※凛江ががっつりキスをしてます。
苦手な方はご注意ください。
この秘密は誰にも知られちゃいけない。
だから、私たちは内緒でキスをする。
お母さんに見つからないように、影に隠れて、すぐに離れられるように指先ひとつを繋ぐだけ。
きゅっと繋げて、背伸びをして、そっと触れたお兄ちゃんのくちびるはこの前と同じようにあったかくてやわらかかった。
「ん、」
触れて、離れて、踵を床につけて、見上げる。
少しだけこっちに身を屈めてくれるお兄ちゃんの前髪がその目を隠してしまった。
それを見たくて前髪を耳にかけてあげる。
「顔、見たい」
「ばーか」
「だってお兄ちゃんの目好きだもん」
私がお兄ちゃんのどこかを好きだって言うたびにちょっと困ったように目を細めるの、知ってるんだから。
それがいい意味なのか、悪い意味なのか、まだ私にはわからない。
だってお兄ちゃんは好きも嫌いもちゃんと言ってくれない。
ただ家に帰ってくるたびに私にこうやってこたえてくれるから、指を繋いでくれるから、それだけを信じてるの。
「…んな、物欲しそうな顔すんじゃねえよ」
そう言って、またこっちに降りてきたお兄ちゃんの額がごつんと音を立ててくっついた。
「痛っ…痛いよ、お兄ちゃん」
「泣きそうなほどかよ?」
ちょっとだけバカにしたみたいに笑って、今度は鼻の頭にあのぎざぎざの歯が立てられる。
びっくりしてぎゅっと目を閉じれば、繋いでないほうの手が首の後ろにまわされた。
「お兄ちゃ、」
最後まで呼べないまま、お兄ちゃんの唇にのみ込まれた私の唇。
くっついては離れて、でもまたすぐにくっついて、まるで水の中で溺れてるみたいにうまく呼吸できない。
「ん、ふ、…苦し、」
「ん、」
ようやく離されたと思えば、お兄ちゃんの舌先がぺろりと顎から唇に這わされる。
よくわからないじりじりしたものが体中をめぐってそのくすぐったさに身を捩れば、それを押さえるように首の後ろにあった手が背中に触れて腰へと下ろされた。
「そういう顔、すんな」
「そう、いう?って?」
「男を誘惑する悪女みてえないやらしい顔だよ」
いやらしくない!
そう言おうとしたのに、腰にまわされた手がまたゆっくり撫でるように背中へとのぼるその感触に、耐えられずに変な声しかこぼれてくれなかった。
「ず、るい…っ」
「今頃気づいたのかよ」
あ、力抜けちゃう。
そう思ってお兄ちゃんのシャツを掴もうと背中に手をまわそうとした私の体ごと受け止めてくれちゃうお兄ちゃん。
(バカ、もうなんでそんなにかっこいいの!)
これは心の中だけで。
だって見上げた顔が昔のお兄ちゃんみたいだったんだもん。
楽しそうに光ってる瞳が私をうつして、いつもよりもずっとずっと優しい顔で笑うなんてずるいよ。
それじゃ、なにも言えない。
それが悔しいのか寂しいのかわからないまま、お返しに、斜め上にあるお兄ちゃんの鎖骨に歯をたてた。
まだキスマークなんてつける勇気はないけど、このしるしぐらいは許してほしい。
いつか、その首にキスマークつける資格を、私だけにくれたらいいのに。