S・スクアーロ 短編 | ナノ

  十年前の君、十年後の君


「こんなことする為に十年前に来たわけじゃないのに。来たことも不本意だけど」
「てめぇ…」


遡ること、数時間前。
平和な町、並盛町。その閑静な住宅街の一軒家で、賑やかしい一室があった。

「ぎゃははははは!ごくでらくらえー!」
「どぁあッ?!何しやがんだこのアホ牛!ぶっ飛ばすぞ!」
「ランボ、ジャマ ダメ!」
「はは、みんな元気だなー」
「わああ?!舐めた飴がノートに!!」
「十代目、ここの英語の訳違ってますよ」
「柴野さんめっちゃ落ち着いてるッ!すげぇ!」

どったんばったんと、自由に状況も気にせず暴れまわるお子様をリボーンさんが一撃かまして事態は終息した。
落ち着きを取り戻した部屋で、散らかったものを片付けつつ彼らの課題を見る。

「すみません、柴野さん。煩くしてしまって」
「いえ、構いません。これくらい慣れてますので」
「慣れてるんだ…」
「好奇心旺盛で遊び盛りなお子様と、無駄に声のでかい煽り耐性ゼロの剣士様に、忠誠心を拗らせた幼女が好きそうなおじ様と、頭がインパクト大な素敵なお姉様という超個性的なラインナップですからね。衝突が起きない方がまず無理でしょう」
「どれが誰なのかすぐわかる…」
「はは、可愛い顔して結構言うのな」
「まぁ、それはさておき。さあ、静かになったところで課題の方を終わらせてしまいましょう。あと三分の一ですから、すぐですよ」
「十代目!英語なら俺の方ができます!なにもこんな女に頼まなくったって…」
「いや、だって獄寺くん…説明が詳しすぎて…」
「理論的なのは状況の把握や分析の分野で非常に必要なことではありますが、教える側になったら掻いつまんで差し上げないと伝わりませんよ。あと、如何に十代目の守護者とはいえ年上に敬語を使わないのは非常識です」
「んだとこの…」
「柴野さん、獄寺にキビシーのな。馬が合わないのか?」
「答え難いことを包まず言いますね。ほら、笑ってないでやってください」
「ほーい」

結構いうのはどっちなのか。思いのほか、彼の内面は黒々しかったりするのかもしれない。末恐ろしい。
自分の役目を取られたと嫉妬と対抗心に満ちた視線を浴びつつ見守る。

「そういや、仕事の方は良いのか?」
「ええ、リボーンさん。言ってしまえばこれも仕事のうちなので」

全員ではないが、現在ヴァリアーの一部は日本に来ている。というのも、暫く他の組織があまり動きを見せないという事で、十代目を護衛することと日本で動くボンゴレ傘下の組織との情報交換、共有、あとこっそりのんびりすることで派遣されてきたのだ。しかし、十代目の周りにはすでに守護者が固めているし、さほど問題はないと思うのだが…。万が一に備えてという事で付いている。あと学習面に難がある様なので、そのあたりも含めて。
今日は非番で、仕事を置いて並盛に顔を出していた。買い物に出ていたところを彼らと出会い、お屋敷に上がらせて頂いたのだ。

「そいつは助かる、せっかくだから修行の方も頼めるか?」
「…?彼らにはすでに各々の先生がついているのではないのですか?」
「付いてはいるが、常に傍にいるわけじゃねーからな。それにいつも同じ相手より、変えた方が経験するものも見えるものも違うだろ?」
「…流石、教育者の鑑です。承知しました、引き受けましょう」

小さな十代目専属の家庭教師兼ヒットマンの提案に頷く。しかし、頭の片隅ではこの現状に小首を傾げている。おかしいな、今日は非番なのに仕事をしている。まぁ、普段の仕事を思えば楽なものだけど。
そのとき、ザザザザッ、とノイズが入って男の声で無線に連絡が入った。腰のホルダーに掛けてある無線に手をかける。

「…!少し失礼。……はい、こちら柴」
「んんん…くそ〜リボーンめ…、あー!でっかい電話だーッ!!おれっちにも貸せーッ」
「え、あ?!」

相手の話に集中した瞬間、手元から無線を奪われた。気付けばリボーンさんにノックアウトされたはずの子牛ランボさんがハツラツとしている。
しまった、完全にこの子の事を視野から外していた…!

「こ、こらランボ!柴野さんの仕事の邪魔しちゃだめだろ!」
「ランボさん、それは玩具ではありません。三つ数えるうちに返してください。一、二、さ」
「あーこちらー、ランボさんだじょーッ!ギャハハハハハッバーカあーほ」
「あああああああッや、やめなさい!!大事な要件だったらどうするんですか!」
「へーんッ、これはおれっちが使うんだもんねー。おまえにはこれをくれてやるもんね!!」
「い、いい加減にしなさい!幾ら十代目の守護者とはいえ許しません!そんな玩具バズーカ、ぶっ壊してやります!!」
「あッ!ま、待って柴野さん!それはただのバズーカじゃ…!!」

バッとウシ柄のチビ守護者に手を伸ばすと同時に、バズーカが発射された。



『あーこちらー、ランボさんだじょーッ!ギャハハハハハッバーカあーほ』

無線の先から聞こえてきたの女の声ではなく、頭の悪そうな言葉を吐く子供の声だった。頭が悪いだけあって純粋に怒りのポイントを押してくる悪口に、ベキリと無線を握り潰してしまった。無線の意味をなさなくなったモノが手から離れて床に落ちる。

「す、スクアーロ様?どうされて…ひぃ?!」
「……少し出る。あとはテメェら何とかしろぉ」
「え、で、出るってどちらに?」
「んなもん分かるだろォが!いちいち聞くんじゃねぇ!!」
「は、はい!!すみませんでしたァ!!」

部屋の扉を壊さん程に荒く閉め、バイクで目的地へ向かう。



「あ、あああ…し、柴野さんが十年バズーカに…」

何てことだ…、柴野さんわざわざ来てくれたっていうのにこんなことになってしまうなんて!しかも無線!相手の人も相当怒るだろう、どうしよう?!うちに乗り込んで来たら!

「えひゃひゃひゃひゃひゃ!ランボさんの勝ちぶぎゃあああ?!!」
「うるせぇぞ」
「柴野さんの十年後…?どんな人なんだろうな?元々綺麗な人なんだし、もっと綺麗になってたりして」
「へッ、どうせ傲慢で高飛車な女なんじゃねーのかよ」
「二人ともそんな呑気なこと言ってる場合?!……でもそれは確かに気になる…」

期待と不安に心を揺さぶられながら、煙の向こうを注視する。
もくもくと煙に包まれ、暫くすると人の影が見えた。次第に煙が晴れて行く。

「会議なんだから後に決まってるでしょ。ほら、もう時間になるから私は行くよ。スクアーロは待ってるか一旦戻ったら?」

そこには、現代と違う服(隊服?)で何かの資料を抱えた女性が立っていた。
その姿は、さっきまでそこにいた柴野さんに間違いなかった。しかしこの時代よりとても大人びていて、綺麗な大人、という言葉がぴったりなほどだった。
突然違うところに強制的に連れてこられ、状況が呑み込めずぽかんとしている。

「あ、あれ?本部じゃない…?」
「…これが柴野さんの十年後の姿…。すっげー美人さんなのな!」
「Sig.山本…?何だか随分お若くなりましたね。おや、Sig.リボーン、御無沙汰しております。元気で居られましたか?」
「おう、俺はかわんねーぞ」
「そうですか、それは何よりです。…ところで、ここは?」
「ここはツナんちだぞ、シバノ」
「…ああ道理で。ですが何故十年前の私がこちらに?」

あまり動揺しなかった。というより、とても落ち着いている。
かくかくしかじか。
理由を聞くと記憶の中にヒットするものがあったのか、懐かしさに頬を緩める。

「そうでしたか、そういえばそんな時期もありましたね。懐かしい…」
「そういえば、さっきスクアーロの名前が出たけど、一緒だったのか?」
「ええ、実は今日本部の方で会議があって、彼に本部まで送ってもらったんです。一緒に会議室まで行って、そこでSig.ディーノにお会いしたので少し立ち話をしているときにドロン、と」
「え、送って?!一緒に?!」
「…?ええ、何か変でしたか?」

送る?あのスクアーロが?
現代の物騒で傲慢なスクアーロの姿しか思い出せず、誰かを送って行ったり一緒に歩いたりというのは正直かなり意外だ。まぁ、十年も経つのだ、多少性格も丸くなる…のだろう。よくわからないけど。
肩の方を見ると、リボーンが何か気付いたようににやりと笑っているが、俺にはよくわからなかった。
その時、柴野さんが窓の外を見て何かに気付いた。
目を見開いて、伏せて、と叫んだと同時に、
ガッシャーン!!と、窓ガラスが盛大に吹き飛んで宙を舞った。何が飛んできたのか、突然の事で大混乱して状況が正しく認識できない。誰かが上に覆い被さったお陰で破片の雨を浴びずに済んだ、ということだけが視覚情報として入ってくる。

「…って、柴野さん?!だ、大丈夫ですか?!」
「私の事はお気になさらず。御無事ですか?十代目」
「う"ぉ"お"おおいッ!」

返事をする前に、以前にも聞いたことのあるドスの利いた雄叫びが耳を叩いた。ここで漸く、窓を叩き割って入ってきたのが人だという事が分かり、それが誰であるのかも認識できた。

「舐めた口きいた奴はどいつだァ?斬り刻みにきてやったぞぉ!!」
「ひいい?!す、スクアーロ?!」
「よ、スクアーロ、元気そうだな!」
「な、何しにきやがったテメェ!!」
「さっき無線でこの俺をコケにしやがった奴出せぇ…、さもなくば此処に居る全員三枚に卸してやるぞぉ!」
「ら、ランボなら窓から飛んでったけど…」
「スクアーロ?」
「ぁ"ん?!」

俺の上から退いた柴野さんが、スクアーロを見て呟いた。
まるで意外なところで知り合いと会ったように、どこか目を輝かせている。そうか、柴野さんからしたら十年前のスクアーロって年下だしきっと珍しいんだ。
スクアーロの方も名前を呼んだ女性が誰なのか察したようだが、雰囲気が違うせいで自信が持てないようで訝しげにしている。

「てめぇ…シバノかぁ…?」
「他の誰かに見えるの?」

柴野さんはさも当然のように言って首を傾げている。
スクアーロの疑問を解消するようにリボーンが一言補足する。

「こいつは十年後のシバノだぞ」
「十年後だとぉ?」
「ら、ランボの十年バズーカで入れ替わっちゃって…」
「へーぇ、これが十年前のスクアーロねぇ」

テーブルの上に仁王立ちしてるスクアーロに密着しそうなぐらい近づく。
回顧の念を催させながら、未来と現在の姿を比較して間違い探しでもしてるように楽しげに笑って。

「うふ、ふふふふ。懐かしい。十年経っても目つきの悪さは全然変わらないのね。ああ、そういえば髪はちょっと短いかな。でもサラサラ感は一緒だ。すごいなあ、女子力高いねえ。ふふふふふふ」
「な、何だぁ…?!気持ち悪ィぞテメェ…!」
「あのスクアーロが引いてる…」
「確かに気持ち悪いっすよ柴野さん」
「きめえ」
「う、煩いなあ!いいでしょ、十年前の姿なんて戻ったら見られないんだから!」

テンション上がるのは分かるけど相手はあのスクアーロだよ…?こっちはいつキレるか気が気じゃないっていうのに…、これが十年経った余裕なの…?!わけわかんないよ!
柴野さんはまだ楽しみ足りないようだが、本人に引かれてしまっては仕方ないと体を引く。そして今度は感慨深そうにして、

「いやあでも、やっぱり十年の月日っていうのは罪だね。こんな色男を更に魅力的にしてしまうんだから。まぁそれはともかく、スクアーロ」
「あ"…?……、ッッ?!」

ドゴゥッ!と突然スクアーロの脇腹にグーがめり込んだ。スクアーロも予期してなかったのか唐突すぎて身体がくの字に折れる。俺たちも不意打ちすぎて言葉を失う。
大して柴野さんは思い出に浸る表情から一変、片づけをしない子供を叱る母親のような視線に変わる。

「人の部屋に窓割って入ってくるなんて何考えてるのよ、しかもテーブルにいつまで乗ってるの。早く降りて。ほんとにそういうところは変わらないんだから…、申し訳ありません十代目、窓の修理と片付けは後で必ずこちらで手配致します。ほら、スクアーロ行くよ」
「う、う"ぉ"お?!髪引っ張るんじゃねえテメェ!!」

数人残された俺たちはこの状況に各々感想を呟く。

「……、嵐が去ったみたいだ…」
「柴野さん、顔笑ってたけど怒ってたのな」
「あいつ…十年経ったらああなるのか…」
「流石だな。さて、お前ら行くぞ」
「え?どこに?」
「決まってんだろ、修行だ」



「い、つまで髪引っ張ってんだぁ!!」

外に出ると漸く呆然としてた頭が動いて、髪を引っ張る腕に剣を振るう。
しかし刃が届く瞬間に腕を引かれ、剣は空を切っただけに留まる。

「さっきから一体何のつもりだぁ!」
「何のもクソもないよ。『仲裁役』の役目を果たしたまでじゃない」
「『仲裁役』だぁ?はっ、十年後までそんなもんやってんのかァ?ご苦労なこった」
「そうね、誰かさんが十年経っても大して学習しないで壊しまくるものだから、何時までも解任されないんだよ」
「んだとぉ?!」
「主にやるのはベルと新人だよ。まあでもあなたも時々やるけど」
「くっ……」

飄々とした調子に、容姿も相まって狂わされる。
やりにくい、主導権を握られてるような気分だ。
腹正しさを感じつつも、のんびりと住宅街を歩いて、学校近くまで出た。住宅の群れから店に変わり、人も増えてくる。目立たないようにするための黒の隊服だが、日の高いうちから居るんじゃあ逆に悪目立ちする。
後から十年後のシバノを見ていると、不意と足を止めた。

「それで?」
「あ"?」
「十年後の私はどう?少しはマシに見える?」

唐突な質問に、は?と一瞬思考が止まった。
同時に、どう答えるべきか迷った。
改めて、十年後のシバノの姿を見る。
顎までしか無かった髪が、肩に付くほどに伸びている。体つきはそう変わり無いが、ちょっとしたことには動じない、根がしっかりしたような安定感があった。十年経って得た貫録、というものか。
そして何より。
子供っぽさがあるものの、大人の、艶やかな雰囲気を纏っていた。

「………、」

頭の中で率直な感想が浮かんで口が開くが、言葉は出さなかった。素直にそう答えるのも嘘をつくのも、どちらも癪な気がしたからだ。
俺は目をそらして、下らないと一蹴する。

「どうって、どうもしねぇだろぉ」
「何かあるでしょ?感想。綺麗になったーとか美人ーとか」
「自分で言ってて空しくねぇかぁ?」
「俺の剣は最強だーとか言ってる人に言われたくないよね」
「それは事実だから言ってんだ。褒めてほしくて言ってんじゃねぇ」

そう言い捨てると、何故か含み笑う声が聞こえた。

「…んふ、ふふふふふ」
「なんだぁ、気味悪ぃ笑いしやがって」
「ああごめんごめん、やっぱりスクアーロはスクアーロだなあって思って」
「はぁ?何言ってやがる」

十年経ったらあいつはこんな風になるのか?おいおい、電波野郎は勘弁してくれ。
いや、そもそもなんでさも当然のように俺はこいつと一緒に喋って歩いてんだ。俺は剣の修行にあいつを付き合わせるつもりで連絡したのに、なんでこうなってる?おかしいだろォ。
これじゃあまるで、

「それにしても戻れないなあ、バズーカ、壊れてたのかな」
「…はッ、一生戻れなかったりしてなぁ」
「あら、居てほしいの?」
「どうやったら今のセリフでそういう変換が出来るんだぁ」
「十年で培った脳内変換能力のせいかな」
「くッだらねェことに十年費やしてんじゃねぇ!もっと他にあんだろぉ!」
「ええー、他に費やしたとしたらあと」
「アンケートお願いしまーす!」

街頭アンケートの呼びかけに声が横から飛んできて遮られた。やたらキラキラした笑顔でアンケート用紙を見せてくる。鬱陶しい…、無視してさっさと行こうとした瞬間、

「現在新婚の方にアンケートを取っているのですが、今よろしいですか?」
「え?」
「は……ッ?」

いや、待て。なんだって?新婚?新婚っていったか?おいおいおいおいおいおい、冗談はよせぇ、どこをどう見たら新婚に見えるんだぁ?そんなアンケート応えるわけねェだろォが!

「……、新婚だって。書く?」
「にやにやしてんじゃねぇ!!書くわけねぇだろぉがッふざけんなぁ!!」
「あ、もしかして熟年の方でしたか?」
「新婚でも熟年でも何でもねぇ!!それ以上余計なこと言うと三枚に」
「はーい剣収めてー」

シバノに腕を抑えられ、その場を連れ出された。



町を離れて河原まで連れてこられた。

「あんな人の多いところで剣振り回そうなんて何考えてるのよ。危ないでしょうが」
「何が危ないだぁ!てめぇの仕事考えてから喋れぇ!!大体てめぇがあんなもんにペン取るからだろぉが!!」
「えー、私のせいなの?そう怒らなくてもいいじゃない、ただの冗談なのに」
「…コケにするのもいい加減にしろぉ」

ぎらりと光る切っ先を相手に向ける。
このままこいつのペースに飲まれるのはいけない。そう理性が告げる。舐められて黙ってるままなんざ剣士の名折れだ、十年経っていようがいまいが、どちらが上か思い知らせてやる。
そうだ、剣の修行ならこいつでもいい。同じ相手だ、十年経ってどこまでやれるようになったか見てやろうじゃねぇか。武器も何もないが、この時代のあいつは素手でも戦えた。十年経ってもそこは変わらないだろう。
矢張肝が据わってるのか、剣先を突きつけられても動揺はしない。

「こんなことする為に十年前に来たわけじゃないのに。来たことも不本意だけど」
「てめぇ…」
「まぁ、分かってはいたけどね。十年経って私がどれくらいマシになったのか、見たいんでしょう?」

流石に読まれている。だがそれは事実だ。
シバノは小さく唇を歪ませて、笑う。

「戻るまでの時間、手合わせしようか。勿論手加減は」
「なしに決まってんだろぉ!!」

ダンッ!!と地面を蹴って一気に距離を詰めて懐に入る。眼前に迫られたシバノは瞬間目を見開いたが、もう遅い。脇腹から半分にしてやろうと横一閃に振るう。が、空を切った。上に跳躍したのを目で追って更に追撃する。
しかし、当たる直前で風に舞う紙のように避けられる。最小限の動きで、最小の回避。無駄に体力を浪費せずに長期化しても戦い続けられるようにってか。
だが、

「何故攻撃してこねぇ!ふざけてんのかぁ?!」
「攻撃するタイミングぐらい決めさせてよ」

くるん、とサーカス団のように大きく跳躍して距離を取られる。再び接近しようとした瞬間に、相手から何かが射出されたのを捉えた。咄嗟に剣を盾にして防ぐと、弾かれた何かが重力に沿って落ちる。

「石…?」
「のんびり構えてる暇はないよ」

来る、と察した時にはすでに体が反応して横へ回避していた。居た場所に確実に着弾して、まるで目に見えない何かが後を追ってくるような錯覚を覚える。
指弾。
銃でも撃ってるような威力に、前進を妨げられる。
一面砂利のこの場所で弾が尽きることはまずない。しかも遠距離から撃てるとあっては、こちらが攻撃に転じるのが難しくなる。近距離と遠距離じゃあ相性は最悪だ。
なるほどな、確かに十年前はこんな芸当は出来なかった。十年で得た技術は伊達じゃねぇってことか。

「(だが甘ぇ、タネが分かれば無敵じゃなくなる)」

銃でも指弾でも、永久に弾を射出できるわけじゃない。必ず『補充』が必要となる。まぁ、その時を待たなくてもこんな石ころの弾幕、壁にもなりはしないが。
指弾の雨を跳ね退けながら距離を詰めていくと、シバノは渋い顔をする。

「…やだなあ、ニュースタイルなんだから少しは苦戦してよ」
「だったらもう少しマシなやり方を考えるんだったなぁ!」

あっという間に間合いに入り、

「てめぇの費やした時間ってのはこんな小細工考えるためだったのかぁ?だったらとんだ期待はずれだなぁ!」
「まさか。即席だよ」
「だったら何だ、まさか逃げ足磨くのに費やしたのかぁ?それこそ下らねぇ!!」
「…私の十年は、有意義に費やしたよ。力と技術を磨き、みんなと居ても遜色ないようにするのは勿論」

目を細めてそういう彼女に向けて剣を振るい、

「何より、誰かさんの傍に居る為に」

視界から、姿を見失った。

「そしてそれが十年経つ頃には、」

背後から声がした。
振り向いた瞬間、眼前には

「この身も心も時間も全て、『もう』貴方の隣に在るの」

この意味、分かるかな?と。
大人の余裕に溢れた、無邪気に笑うシバノの顔。
意味、だと?

「ほいッ」
「う"ッ?!」

額に小さな衝撃がきた。些細な痛みが額をちりちりと刺激する。
額を弾いた指を、今度は俺の唇に寄せる。

「だからあんまり苛めないでね、この時代の私を」

反撃するも忘れて、今告げられた言葉の『意味』に意識を巡らせる。
誰のために、時間を使っただって?それが十年後、俺の隣に在るだと?
それは、つまり?
思考が止まったような俺に、十年後のシバノは楽しそうに肩を揺らして笑う。

「ふふ、変な顔。そういうのも、『変わってないよ』」



どんな顔してるんだと問い詰めようとしたが、時間切れだったようで。十年後のシバノは怪しげな煙の向こうに消えた。
その代わりに、この時代の、いつものシバノが何かを持って立っていた。

「あ、」
「あ"?」

そこで、漸くあいつの出した問いの答えを、

『何より、誰かさんの傍に居る為に』
『そしてそれが十年経つ頃には、』
『この身も心も時間も全て、『もう』貴方の隣に在るの』

『意味』を、理解した。
瞬間に、
羞恥心やら気恥ずかしさやら気まずさやら何もかもが、爆発した。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あああああああああああああああああああッッ!!!!」
「うあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」

それは向こうも同じようだったようで、咄嗟に距離を取る。
そして同時に剣を振り被り、叫ぶ。

「「あなた/テメェ十年後なにしてくれてんだああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」」

最早当初の目的も忘れて、お互い内を走り回る感情を発散するために
日暮れまで剣を交え続けた。



「ちょ、ちょっとリボーン!あれ止めなくてもいいの?!」
「大丈夫だろ。ヴァリアー同士なんだ、止めに入ると逆にやられっぞ」
「小僧が修行だって言うから来たけど、確かにこうやって他の人の戦いっぷりを見るのもいい勉強だよな」
「リボーンさんの言う事に間違いはねェが…、なんでこそこそ尾行するような真似を…」
「お前ら、今日のあいつらを見て何かわかったことはあるか?」
「え?!えーっと…武器がなくてもそこにあるもので対応する臨機応変さ…とか…?」
「威圧されても動じない肝の据わり方とか?」
「不意打ちのタイミングっすか」
「……まだまだお子様だな」




(2017.10.13)


prev / next

[ back to Squalo story ]


×
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -