おねがいわらって




三橋くんとなにか話しこんでる阿部くんを後ろからそっと眺める。
この距離だと内容まではよくわからないけど…
阿部くんの言葉に、詰まりながらもなにか言葉を返す三橋くん。
それに、拳だけで小さくガッツポーズする阿部くん。
見慣れないその仕草についつい口元が緩んでしまう。
いけない、いけない。
そう思って手のひらで口を覆った瞬間、阿部くんと目が合ってしまった。

「…………」
「…………」

なに、そのタイミング!
まるでエスパーみたいだよ。

誤魔化すように、笑い返してみる。
もちろんなにも返ってこなかったけど。
そのかわり。
三橋くんになにかを告げてこっちまで走ってくる阿部くん。
(えっ、もしかして、怒られる?)
なんて、内心焦る。

「なに一人でにやにやしてんだ?」
「に、にやにやなんてしてないよっ」

言いながら、阿部くんに向かってパンチ。
でもそんな私の攻撃は、簡単に大きな手に捕まってしまう。
捕えられた手をそのままに阿部くんを見上げれば、いつもより機嫌の良さそうな顔がそこにはあった。
だから、私までうれしくなって、微笑ましくて。
空いてるほうの手でちょっとだけ背伸びをして、阿部くんの頭を撫でる。

「よかったね?」
「……んだよ?」
「三橋くんといっぱい話せて」
「っ!…頭撫でんなっ」

なーんて、怒られちゃったけど。
頭を撫でる手は振り払わないでくれた。

「よしよし」
「…子供扱いすんじゃねーよ」
「子供扱いなんてしてませーん」

問題児扱いはしてるけど。
もちろん心の中だけで呟いた。


できることなら。
あの時三橋くんに向けたうれしそうな顔を、いつか私にも見せてくれたら。
うれしくて、うれしくて。
きっと、それは、天にも昇る気持ちなんだろう。

第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -