「獄寺さんの手、大好きです」
そう言って俺の右手にハルの両手が触れた。
無言のままそれを許せば、嬉しそうに笑った。
そのとろけるような顔が俺の胸を熱くするのも知らないで。
「アホ女」
「ハルはアホじゃないです」
今までと何も変わらない、いつも通りの会話。
なのに表情が、視線がいつもと違って感じるのは俺がこいつに夢中なせい。
「おまえみたいな女、アホ女で十分だ」
勢いなんてつけなくたって簡単に押し倒せる体。
弱くて細い女。
なのに変わらず瞳は嬉しそうにとろけたまま。
「アホ女じゃないですけど、……けど」
「けど、なんだよ?」
「けど、獄寺さんになら許してあげます」
そう言って、絡めとったままの俺の右手にキスをした。
「本当、アホだな」
アホで、アホ女すぎて愛しいだなんて。
あふれそうな気持ちのままに、今度は俺が白い手を引き寄せキスをした。
「なんだか、恥ずかしいです」
「おまえが先にしたんじゃねーか」
今度は額にキスを落としてやったらくすぐったそうな声を上げ、逃げられた。
それにちょっとムカついて、押し倒したまま強く腰に抱きついた。
「逃げんな」
「だって、恥ずかしいしくすぐったいし……エロいです」
頬をほてらせたまま恥ずかしそうに目を伏せる。
そんなおまえが一番エロいんだよ!と、叫ばずにはいられない気持ちになった。
「おまえのほうがエロい」
「はひ?!獄寺さんのほうが絶対エロいです!」
ちょっと怒ったみたいに前髪を強く引っ張られた。
「いてーよ」
「痛くしてるんです!」
こんな会話は付き合う前の俺たちを思い出させて、少しだけ笑った。
「会った時から思ってたんです」
「なにを?」
「顔も肌も髪もキレイで、へんなフェロモンもでちゃって、ハルのほうが女の子なのに……自信なくしちゃいます」
またアホなこと言いだしやがった。
男に向かってキレイとかフェロモンとか、使う言葉間違ってんだよ。
「自信なくす意味がわかんねーよ」
そっと指で首筋をたどる。
肌の感触と熱を確かめるように、ゆっくりと。
「おまえの肌のほうがキレイだろ」
「ん、くすっぐたい、です」
「ほら、こんなに俺の手になじむ」
首から鎖骨、鎖骨から肩、肩から項、その白さと肌触りに眩暈がする。
さらさらでふわふわなこれは、きっと俺の大好物になる。
制服の釦に手をかけながら、目の前の女にどんどんはまっていく自分を自覚した。