S・スクアーロ 短編 | ナノ

  遠い地より愛を込めて


『今日街で逆ナンされたぜぇ、中々好みの顔だったな』
「あらそれはお疲れ様。でもあなた顔に出やすいから気を付けなさい。因みに私は新人隊員さんに告白されたの、素敵な男性だったわよ」

イタリアの時刻で0時三十二分。
電話口でそんな話をする。

『素敵ねぇ。お前見る目がねぇんだから悪い奴に捕まるんじゃねぇぞ』
「それは自分も悪い男だって言う自虐なのかしら。そういうあなたも、セクシー悪魔なお姉さんにほいほい声かけて着いて行かないでよね」
『それもブーメランじゃねぇかぁ?』
「少なくとも、本人を前にして皮肉を言うぐらいには悪い女だと思うわよ」

そりゃ大変な悪事だな、と電話の向こうで一笑される。

「それより、そっちはどう?部下を余計に叩き斬っていないでしょうね」
『止める奴が居ねぇから好き勝手にさせてもらってるぜぇ。だがこっちのカスどもは本国の奴らよりもカスだ。まず気の配り方からなってねぇ。態々皆まで言わねーと気付けないとあって頭が痛くなる』
「それは大変ね。現場仕事の方も滞ってるの?」
『そっちは問題ねぇ。俺一人居れば事足りるからなぁ』
「………まあ戦況を変えれてるなら問題ないなかしら」
『そういうお前はどうなんだ。ヘマしてねぇだろうな』
「通常通りよ。あなたが居ないからと言って仕事の精度が落ちるほど青臭くないもの。でも仕事量は増えたわね。万能調味料みたいに何でもかんでも投入すればいいと思ってるのかしらね、まったく」
『モテモテで何よりだ』
「最近アニマルカフェなるものが近くに出来たと聞いたけど、行くのはまだ先になりそうね」
『アニマルカフェだぁ?アニマルなら居るじゃねぇか』
「バカね、匣動物も確かにアニマルセラピーにはなるけどあの子達は私の精神力で動いてるのよ?この擦り切れた状態じゃやさぐれてるわよ」
『ルッスーリアの晴孔雀は』
「身体と心のエネルギーの質は別物なの。体力があがってもメンタルHPは変わらないわ」
『我が儘だなぁ』

彼は、遠い地にいる。飛んでもすぐに行けない、地球の反対側。
消えない言葉を得るにはメールを。声を聞くには電話を。顔を見るには通信用テレビを。なにかワンクッション挟まなければ会うことができない距離。本部にいる限り、一回は顔を合わせる。声も聞く。しかしそういうのがない日があっても、それはそれで新鮮だったりする。
彼がいなければ行動を縛られることはないし、好きに時間を使えるし、横槍を入れられないから仕事は捗る。良いことしかない。
良いことしか、ないのだ。
椅子の上で膝を抱えながら、一人分の声しかしない部屋で思いを馳せる。

「………ねぇ」
『なんだぁ』

ただ、其れを口にするには私には勇気の要ること。

「……死なない程度に、頑張りなさいよ」
『……お"う。お互いにな』

ふふ、と相変わらずな彼に思わず含み笑いをする。
彼が居なければ仕事は捗る。素敵な男性にも絡まれる。一人の食事はとっても静か。一人なら一人の自由な時間が得られる。
だけど、ペアリングをつけ忘れたら仕事量は増えるし財布は忘れるし雨には降られる。居ると思ってぽろっと呼んで恥ずかしい目を見る。恐るべき怨念だった。此所に居なくても、あなたは居てくれてるのね。私大好きじゃない、感服だわ。人のことは言えないけれど。
時計を見ると、とっくに日付が変わっていた。

「さて、明日も仕事だし、もう休むわね」
「ああ、buona notte」

キスのリップ音が聞こえたのち、通話終了を教える無機質な冷たい音が流れる。端末を耳から離して数秒ディスプレイを眺める。
紛らわせていた静かさに三百六十度から呑まれる。こういうのは苦手だ。通話が切れた途端現実に引き戻されたような、それまでが夢だったような何とも言えない寂しさに晒されるから苦手だ。
それでも、見えないあなたに救われる日々。
無限のように感じるこの距離が、悔しいけれどあなたが大切なんだと思わせる。好きなんだなあって実感する。中々言い出せないけれど。
端末をデスクに置いて、ベッドに潜る。起きればまたあなたの居ない本部で仕事だ。ミスしないようにしないと彼に笑われてしまう。
戻ってくるまでに、あなたの知らない日々の話をしてあげよう。そう思えばあなたのいない日々も悪くはない。

「帰ってきたら、愛してるの一言でも言ってあげようかしら」




2018.8.13

prev / next

[ back to Squalo story ]


×
「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -