最近なぜだかとても優しいその理由も、本当は知ってるんだ。
でも、もう少しだけ気付かない振りをさせてください。
今日は久しぶりにリョーマくんとデート。
行きたい所を聞かれたけど、答えられなかった。
(ずっと2人でいたいです。)
そう言ってしまいそうになるのを何とか堪えて、受話器の向こうで答えを待つリョーマくんにどこでもいいよと伝えた。
待ち合わせの公園へ入ると、既にベンチに座って私を待つリョーマくんの姿。
慌てて走れば、いつも通り、なにもないところで転んでしまった。
少しだけ擦りむいた膝を押えて顔をあげれば、数メートル先のリョーマくんと目が合う。
転んでしまった私に気づいて、数歩歩いて近づいてきてくれた。
「相変わらず、ドジだね」
リョーマくんはそう言って優しく笑った。
それは今まで見たこともないくらい、やさしいやさしい笑顔だった。
その瞬間、もう無理だって、気がついた。
だって、来月になったらリョーマくんはいなくなっちゃうんでしょ?
こんな風に触れられる距離に、いないんでしょ?
そう思ったら、耐えられなくなった涙が頬を伝った。
「あ、」
「竜崎…?」
「ごめん、なさいっ」
気づいたらそう言い残して、走り出していた。
青学テニス部レギュラーのリョーマくんならすぐ追いついてしまう。
そんな考えも浮かばないほど、今の私には余裕なんてなかったんだ。
「待てよ!竜崎っ」
強く手首をつかまれた。
一瞬で終わってしまった、私とリョーマくんの追いかけっこ。
「どうしたんだよ、急に」
めずらしく、少し焦ったようなリョーマくんの声。
そんなものにさえ、今は胸が痛む。
「……行っちゃうんでしょ」
「え」
「アメリカに、行っちゃうんだよね」
無言は肯定。
かわりに握りしめられていた手の力が増した。
「もう…無理だよ」
「なんでだよ?」
「一緒に、いれないよ」
震える私の声をかき消すように、もう一度同じ言葉を繰り返すリョーマくん。
「傍にいなくたって、俺は竜崎を好きでいられるよ……竜崎は違うの?」
頷くことも、首を横に振ることもできずに、今のこの不安をどうやってわかってもらったらいいのかわからずに、ただただ俯いていた。
「俺は、アンタもテニスも選べない」
うん、わかってる。
「それでも俺は竜崎が好きだよ」
「うん、」
すぐ怖くなって、不安になりたがる私の心ごと抱きしめてください。
そう言いたかったけど、声にはならなかった。
抱きしめ返すだけで、精一杯だったの。
「どこにいたって、竜崎だけが好きだ」
「うん、私も好き」
そう言って目を閉じたら、濡れた頬に触れたあったかいリョーマくんの掌。
あなたのために、私のために、強くありたいです。
触れるだけで、気持ちが全部伝わればいい。