花井に探して来いと言われて、歩き回ること3分。
やっと見つけたと思えば、なにやってんだ?あいつは。
「わあ、やっぱり手、大きいですね!」
「そっか?」
数メートル離れた場所で、なぜか篠岡は榛名と手のひらを重ね合わせている。
しかも恋人同士のように指まで絡めて。
見てるだけで不快で仕方ない。
そんな俺に気付かないまま、2人の会話は続く。
「ほら、こんなに指があまってる」
「女と男の違いだろ?」
「それが理由なのは、悔しいです」
そう言って、少し拗ねたように頬をふくらませる。
だから、誰にでも見せんじゃねーよ。
そう言う顔を。
「けど、こうしたら全部包める」
「本当だ」
篠岡の身長に合わせるように、身をかがめて話をする榛名。
まるで内緒話でもするような、そんな距離感。
榛名の何が、篠岡をあそこまで無防備にさせてるのか…
(…ッチ)
いつも以上にイラついてる自分を誤魔化すように、深呼吸。
だけど、たいした意味なんてなかった。
イライラは消えるどころか増えていくばかりだ。
「…はあ」
本当、なにしてんだか。
あいつも俺も。
もう一度深呼吸をして、2人のいる方へと足を進めて。
名前を呼ぶ。
「篠岡っ!」
情けないことに、少しだけ声がかすれた。
理由なんて知らない。
ただ、なぜか試合以上に緊張してるのがわかった。
だけど。
「阿部くん」
そう言って振りかえる篠岡の顔がいつも通りで。
その気の抜けそうなほど平和そうな顔を見てたら、こっちまで笑えた。
まあ、出てきたのは苦笑いだけど。
「なにしてんだ?」
言いながら、榛名に向けて軽く頭を下げる。
視線だけは外さないまま。
「ごめんね。もしかして探しにきてくれた?」
「まあ、」
「榛名さんと話してたら、つい夢中になっちゃって」
榛名さんもごめんなさい。そう言って頭を下げる篠岡。
おまえのせいじゃねーよ。どうせこいつが引きとめたんだろ?
なぜか無意識に浮かんできたのは、そんな台詞。
「俺も楽しかった」
鼻の下伸ばしてんじゃねーよ。
「手も触れたし!」
「私なんかので良かったらいつでも貸しますよ」
そう言って、榛名に向かって嬉しそうに両手を広げてみせる。
嬉しそうに笑う榛名の顔を横目で確認して、あいつの手が篠岡に触れる瞬間。
細い手首を掴んで、何とか阻止。
「そろそろ試合始まるんで失礼します」
「…ふーん」
余裕そうに笑うその顔は、俺をイラつかせることしかしない。
…んのやろー!
篠岡の手首を掴む手に、さらに力を込めた。
「…行くぞ」
「うん」
少し力を込めて引っ張れば、付いてくる軽い体。
そんなもんに満足して、満たされた気持ちになってる。
バカらしくて、情けなくて、そんな自分に笑えた。
今、この手の中にあるもの。
手離せなくなってる自分には、まだ気付かない振りをして。
やわらかい体温を包む手に、力を込めた。
\榛名はぴば/