ばかなあたしは恋におちるの


「ていうか、なんで阿部?」


机を挟んで向かい合ったまま、頬杖をついてそんなことを聞いてくる水谷くん。
そしてなぜか、拗ねたみたいな不満そうな顔をしてる。
困って、隣にいる花井くんに視線を向けて助けを求めてみるけど、同じように困ったような笑顔が返ってきただけだった。

「阿部って、絶対やさしくないじゃん」
「そんなことないよー」
「えー篠岡なんか弱み握られてるんじゃないの?」

水谷くんにここまで言われちゃうって、ある意味すごいよね、阿部くん。
おかしくてちょっと笑ったら、なにかやわらかいもので頭を叩かれた。

「誰が優しくないって?」
「阿部くんおかえり」
「おまえも笑ってんなよ」

ごめんなさい、そう言いながらさっき頭を叩いたものに手を伸ばす。

「メロンパン?」
「食べたいって言ってただろ」
「ありがとー」
「おう」

いつも私が何を言っても適当な相槌しか返ってこないのに、たまにこうして覚えててくれる。
それがうれしくて、くすぐったくて、阿部くんをもっと好きになる。

「ふへ」
「気持ち悪い笑い方すんな」
「阿部くんそれ女の子に言う言葉じゃないよ」
「ていうか彼女に言う言葉じゃないから!」
「黙れクソレ」

なぜかさっきからご機嫌ななめな水谷くん。
それをなだめる花井くんも相変わらず困ったように笑うだけ。

変なの。
そう思いながら朝からずっと食べたかったメロンパンを一口食べる。
まわりはサクッとしてて、でも中は程よくしっとりしてて、中に入ってるメロンクリームにはまだ届かない。

「知ってる?これ限定なんだよ」
「へえ」
「一口食べる?」

そう言って阿部くんの前にパンを差し出す。
甘いのはあんまり好きじゃないって言ってたけど、せっかく阿部くんが買ってくれたんだし。
甘い匂いが届いたのかいつも以上の顰め面で数秒メロンパンを見つめて、仕方なさそうにため息を吐きだす。
やっぱりダメかあと思って手を引っこめようとした瞬間、手首をグイッと掴まれて、そのまま引き寄せられた。

「あ、」
「んっ」

それは思った以上の力で、予想外に接近してしまった私と阿部くんの顔。

「…あま」

そんなに無理して食べてくれなくてもよかったのに。
そう思ったけど、掴まれた手首と近づいたままの顔が不意打ち過ぎて何も声に出せなかった。

そういう意味でパン差し出したんじゃないのに!
今頃ドキドキしてきちゃったよ。


「しのーか俺もひとくち、」
「てめーにやるもんなんかねえよ」
「阿部に聞いてないし!」

また、騒ぎ出した水谷くんと阿部くん。
そしてそれどころじゃない私。

「おい、篠岡」
「な、なに?」
「パンついてる」

え?、そう言おうと思った私の言葉は吐き出される前に阿部くんの手によって受け止められてしまった。

「ガキみてぇ」

阿部くんの手の甲が私の口元を擦るようにさまよっていく。
その無遠慮に触れてくる体温にさらに熱が上がっていくのを感じた。

横で水谷くんと花井くんが驚いたように固まってたことなんて、このときの私たちは気づいていなくて。
やっと離された手首をもう片方の手で握って、熱くなってしまった耳の熱が早くどこかに行ってくれますようにってそれだけを祈ってた。


(無意識なんてずるい。)


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