アンタのテニスに対する姿勢結構好きだけど、自分が倒れちゃ意味ないってわかってる?」
「わかって…なかったみたい、です」
そう言って、今度こそ本気で落ち込んでしまった。
はあ…
今回はこのくらいで許してやるか。
俯いたままの竜崎の頭をぽんと叩いて、そのまま冷たくなってしまった手を取った。
「こっち、来て」
「え?」
まだふらふら危なっかしい足どりの竜崎に合わせるように、できるだけゆっくりと歩く。
そしてたどり着いた校舎裏。
そのまま座り込んで、少し強引に膝の上にくるように竜崎の頭を押し付けた。
「え、ちょっ…リョーマくん?!」
「なに?」
「なにって、これ、なに?」
「膝枕してあげるよ」
「だ、ダメだよ!…ッ」
何か言いかけて起き上がろうとしてるけど、まだ本調子じゃないその体じゃ無理だよ。
そう言う前に、ばたんきゅーと俺の膝に倒れるように戻ってきた竜崎の頭。
「大人しくしとけば?」
「うー……はい」
いいこいいこするようにそっと頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じた。
カルピンみたい…とは、言わないでおこう。
「竜崎って結構無茶するタイプだよね」
「リョーマくんに言われたくないよ」
その言葉に視線を向けると、めずらしく拗ねたような表情を発見。
なんか、新鮮かも。
「俺は男だからいいの」
「そんなのズルイ」
「まあ、無茶すんのもいいけどさ…」
言いながら、さっきより顔色のよくなった頬を確かめるように手を這わせる。
「無茶するときは俺がいるときにしてよ」
「え?」
「そしたら今日みたいに助けてあげる」
不思議そうな顔でこっちを見上げてくる竜崎の顔をチャンスとばかりに、真下へと差し出された赤い唇にキスを落とした。
王子様みたく助けてあげるから、
お姫様みたいに目を閉じて、俺の手だけを待っていて。