お互い様
今日は少し、チャレンジしようと思っている。
目の前にはガラス製のシンプルな青い小瓶。中には液体が入ってる。量は30ml、無色透明。
これはつい先日、フレグランス専門店にて購入したものだ。
香水をつけることはないが、少し気になったもので悩んだが好奇心には勝てなかった。
香水を手にして軽く香水を掛けてみる。ふわりと、嗅いだことのある香りが鼻を掠めた。まるで新しいマニュキュアをつけたような、新しい服を下したような、そんなちょっとした気分の高揚を感じて自然に頬が緩む。
おっと、これから仕事なんだ気を引き締めないと。
ぺしぺしと頬を叩いて気合を入れる。さて、と仕事に出ようとしたときに扉が独りでに開いた。
「う"ぉ"おい、何してんだぁ。もう出る時間だろぉ」
「ごめんごめん、今行くよ」
荷物を持ってしかめっ面でいる上司に近づくと、何故かより眉間のしわが深くなった。、
「……、?う"ぉ"おい、ちょっと待てぇ!」
「え?」
そんなに大きな声を出して何事か。いや、大きな声なのはいつものことか。
険しい顔をして私を見下ろす彼は、とても威圧的に見えて子どもだったらぎゃん泣きしてるところだ。
彼は私に顔を近づけてすんすんと鼻をひくつかせる。次に口を開いた時にはとても不機嫌な低い声が出てくる。
「てめぇ、誰と居やがったぁ」
「誰って……まだ誰とも会ってないけど。寧ろ今から行くところだし」
「見え透いたウソつくんじゃねぇ!」
かっちーん。
「ウソじゃないわよ。確証もないクセに何喚いてるのよ!」
「確証だとぉ?だったらその匂いはなんだ?てめぇ香水なんてつけてねえだろぉがぁ!」
「あら、私が香水付けてちゃいけないの?それとも、わざわざあなたの許可が欲しいわけ?」
「そういう事を言ってんじゃねえ!質問もまともに答えられねぇのかてめぇは!」
「何でそこまで言われなきゃいけないのよ!束縛の過ぎる男は嫌われるわよ!!」
「いいから質問に答えろぉ、そんな匂い付けられて誰と居やがったぁ!」
「誰ともいないって言ってるじゃない!!」
何を誤解してるか分からないが、ありもしない疑惑を掛けられ頭に血が上る。
彼に負けないぐらい、腹の底から大きな声で疑惑を否定する。
「あなたの香水付けてるの!あなたが居るのに他の男の匂いなんて付けるわけないでしょ?!」
ふーふー、と肩で息をする。
対照的に彼はカチンと固まって、何故か頬を赤らめて口元を片手で覆っている。
「ふ、ぐ…ぅッ……」
「…何よ、言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「い、いや……、その、悪ぃなぁ…」
「……、!………、私も、ごめんなさい…少し熱くなったわ…」
「ほら二人ともー、話が終わったらお仕事行ってちょうだいね〜」
「「!!」」
その後は普通に(どことなくテンション高めで)お互い仕事に行ってきました。
「…あの二人も毎度毎度飽きませんよねー」
「だな。一昨日は知らない口紅が置いてあったってシバノの奴がキレてたっけ」
「結局、副隊長に渡すモノだったって言うので終息しましたよねー」
「まぁまぁ、それだけお互いにゾッコンだってことなのよ。ほら、私たちも仕事しましょ」
(2017.12.9)
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