最高のバカンス
本日は晴天なり。青い海に青い空、カラフルなパラソルの下でシートに寝転がって日焼けを楽しんだり、ダイバースーツを着てダイビングをしたり遠泳したりと楽しみ方は様々でとてもやりきれない。
それがなぜ、
「必ず仕留めろ!討ち取って名を挙げるんだ!」
ドガガガガガガガガガガガリガリガリガリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリッッ!!!!!!!
何故、岩影に潜んで銃弾の雨を凌いでいるんだろうか。
「奴等は武器の所持をしていない!仕留めるなら今だ!!」
「手を緩めるな!一瞬の隙も作るんじゃないぞ!」
銃弾が岩に当たり破片が飛ぶ。流れ弾が砂浜に穴を開けていく。少しでも頭を上げればお洒落に髪の毛が剃られてしまうことだ。
「ちょっと、どういうことなのこれ。私たちバカンスに来てたのよね?」
「知るかぁ!俺が聞きてぇぐらいだ!!」
隣でイライラしてる似合わないアロハシャツを着た上司に聞くが、それどころではないらしい。
私とスクアーロは昨日から休暇に入って、ヴァリアーが所有している島へバカンスに来ていた。ホテルに荷物を置いて、最低限の荷物をもって浜辺に来て海で遊んでたところ、見慣れないクルーザーが何隻かこちらに向かってるのが見えた。何事かと思えば突然一斉射撃され、迎撃するも数に圧されて現在に至る。辛うじて生き残ったスタッフには応戦してもらってるが、果たして何時まで持つか…。
「こんな話、来るときには無かったのに。なに、さてはドッキリ?」
「そりゃ最高のサプライズだな。感謝して主催したやつの首をはねてやらねぇとなぁ」
その時、仕事用の端末が震えた。恐らく電話の向こうの相手は…。私が出る前に、彼にぶん取られて勝手に通話を始める。
「う"ぉ"お"い……、これはどういうことか説明してもらおうかクソボス」
『ぶはっ、御愁傷様だな』
「笑ってる場合かぁ!」
『そいつらは反ボンゴレ組織だ。全員根絶やしにしろ』
「簡単に言いやがって……、この分の休暇は是が非でも貰うからなぁ!」
『さっさとやれ』
チッ、と盛大に舌打ちをしてそのまま端末を握り潰しそうな勢いで通話を切った。人のだと思って乱暴に扱わないでほしい。
「社長はなんだって?」
「全員クビはねろってよ」
「分かりやすくて助かるわ」
岩を背にしながら、クーラーボックスを開ける。中には様々な部品が入り乱れているが、選びとって銃を組み立てる。
部品が合わさり銃が本来の姿を取り戻していくのを見ながら、スクアーロに状況を話す。
「さっき見た感じだと、全体の数として三十くらいね。もう少し居たみたいだけど、うちのスタッフが何人か撃ち抜いてるから少し数が減ってるわ。その分、こっちも少ないけど」
「はっ。ハナッから期待してねぇよ。敵と一緒に刎ねられたくなきゃ引っ込んでろっつっとけぇ」
「警告は既にしてあるわよ。逃げるか否かは彼らの判断に任せてる」
判ってるじゃねぇか、とさっきまで嫌がっていた割には楽しそうに口許を歪めている。ホント、絶望的状況であればあるほど喜ぶんだから。
岩の隙間から敵の位置を把握する。
「敵の位置は?」
「正面にハンドガン五人、三時に狙撃ライフル二人、九時にはアサルトライフルとショットガンが三人ずつ。あと七時に二人……回り込まれてるわね、まるで追い込み漁みたい。魚じゃないっての」
「う"ぉ"お"い、まさか弱気になってるわけじゃねぇだろうなぁ?」
「あら、あなたが居るのになる必要がある?」
「よぉし。三分、時間稼ぎ出来るな?」
「面白い冗談ね、一分もあれば殲滅出来るわ」
ガチャン、と最後の部品を填める。
太ももに小型のガンホルダーを着けてサブマシンガンを手にして構える。同時に剣を構えてイイ笑顔をみせる剣士に合図するように視線を向けた。
「さ、さっさと片付けちゃいましょ」
「言われる迄もねぇ」
端末を空高く放り投げて、一瞬銃声が上へ上がった瞬間。
サブマシンガンを全力でぶっぱなした。
戦況は一転、数で圧していた敵の数が減り始る。動揺と困惑が伝播して全体の士気が落ちてきていた。そりゃそうか、たった二人に押されてんだからなあ。しかもバカンスに来ててまともな武器も所持してない、防具もない無防備な奴に三十人掛かっても仕留められねぇってなりゃ焦りも出る。粗さが出てきた指揮系統の隙を突いて確実に、且つ迅速に力の差を見せ付ける。
「くそっ、くそがぁ!どうなってんだこれ、がはッ?!」
「バケモノかこいつらは!!ぐぎ、あああッ?!」
「女性に向かってバケモノなんて、イタリア男が聞いて呆れる台詞ね」
ハンドガンで援護射撃しながら、いち早く敵を察知してサブマシンガンで撃ち抜いていく。頼もしい限りだ。
パレオ姿でゴツい銃をぶっぱなしている姿、ミスマッチ感が逆にいい仕事してやがる。太ももに小型のガンホルダーたぁ魅惑的じゃねぇか。などと思っていたら顔の数十センチ横を何かが通過した。遅れて後ろから濁った断末魔が耳に届き、振り向けば眉間に穴が開いた男が撃たれた瞬間の表情のまま地面に倒れている。即死、のようだ。一瞬の苦痛で逝かせるとは、流石だな。
煙の上がるスーパーパワーライフルを持つシバノが、小さく笑う。
「貸しだからね?」
「すぐに返してやるぜぇ」
彼女の後ろで鈍器を構える敵の喉笛に赤い亀裂が入る。
背を合わせ、残った敵を見渡しながら呑気に話をする。
「つーか、その距離で撃つもんじゃねぇだろ」
「距離なんて大した問題じゃないわ。大事なのは技術よ」
「敵の数は?」
「十七『だった』わ」
「やるじゃねぇかぁ」
どうやら弾を切らし出したようだ。弾を補充する時間稼ぎの人員を先に伏せさせたために弾を込められなくなったのだ。これなら一分も掛けずに片付けられそうだ。
三時の方向にいた狙撃主をシバノが連続で撃ち抜く。次々と倒され数を減らされていく恐怖に敵の手が止まり、どよめき動きが鈍ったところを容赦なく斬り倒していく。
「あと十人、どっちが早く片付けられるか勝負でもする?」
「いちいち数える暇があんなら手を動かせぇ」
「六。あら、終わったあとに数えてないとかで負けの言い訳をするつもりなら、不戦敗してあげるけど。七、」
「八、うるせぇ!この程度の的で数競ったってなんの自慢にもならねぇつってんだぁ!九!」
それもそうねと、彼女が銃口を向けると同時に走り出す。
次で最期だ。
「ぐ、ぅ……ち、畜生、畜生ォォおおおおおおおッッ!!!」
「「十!」」
浜辺に打ち上げられた夏の海月のようにごろごろと倒れている敵の処分と薬莢はスタッフに任せ、バカンスを再開。
と、言いたいところだが。
「流石に返り血と火薬で海を汚すのは心が痛むわね…。一旦戻ってシャワー浴びない?」
「そうだなぁ」
髪をかきあげながら、彼女の意見に同意する。傷は創らなかったがシバノは火薬を、俺は返り血を少なからず浴びている。海を汚すことに心を痛めなくても野郎の血に濡れたままいるのは流石に気分が悪い。彼女の魅力を引き立たせるパレオも汚れてしまった。どちらにしろ、着替えに一旦離れなければ。
シバノは持っていたライフルをスタッフに渡し、俺はボトルの水を頭から被ってタオルで血を拭う。赤い液体が水に溶かされ白いタオルに薄紅色の模様をつくる。
スタッフに指示を出して場を仕切っている彼女に、軽く頭を小突く。
「う"ぉ"お"い、休暇だっつってんのになにしてんだ。そんなに仕事が忘れられねぇのかぁ?」
「仕事と俺どっちが大事だ、なんて不毛よ。盛大な飛び入り参加で怪我をしたスタッフも居るんだし、ちょっと気になっただけじゃない」
「素人じゃねぇんだ、対処の仕方ぐらい分かってんだろ。俺らが気にすることじゃねぇ」
「仲間なんだから優しい目で見守ってあげないと。厳しいだけじゃ付いてこないわよ」
「この程度のことで動けねぇようじゃ先は知れてるな」
いいから行くぞと腕を引けば、どこか不満そうではあったものの引き返すことはなかった。全く、これだから目が離せねぇんだ。
しかしあれだけ派手に暴れたのだ、片付けもそうすぐに終わらないだろう。その間ショッピングに出るのもいいが、気分としては…。
「ひと仕事終えたんだ、ホテルでゆっくりするかぁ?」
「あら、バカンスはどうするの?」
「浜辺に転がってる死体と片付けしてる奴らが居る中で満喫出来るんならすりゃいいんじゃねぇか?俺は遠慮するがな」
「……、のんびりするのはいいけど、全部洗い流してからね」
当然だと一笑してするりと腰に手を回す。さて、バカンス再開まで疲れを癒すとするか。
少し見上げて可愛らしく微笑する彼女に口付けた。
(2017.12.21)
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