リボーン表紙 長編 | ナノ

  その部下、その上司


我々は暗殺部隊だ。
というのは嘘なのかもしれない。

床に散乱したガラスを靴底で踏み締めると、バリッと地面に張った氷が砕けるような音がした。

「これなら、泥棒の方がまだ暗殺者に向いているわ」
「窓を叩き割ったり車で突っ込んだりする奴らに務まるもんかね」

とある建物の最上階にある一室で、気だるげに言葉を交わす。
当初、高級ホテルのスイートルームのような広々とした室内に出迎えられた。機能性を無視した、部屋のインテリアの一部とされたデザイン家具が置かれ一人で使うには余るほどのソファが部屋の中心を占拠している。来客用にも思えたが、ソファの向かいには同様のものはなく大型の液晶テレビが壁に埋め込まれていたのでは真面目な話などする気はさらさらないと見えた。プライベートルームとしては最高だろうが、執務室とするにはあまりに趣味に走りすぎている。もともとはその辺のごろつきと差異のない組織だったようだが、何をしたらこうも羽振りが良くなるのか世の中というのは不思議である。
だがその煌びやかさも、数十分前のこと。
今や廃墟のような物静けさに覆われ、月の光柱が窓から入り込んでいる。冷えた風が書類を飛ばして遊んでいるが、それを気に止める律儀者はここには居ない。
顎髭をミリ単位で綺麗に整えた男は持論を述べながら壁に埋め込まれた金庫を慣れた手付きで開ける。

「いやあ、ここのドンとは趣味が合いそうなのに、今やただの死に体なんて残念この上ないねぇ」
「目の光彩ロックや指紋認証が広がってる中で、聴診器を当てながらダイヤル回す金庫なんて、今時珍しいわよ。最早骨董品レベルね」
「デジタルが普及する中でのアナログってのは意外と穴だったりするもんだぜ。南京錠とかさ」
「ただのプログラムに、人の心はさぞ難解でしょうね。でも、ハンドソーやグラインダーで終了でしょうに」
「そりゃ俺の美学に反する。これは造り手と奪い手の真剣勝負なんだ、切断するなんて可愛げのないことはなぞなぞを最初から答え見て答えるようなもんだ。ルール違反なんだよ」

金庫を開けられて困る人物も居ないというのに、律儀なものだと口の中で呟く。
金庫とは、秘密そのものだ。
他者に露見すれば恥であれ損であれ、当人に確実な『闘争』と『負債』を生むものだ。下手をすれば周囲や全く関係のない範囲にまでその影響が及ぶこともある、一種の爆弾だ。
覗いてはならぬブラックボックス。開けてはならぬパンドラの箱。そう比喩されても強ち間違いではないだろう。事実、金庫の秘密は過去に多くの『闘争』と『負債』をもたらした。争いの種となるものを、不幸しか呼ばないと分かっているものを放置しておく道理はないと、組織の幹部はそう言って秘密の奪取を命じた。
不幸を広めないために、不幸をまき散らす。
なんて、不合理な話か。
ちらりと少し離れた壁に寄りかかる動かない男を見てため息を付きながら、

「それにしたって、もう少し穏便なやり方はなかったのかしら。いいえあったはずよ私の指示通りに動いてくれればこんなに派手にならずに済んだというのに。暗殺のあの字さえ跡形もないわ」
「オメーは暗殺ってモンに囚われすぎなんだよ。昔がよかった、なんて時代に置いていかれた老いぼれのセリフだぜ。時代が変わるなら殺り方だって変わるのが摂理ってモンだろーが」

振り返れば、そこには如何にもといったチンピラ風情の男が立っていた。ワックスでガチガチに固めた髪、ピアスを開けまくった両耳、丸めた背……絵に描いたような柄の悪さだ。まあこの暗殺部隊という集団に居る事を思えばスーツできっちり決めるよりかはしっくり馴染んでいる、と言えるだろう。だがきっと彼には、雨に濡れた子犬に傘を傾けて語りかけるようなド定番の二面性は期待できない気がする。
足元に転がる無言の死体に対してまるで玩具に飽きたように無造作に蹴り転がす男、ジーノ・アマディに、軽蔑の視線を送る。

「仮にそれが摂理だとしても、根底を覆すのは蛇の道だと思うけれど。暗殺は忍んでナンボじゃない、それが忍ばなくなったらゴロツキと一緒よ」
「暗殺の意味をクソ真面目に守ったってナンボのモンにもなりゃしねぇ。じっと機会を窺って討つような連中だったら、暗殺とは、なんて愚問だろうが」
「そうねぇ、アタイらがこっそりひっそりやってたところで目立ちたがり屋なあの人らはそれを土台から即ぶっ壊してくんだから、まあ意見するのは無駄よ無・駄」

同じ黒服を着た、場違いのバカンス用サングラスを頭に乗せた二十代の女が加勢するように口添えする。

「そりゃあアタシたちもこそこそするのは向いてないけどさ、パーリィに騒いでド派手にドンパチしてたんじゃ下々だってそれに従うしかないじゃん?」
「最小限のリスクで仕事に従事しようとしているのに、異議を唱えられるなんて心外だと言ってるのよ」
「単純に性格的な問題とメンタルのコストパフォーマンスだよ、うん。たった一瞬の機会のために何日も張って眉間に鉛玉ブチ込むより会場に乱入してロケランぶっ放した方がストレス少なく充足感を得られるんだろうね」
「コストパフォーマンスねぇ……」

意見もそりも合わない部下に深いため息をつく。
ヴァリアーに依頼される仕事の殆どは、与えられる条件もさることながら仕事内容そのもののハードルが高い。通常、軍人でもなければ兵士でもないなら不可能で無謀な仕事は請け負う事はないのだが、此処ではそれは通用しない。たとえ標的が改造人間だろうが核兵器とバトルすることになろうが、任務成功率が九十パーセントを切らなければどんなに不可能なミッションでも『こなせる』仕事として任が下りてくる。加えてヴァリアーでは八か国以上の語学履修と高い暗殺技術の保有が入隊の条件なのだが、大半は戦闘で使い物になるかどうかだ。派手にごり押しするのが組織のスタイルなら、隊員が戦闘に重きを置くのは自然な流れだろう。
だがこれはあくまで『暗殺』だ。息を殺し、忍びに徹し、闇に紛れてこそ意味がある。人混みに紛れる隠密性をなしに派手な演出や武器を振り回して『暗殺しに来たぜ夜露死苦!!』と言われても逆に拍子抜けするだけだ。
納得しないシバノにジーノは呆れたようにため息をついて、

「暗殺にこだわるのは結構だがな。今まで任務で失敗したことがあったか?暗殺だろうがテロだろうが失敗がない以上、現段階での遣り方が最も『最適』ってことだろーが」
「人間である以上、ミスは付き物よ。江戸で生きた忍者が現代までその存在を残し暗殺という技術を残せたのは、それだけ有効かつ有能な手段だったという証明に他ならないわ。そして、それこそが『暗殺』なのよ」
「ミスにビクビクして縮こまってるようじゃ最強の名が廃るぜ」
「その過信が基で下手を打つ方がよっぽど看板に泥を塗る行為かと思うけど」

冷戦のようにバチバチバチと静かな睨み合いメンチ切りの火花を散らすが制止の声は飛んでこない。喧嘩と火事は江戸の華とでもいうのか、面白そうだから止めないでおこうとでも思ってるのだろう。一人はわくわくした面持ちで、一人は我関せずと無関心を決め込んでいる。任務終わりの疲労感募るこの場面では言葉に棘が出てしまうのも止む無しというものだいいえ別に怒っているわけではないのですただこの自己主張の強い部下に暗殺のなんたるやを教えているだけで決して怒っていませんええ勿論ですとも。

「そもそも、そこの阿呆が馬鹿正直にターザンよろしく窓ガラス叩き割って侵入したから無駄に乱闘騒ぎになったんじゃないのよ。せめて命令無視して御免なさいの一言でもあってもいいんじゃないかしら」
「うわ、人のせいにしやがった。パワハラかよ、部下のミスは上司のミスじゃねーのか御免なさいはオメーの役目だろうがよ」
「居直ってんじゃねぇ刺すぞクズ野郎」

ほぼ反射的に言葉が出た。自分でも驚くような鋭い低音だったがこれで苛立っていることが伝わらないのであれば、彼とは一生決別することになるだろう。
しかし実際のところ、ジーノとはまったくといっていいほど馬が合わない。それはここ最近の話ではなく、上司として彼らの上に就いた時からの事だ。いい加減というか大雑把というか、命令無視が甚だしい。結果として任務はこなされているから文句は出ないのだが、質としては下の下だ。今回のことも、本来なら暗殺者らしく静かにターゲットを始末して目的を達成するはずだった。数日前からターゲットに張り込み、一発で弾けさせられるよう段取りを組んで今日という日を迎えたというのにこのチンピラ風情は……。
おおついにやるのかやってしまうのかさっさとやってしまえとアニータから野次にも似た言葉が飛んでくる。ここはぐっと堪え本部に戻りたいところだが、もはや戦いのゴングが鳴るのもやぶさかではないと右手が自然ときつく握られる。
一発触発の避けられないバトルが始まろうとした時、おいおいと呆れ口調の牽制が入ってきた。

「ほら小隊長、口悪いぞ。女の子がクズ野郎なんて言うもんじゃない」
「そうだそうだーっ!ミス・ヤマトナデシコの花嫁修行をイチから出直してきやがれ淡泊女ァ!」
「お前ちょっと黙ってろ」

あぁん?!とジーノがチンピラスキルガン飛ばしを発動するも彼は私の方を向いてしまって見ていない。
さっきまで後ろで金庫を開けていた男、バルトロ=カラーチェに遮られ隠す気のない苛立ちを露にする。

「止めないでちょうだい、私の怒りのバロメーターはとっくに振り切れてるのよ大体あれをクズ野郎と呼ばずして何と呼ぶというの彼に相応しい罵詈雑言が他にあるのなら是非教えてほしいものだわああもう短刀でそいつの腐った心臓を突き刺してしまいたい」
「まあ待て小隊長。マジトーンで早口になるぐらい怒髪天にきてるのはわかるがまあ落ち着け。ここで騒いだらあいつの思う壺だぞ。いや、あいつと同レベルになるがいいのかね」
「フォローする気あんのかオメーはぁ!!」

そう聞いてちょっとだけ冷静になった。
バルトロはまるで子供に言い聞かせるように、

「いいか、確かにジーノはクソ野郎だ」
「おい前提」
「だがな、部隊の長たる者、品性を落としちゃあいけない。東洋では口は災いの元ともいうようじゃないか。そう、言葉はまさに災いを呼ぶ」

バルトロの講義に外野のピオが退屈そうに欠伸をする。思った展開と違うのかアニータが靴底で床を小刻みに鳴らすも、彼は知ってか知らずかスルーだ。

「人の怒りは持って九秒、それ以降は下り坂だ。些細なことを延々怒ってたんじゃキリがない、人間の自衛システムだ。罵詈雑言なんていくらでも出るだろうが、怒りに任せて口走れば関係に亀裂も入る。そうなったらチームワークもプレーも何もないだろう?」
「………どれだけ罵倒されても、ただ耐えろと言うの?私は聖人君子でも聖女様でもないのだけど」
「青いな、怒りに任せて口走るなと言っているんだ。お前は俺たちの上司、行き過ぎた暴走を止めるのもミスをたしなめるのも仕事だ。それを感情任せの叱責で果たせると思うのかね」

言われれば、確かにそうだ。ただ怒り、嫌み皮肉を述べるのは容易い。しかしそれでは部下は成長せず付いてこないだろう。上司とはミスを許し優しいだけに非ず、例え憎まれても指南することが求められると考えれば感情論だけでは務まらない。
バルトロは指を立てて此方を指した。

「それにはお前が何故怒っているのかを明確に伝える必要がある。つまり、お前の率直な気持ちだ」
「私の気持ち?それなら奴を桜の木の下に埋めてやりたいというものだけど」
「お前のそれは二次感情だ。怒りと原因の感情は繋がってはいるが同一ではない。怒ってるのは『怒れる』からじゃあないんだ。必ず土台となった別の感情がある。それを言葉にするのが、お前の役目じゃないのかね」
「………」

妙にしっくりきてしまった。まだ完全ではないものの、助言を受け入れるだけの冷静な思考は戻ってきている。
数秒間沈黙した後、意を決したようにジーノに顔を向けた。

「ジーノ」
「あん?」
「私は今日に限らず、今まで溜まりに溜まった濁り水を捨て去りたい。あなたには幾度となく苦言を呈してきたけれど、今回は違う。私の気持ちを聞いてほしいの。勿論あなたの気持ちも聞くわ。上司として、仕事仲間として。そして新たな気持ちであなたと今後も任務に就きたいと思っているの」

上司には何が必要か、どう在るべきか。バルトロはそれを示した。そして、在り方だけでなく彼とのわだかまりを解消し更なる絆を築かせようと一役買って出てくれたのだ。彼は教鞭を執る方が似合っているだろうな、と口の中だけで呟く。
彼を、ジーノを受け入れるように両腕を広げた。

「さあ、思っていることを今ここで全てぶちまけましょう。そうでなければ私たちは先に進めない。円滑な人間関係を構築するために、この壁を乗り越えて更なる絆と信頼を築きましょう」
「……本当にいいんだな?」

ええ、と短く答えた。 彼の顔を真正面に捉える。真摯な表情に、こちらも自然と背筋が伸びた。外野は静まりこの状況を固唾を飲んで見守っている。聞こえるのは静かな息遣いと吹き込む風の音だけだ。
数秒間が空いて、ジーノはちっと舌打ちをするとつまらなそうに口を開いた。

「……お前に言いたいことなんてねぇよ」

え、と想定していた言葉とは百八十度違う返答に思わずすっとんきょうな声が漏れた。
ジーノはワックスで固めた髪をがしがし引っ掻きながら、

「そんな面倒なことしなくたって普段の言動を見てりゃ概ね理解できるし、オメーだって理解してんだろ。そうでなきゃこの癖しかねえような手練手管の連中をまとめ上げることなんてできねぇだろうしな。変に反感買ったり命狙おうってやつが出てねぇのがその証拠だろ。今のところだがな」
「ジーノ…」

じぃん、と胸が熱くなる。バルトロは俺の仕事はここまでだという安堵した表情を浮かべ、アニータは思った展開にならず落胆していた。
やはり、間違っていたのだ。たとえ減らず口の絶えない憎たらしい命令無視常習犯でも、雨に濡れた子犬に傘を傾けて語りかけるような一面がないなんてことはないのだ。人は必ず分かり合える、それを今ひしひしと感じていた。まるで入信者を迎え入れるシスターのような心境が生まれ、心の扉が開かれる。今更何故こんなことを言わなければならないのかという面倒くさそうな表情さえ愛おしく感じてしまう。ああ何て素晴らしいのか!今この時!私は彼との絆を強く感じている!明日から頑張れそう!
そんなジーノは、それに、とこれまでに見たことのない穏やかな表情を向けて、言葉を繋げた。

「そもそもお前とは正直一生分かり合えねぇし絆とか深める気なんてさらっさらねえから。つーかやることやったんならさっさと帰る指示ぐらいしろよナメクジかオメーは」

ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!と殺意百二十%で襲い掛かるシバノがバルトロに必死に押し留められる。今までの流れをぶち壊して素知らぬ顔をするジーノにガラス片を投げつけるが、見事に避けられている。

「おま、お前ェェえええええええええええええええええええええええッッ!!!!!これだけ時間を使っておいてどういうこと?!何だったのよこの時間!!私のあなたへの理解感とか深まりかけた信頼感は一体なんだったの?!」
「はぁーん?俺がいつお前と分かり合いたいなんて言ったよ?俺は素直に思ってることを言ったまでじゃねーか、キレられる筋合いなんてねぇな」
「喧嘩売ってんのか!!ええい離しなさいバルトロ!!お前は許さん!絶対許さん!!シュレッダーにかけるよりも細切れに叩き切って!鳥の餌にしてやる!!」
「待て落ち着け!闘牛みてぇに猛進するのは分かるが落ち着け!!つーかジーノてめぇ馬鹿か馬鹿だな馬鹿だったなコンチキショー!!少しは空気読め大人だろうが!ここは和解する場面だろうがッ!!」
「はっ!何だよ、もっと遠慮して言ってくるとでも思ったか?んな儀礼じみた社交辞令はジャッポーネに帰ってからやりやがれ!!」

前言撤回。こいつとは一ミクロンだって分かり合えない。
変な肩透かしを食らい、その上歩み寄ったら落とし穴に落とされたような屈辱を受けたとあって開いていた心の扉が一気に閉ざされる。もう二度と開らくことがないよう鎖と南京錠のオマケつきだ。
同時にシバノは改めた。バルトロ曰く、怒りは精々九秒だと言うがこれを待って鎮静させるほど自分は聖者ではないことを。そしてそもそも、この暗殺部隊に言葉による和解など無意味であるということを。

「ま、まあまあ。それよか金庫の中のモンは回収したしもうさっさと帰ろう。あんまり長居すると野次馬が来るかもしれねぇし」
「…………そう。そうよね。ああ私はまた過ちを犯してしまったというのね。これに関しては学ばなければならないわ。認識を改めないと。こんなこと、二度も三度も繰り返すわけにはいかないもの。ふふ、ふふふふふふふふ」
「小隊長?聞いてる?」
「……ピオ、先に帰還してちょうだい」

遠目でこれを静観していた(放置していたとも言う)ピオ=チッチは携帯に向けていた視線を上げて、

「うん?さっさと帰れるのは嬉しいけど、俺だけ戻ったら他はどうしたとか連れ戻してこいとか言われて結局戻ってきそうだから嫌なんだけど」
「大丈夫よ。すぐ戻るしもし人が足りないことを指摘されたらこう報告しておけばいいわ」
「そんな便利な言葉あるの?」
「ええあるわ。勿論あるわ。困ったものよね、ただえさえヴァリアーは少数精鋭だというのに人数が減ってしまうなんて。でも仕方ないのよね、うっかり車に轢かれて逝くなんて。予測不能の不慮の事故なんだもの。うふ、ふふふふふふふふふ」

腐っても暗殺のエリート部隊、車に轢かれたという除隊理由は無理があるのではと思うのだが、今の彼女に訂正を聞き入れる余地はないだろう。
見る者を不安にさせるような不安定な笑いに、ピオは数秒間天を仰いで、

「うーん。はい、じゃあそう報告しておく。あと任せた」
「っておい行くのかよ!」
「行ってらっしゃい。……さて、あなたも逝ってらっしゃいの時間よジーノ」
「はーあ、俺とやろうってか。いいか『仲裁役』さんよ、自分から喧嘩を売っちまって。仲裁役の名折れだぜ?」
「あら勘違いしないで。これは仲裁役としての仕事じゃないわ、百パーセント『上司』としての制裁よ。部下に躾をするのも仕事だもの」
「言うねえ、減らず口だけは一丁前ってか。オメーに躾られるほど安くねーぞ」
「そう?口だけかどうかは腕前を見てからにしてくれないかしら。」

もはや戦いの火蓋が切って落とされるのは不可避なこのシチュエーション。割ってはいればただでは済まない上に事態が悪化の一途を辿るのは目に見えている。アニータは笑いすぎて寝転がって動かないし。
バルトロは思う。
あー、俺ももう帰ろうかなー。


prev / next

[ back to top ]


×
「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -