いつもだったらこんなことしないんだよ。
忘れてしまった手袋を言い訳に、手を伸ばす。
「つめてっ!」
予想通りの反応に笑ってしまった。
「びっくりした?」
「するだろ、こんな冷たい手で触られたら」
それでも離さないでいてくれることがうれしい。
きっと、付き合い始めたばかりの頃だったら勢いのまま振り払われてしまっていたかもしれない。
うん。成長したよね、お互いに。
「びくってした阿部くんもかわいかったよ」
そう言って阿部くんの顔を覗き込んだら、むすっとした顔がそこにあった。
あれ?怒らせちゃったかな。
「ごめんね」
「…顔がにやにや笑ってんだよ」
「だって嬉しいんだもん」
「あ?なにが?」
「手繋ぐのが」
繋がったままの手を持ち上げて見せると、むすっとした顔が今度は困ったような顔になってしまった。
「阿部くん?」
「こんなもんで喜んでんじゃねえよ」
「だって嬉しいんだからしょうがないよ」
「そういうことじゃねえよバカ」
相変わらずの困った顔のまま繋がった手をほどかれる。
それに寂しさを感じた瞬間肩にまわった腕に意識を全部持っていかれてしまった。
「っ…!」
「篠岡さん、俺ら付き合って何年でしたっけ?」
「1年ですよ、阿部くん」
篠岡さんなんて呼ばれ慣れない呼び方におかしくてちょっとだけ笑ってしまう。
そしたら、お仕置きするみたいに阿部くんのおでこがごつんと音を立てておりてきた。
「いい加減慣れろよ」
「馴れたつもりなんだけどなー」
「そっちじゃなくて、俺に思われてる自信持てっつー意味な」
その台詞にびっくりした私の口を阿部くんのそれがやわらかく塞いだ。
蓋をするみたいに重なった唇に、なんでだろう、悲しくないのに涙が出そうになる。
「…泣いてんな、バカ」
阿部くんの呆れた顔が滲んで見えた。
「不意打ちは反則だよ」
「うっせー」
あんま情けない男にさせんなよ。
そう耳元で吐き出された言葉にまた涙が出そうになった。