イタリア旅行記E

湯船に浸かって暫くホテルでのんびりしたあと、彼が仕立てたと言う服を着て出掛けることになった。

「うわ……ッ」

鏡前で、思わず声が漏れた。
私はフリルや柄物、派手な色をあまり好まない。基本単色を組み合わせて服を選んでいる。自分的に似合わないのと単純に無地が好きというのが理由だ。シンプル イズ ベスト。今回の彼が選んだという服は、それに完全にマッチングしていた。
サントリーニ島の建物のように真っ白なワンピースに、肩にはグレーのカーディガン。首にはエーゲ海を思わせる鮮やかな青いネックレス。
似合う似合わないは置いといて、好みのど真ん中を突いた服装を買ってきたことに声が漏れる。

「うわ……ッ、」
「う"ぉ"おい、そのうわ……ッは何を含んだうわ……ッなんだぁ」
「いや、…よく私の好みがお分かりで」
「自分の女の趣味ぐらい分かるだろぉ」
「でも多少自分の趣味も入ってるでしょ?」
「当然だぁ」
「口籠らないで即答する辺りがあなたらしいわ」

彼はというと、スーツのようなかっちりしたようなものではないが、Yシャツにベスト、ループタイとスタイリッシュな格好をしていた。これなら後ろ姿でも女性だとは思われないだろう。

「(しかしまぁ、なんというか…)」
「……、?どうしたぁ」
「ううん、何でもない」

初日もそうだったのだが、矢張私服姿は印象が違って見える。大変ずるいというか一つで二度おいしいというかグッドルッキングガイというか。平たく言えば、何だこのイケメンは。これで三十路というのも信じがたい。しかし、三十路故の落ち着いた雰囲気と相反する仏頂面に世の女性は落とされたのかと思うと、無条件で納得してしまうものがある。
それは自分もそのうちの一人だから、だろうか。
彼は頭から爪先までをじっくり見ると、口角を上げて深く頷いた。

「やっぱり俺の目に狂いはなかったな。似合ってるぜぇ」
「あなたもね」

ふふ、と笑うと彼も笑う。
さてそろそろ出掛けようかと言うと、短い返事と共に彼の方から手を差し出された。どうやらエスコートしてくれるらしい。とてもくすぐったい気持ちになったが、折角なのでそっと白い手袋の上に手を乗せる。
そして乗せられた手を取り、甲に口づけた。
それだけでも心臓は驚いたのだが、銀色のカーテンの中から覗くナイフのような鋭い視線に追い打ちを掛けられる。
ああもう、ホントにサプライズばっかり。なんて狡い人なの。
素直に照れてもいいけれど、ずっと翻弄されてばかりは癪なので少し茶化してみる。

「……いつの間に『お手』を覚えたの?」
「あんまり生意気言ってっと噛み付くぞぉ」

薬指に唇が触れて、歯が触れる。その口付けの意味を、私は汲み取ることが出来るだろうか。分かるさ、私の心臓を焦らせるためでしょう。ああほんとに狡い。フェアじゃないわ。
私はそれは怖いと笑って誤魔化すけれど、きっと隠しきれていないんでしょうね。その意地悪な笑みを見れば分かるんだから。
そんな私の反応に満足したのか、彼は私の手を引いて柄にもなくこう言った。

「さあ、行きましょうか?signorina」

手を引かれ、心を惹かれる。
その柔らかい笑みに、太刀打ちなんて出来ないのだと思い知る。

「…やっぱり、あなたに敬語は似合わないわ」

でも、できなくてもいいかななんて思ってしまうのは。
どうしようもないことなんだと思う。



真守が休暇を延長したおかげで、三日目はそれなりに観光はできた。
バールで食事を取り、観光地を回り店で雑貨を覗いて歩き疲れたらベンチに座ってジェラートを食べる。彼女は土産物をみたいと言うから色々回るが、矢張ヴェネツィアンマスクに手をかけるため買うなとひたすらに念を押した。俺が悪いわけじゃないのだがショボくれる彼女に罪悪感を感じ、目元だけのマスクならと許可したらいたく喜んだ。どんだけ欲しいんだヴェネツィアンマスク。数ある中から選んだのは、銀とターコイズブルーの透かしのタイプだ。目元に当てて、『あなたの色も入ってるね』だと。くそ、不意打ちはやめろときめくだろうが。それが気に入ったのか購入して、店を出た。
あとは他の奴らへ高級チーズやら高級酒やら高級菓子やらを買った。彼らには残るものより残らないものの方がいいでしょうとのことだ。それは正解だな。
相変わらずこの街で単独で関わって出来た縁に声をかけられたが、休暇らしい一日を過ごすことができた。
日も沈み始め、今は彼女と共にゴンドラに揺られている。

「…なんかあっという間だったわね」
「そうだなぁ」

建物の隙間から見えるオレンジ色の光を見ながら、そんな話をする。
ゆっくり進むゴンドラの上から改めてヴェネチアの街並みをと向かいにいる、街の人に手を振る彼女を眺めた。

「相変わらずの人気っぷりだなぁ」
「あら、それは嫉妬?それとも皮肉?」
「両方だ」
「悪かったってば。今度からはちゃんと報告するから」

困ったように、彼女は笑う。
この街で、彼女は自分の知らない多くの横の繋がりを持っていた。彼女の仕事を把握しているわけではないが、愚痴やら雑談の中で内容は拾っている。恐らくここで出会った人物の多くは仕事の途中での人助け、『仲裁役』として独断で関わった案件はあの一件ぐらいだろう。
彼女もバカではない。役職がある身分で下手に問題に首を突っ込めば、問題の拡大や余計な抗争に発展しかねないことは承知している。

「(いっそボランティア団体にでも就いた方が有意義に生きれるだろうになぁ)」

今回『和解』に持ち込み終息しているが、結局は彼女一人で収拾できずボンゴレを巻き込んでしまっている。火種を踏めば火の粉が飛ぶ。首を突っ込んでおいて無関係ですとはしらを切れるほど、世の中甘くはない。
自分の知らないところで動くのは勝手だが、今回のような襲撃に遭った際、こいつはどうするつもりだったのか。

「……いつでも助けてもらえると思うなよぉ」
「肝に命じておきます、隊長。私だって死にたくはないもの」

可能な限り危機に駆けつけてやりたいが、生憎身体は一つだ。彼女自身がある程度危機を回避できなければ、この先生き残る事は難しいだろう。

「(だが、あんな思いを二度も三度もするのはごめんだ)」

自分の目の前で、彼女が息絶えるような場面に立ち会うのは。

ゆらりゆらりとゴンドラが揺れて進む。日も随分沈んできた。あと数分で完全に太陽は隠れてしまうことだろう。
真守が少し眉を寄せた。

「っぷ……、」
「お前ホントに酔いやすいなぁ」
「仕方ないでしょ…。今日はまだ良い方なのよ」

若干顔を青くしている。酔い止めは飲んだはずだがな。彼女はミネラルウォーターを口にして、酔いを誤魔化すように話を続ける。

「それにしても、あなたがここを選んだのは少し意外。ヴェネチアを一望できるリストランテとか貸しきってきそうだったけど。何か思い入れでもあるの?」
「別にねぇが…そうだな、強いて言うならそこの伝説に用があるってだけだぁ」
「伝説?」

ゴンドラの定番コースになるぐらいの有名なものだが、彼女はそれも知らないらしい。

「ため息橋ってのは、投獄される囚人がヴェネツィアの景色を見られる最後の場所なんだぁ。その囚人がそこでため息をつくところから、十九世紀にジョージ・バイロンが『チャイルド・ハロルドの巡礼』の中でBridge of Sighsと呼んだのが初めだと言われてる」
「あら、ガイドブックを暗記でもしてきたの?」
「観光地のつまらねぇ由縁なんて態々覚えるかよ」
「とりあえず全部聞こうかしら」

口元をゆったりと吊り上げる彼女に、茶化されている気分を感じながら話を続ける。

「リトル・ロマンスっつー、ため息橋をモチーフにして作られた映画があってなぁ。伝説を知った少年と少女がパリからヴェネツィアへ旅をし、一方で彼女たちの家族は誘拐されたと思い大騒ぎになる話だ。それでその橋が有名になって今やゴンドラの定番コースって訳だ」
「あなたの口から恋愛映画の話が出るとは思わなかったけど、ロマンチックな話ね。あなた好みと言えば好みなのかしら」
「言っとくが、観たわけじゃねぇぞぉ。埃くせぇラブロマンスなんて興味ねぇからなぁ」
「でも願掛けで髪伸ばすぐらいにはロマンチストでしょ?」
「古風と言え」
「同じことじゃない」
「気分の問題だ。人から変だと言われるより個性的だと言われる方が幾分いいだろぉ」

ああいえばこういう。まったく、ムードってもんを考えねぇのかぁ?そう文句を言えばきっと、そういうところがロマンチストなんだと言われるから口には出さないが。
それで?と、真守は膝に頬杖をついて問い掛ける。

「その肝心な伝説って、日没前にこの橋をみると何か良いことでもあるの?」
「あ"あ"?今の話を聞いて分からねぇのかぁ?」
「分かるわけないでしょ、その話自体初めて聞いたのに」
「察せれるモンぐらいあんだろぉ」
「………、流れ星にお願いするとかある特定の条件でしか見られない光景とか、偶発的に出現するものに対するご利益とか、そういうものではなさそうってことぐらいよ」
「……で?」
「……、日没前にここに来ると牢屋に入らなくていい。…ああもう、何よ愉しそうにしちゃって。分からないんだから教えなさいよね」

不貞腐れた適当な言い方だな。それじゃあ映画の件関係なくなるだろぉ、なんていったら余計拗ねてしまうだろうから黙っておくか。答えを引っ張られて些か不服そうに唇を尖らせる。
日が沈む。二人の顔に橋の影が落ちる。

「安心しろぉ、答えならすぐ教えてやる」

薄く笑った意味を、彼女は分からないようで首をかしげた。
そんな彼女の顎に手を掛けて、薄桃色に飾った唇の上にリップ音を重ねた。柔らかい感触を感じながら、突然の行動に驚いて身を引く彼女が落ちないように背中に手を回す。ゴンドラが、少し揺れる。
橋を潜り抜けると唇を離し、彼女の顔を視界に映すとさっきまでの余裕が息を潜めていた。何が起きたと言わんばかりに動揺の色を浮かべる。三十になっても、こういう素直な反応が出るから止められねぇんだよなぁ。
舌舐めずりをすると、眉を潜めて口許を手の甲で隠す。さながら、狼狽してることを隠すように。バレバレだけどなぁ。

「はッ……、な、なに」
「この橋の下で日没時、」

親指で赤みを帯びた頬をなぞる。

「恋人同士がキスをすると、永遠の愛が約束される。これが答えだぁ」

不正解だなぁ、と口角を上げると、真守は変わらず唇を一文字にして不貞腐れていた。だがそこに不機嫌さはない。
何となく予想はあったのだろう、呆れ調子で彼女はいう。

「………、やっぱりロマンチストじゃない」

呆れ調子で、くしゃりと無邪気に笑った。

ゴンドラを降りて、明かりが点り始めるヴェネチアの陸路に再び足を揃える。
自分の肩に頭のある彼女に視線を落としてみると、同じように見返してきた。さっきのこともあって少し気恥ずかしそうにするも、はにかむ彼女に思わず唇を寄せる。こめかみに落とされた口付けに、照れる様子がまたクセになる。
今度は黙っていないぞと、お返しをするように俺の左手をとって薬指に控え目にお返しをする彼女の何といじらしいことか。これはまた抑えが効かなくなりそうだ。
水路を離れて、賑わう陸路を共に歩く。ため息橋が遠退いて暗闇に飲まれていく。

「(日没時に、ため息橋の下でキスをすると永遠の愛が約束される、か)」

あの約束先の多くは、神様や信仰先に向かうのだろう。それはそうか、人のすることには限界があるし運にだって左右される。偶然を必然ととるか奇跡ととるかは個々によるが、遥か先までの未来を少しでも良いものにしようと思えばそういった偶像に頼りたくなるのも無理もない。良くも悪くも自分の行動の結果全てが、自分の力量が招いたものと思うのは些か傲慢というものだ。
だが神様を信じない奴は、一体誰に向けて約束を取り付ければいいのだろう?

「(んなもん、言うまでもねぇなぁ)」

俺は何も、カミサマに約束してもらうとは一言も言っていない。
俺は、傲慢な男なのだから。

「……何笑ってるの?」
「なんでもねぇ」
「また秘密?ちょっとは教えなさいよ」
「なんでもねぇって言ってるだろぉ」

ケチくさいなあとぼやく彼女の頭を宥めるように撫でる。さて、機嫌を取り戻さないとなぁ。
次の場所に向かうべく、街灯と店の明かりに照された街を真守の手をとって歩いていく。




ため息橋を通ったあと、彼が予約していたリストランテに向かい食事をしてホテルに戻った。明日には本部に戻らなければならないとあって、昨晩と同様に、いや、より密な夜を過ごすこととなった。
既に夜は明けていて、痛む身体を彼に支えてもらいつつ身支度を整える。
もう旅客機はヘリポートに着いている。ヴァリアー本部にも本日正午ぐらいに戻ることを連絡した。彼は夕方頃に戻れば良いだろうと言うが、無理を言って休暇を延ばしてもらった側としては、あまり遅くに戻るのもどうかと思う。何より、昨日戻るはずだった私達の代わりに仕事をしている幹部の皆がどうしているかが気掛かりというのが本音である。過労死してないだろうか。まぁ、各々が適度に気を抜いてるだろうからそんなに心配しなくてもいいのかもしれないが……、大丈夫だろうか。
身支度を整え、お土産も持って部屋を出る。

「忘れモンはねぇか?」
「確認したから大丈夫よ。ちゃんとヴェネチアンマスクも入れたわ」
「……それ、要るかぁ……?」
「要るの」

何度言わせるの、と返すも彼は渋い顔をしている。来る機会がないのだから、インパクトのあるものじゃないと思い出として残らないでしょうに。
キーをボーイに返して、ヘリポートに向かう。扉を開ければ強い風が吹き込んでくる。服と髪が風に遊ばれながらヴァリアー専用旅客機に乗り込む。
機内にはファーストクラス並の座り心地抜群の座椅子に、備え付けられたテーブル。近くには冷やされたワインまで。もはや機内というより高級ホテルの一室のような気さえ感じる。至れり尽くせりとはこの事だ。
各々席につくと離陸のアナウンスが流れ、機体が揺れる。安定した高度になると機内は揺れや振動は殆ど影響はなく、テーブルにワイングラスを置いても動くことはない。

「う"ぉ"お"い、真守」
「ん?」
「休暇はどうだった」
「…そうね。色々ありはしたけど、有意義だった。楽しかったわ、ありがとう」
「はっ。当然だなぁ、今度はジャッポーネにでも行くか?」
「ジャッポーネなら今度は私が案内しましょうか?といっても、穴場は知らないから本当に観光地巡りになるだろうけどね」
「露天風呂がある旅館にしろよぉ。あと旨い刺身もだ」
「でも今回のこともあるし、次いつ休暇とれるか分からないわよ?」
「それを楽しみに仕事すんだろぉが」
「……、そう」

ホントにそういう不意打ちはやめてほしい。楽しみにしてるなんて言われたら私も頑張るしかないじゃない。
にやけそうな口許を抑えて誤魔化すように窓の外をみる。
すでにヴェネチアからは離れ、雲の上を滑っている。あと一時間もしないうちに本部に着くことだろう。
もう休暇も終わり。明日から(もしかしたら戻ってから)仕事が待っていると思うと、名残惜しいと同時に憂鬱な気分になる。
ちらりと隣をみると、背もたれを倒して安楽な姿勢で目をつぶる姿があった。

「(まぁでも、また次回を楽しみにしようかしら)」

お互い旅行の疲れもあって言葉を交わすことなく時間が過ぎ、暫くすると着陸のアナウンスが流れる。機体が傾き、窓の外をみると見慣れた風景と建物が近付いていた。
徐々に高度を下ろしていき、ヘリポートに着陸する。動きが止まったのを確認して旅客機を降りて地面に足をつけた。

「帰ってきちゃったわね」
「そうだなぁ」

快晴の空の下、再び風に吹かれながらスーツケースを引いてヘリポートから本部内に戻る。本部内は隊員が忙しなく動いていた。任務の事や雑用の事だろうか、やたら書類を持って廊下を移動している。
すれ違う隊員から、おかえりなさいと声を掛けられる。ああ、そういえばお土産があったんだ。一人隊員に声をかけて、お菓子を二つ渡す。皆で食べてくださいいえいえそんなお気遣いありがとうございますと頭を下げられた。居ない間どう動いてくれてたのかは分からないが、大変だったことは伝わる。何故か?それは顔や腕に傷をつけて目の隈があったからだ。原因は察してもらえると思う。
それから一旦スーツケースを置いてお土産を持って、皆が居るであろう談話室のドアノブを捻った。中には優雅に紅茶を飲むルッスーリアとフランの被り物にナイフを投げてるベルの姿があった。

「ただいまー」
「あらシバちゃん、スクアーロ。おかえりなさーい、向こうでひと悶着あったようだけど、大丈夫だった?」
「ったりめーだぁ。あんなぺーぺーのぺー相手に手間取るわけねぇだろぉ」
「まぁ丸くは収まらなかったから後で本部に報告に行かなきゃならないけどね」
「そう?無事ならいいけど。それで、どうだった?ヴェネチア旅行は」
「とても楽しかったわよ。はい、これお土産。良かったら食べイテテテ」
「シバノ副隊長ー、なんか動きぎこちないですけどどうしたんですかー?」
「え、あ。いや」
「しししっ、んなもん決まってンだろ。それを聞くのは野暮だぜ」
「あーなるほどー、察しましたー」
「う"ぉ"おい!!余計な詮索してんじゃねぇえ!」
「つーか何だよこの仮面」
「ヴェネチアンマスク。素敵でしょ、自分用のお土産」
「これをお土産に選ぶとか、ましてや自分用なんて副隊長のセンスを疑いますよねーゲロッ」
「自分用なんだから何だって良いでしょ。ね、スクアーロ」
「…………お"、お"う"」
「おいこら、何その間は。………あれ、そういえば一人足りない…。レヴィは?」
「レヴィさんならそこの紙の家に居ますけどー」

ある一角に、ピサの斜塔みたいに不安定な紙のタワーが出来上がっていた。 その中に囲まれるように埋もれる見慣れた後ろ姿。

「う、ご……」
「レヴィ?!どうしたのホームレスみたいに痩せこけて……!」
「ぼ、……ボスの…絶大なる信頼を、え、得るためには……これ、ぐら………い……」
「お前ら……こいつに仕事丸投げしやがったなぁ?!」
「私はやることやったわよ?ベルちゃんたちは知らないけどね」
「デスクワークなんてするわけねーじゃん。だって俺」
「堕王子だもん(笑)」
「誰が堕王子だッ!(笑)とか付けんな!」
「しかも直しとか催促とか来てる……、しかも期限明日までじゃない!!」
「失礼します!スクアーロ隊長ご報告します!隊員五名が負傷にて除隊になりました!」
「はぁ"あ"?!除隊ってどういうことだぁ!!」
「そ、それが…御不在中に任務があったのですがその際に一名、残り四名はザンザス様に…」
「あんのクソボス……!!」

お互い大変な事態のよう。
私は案の定の展開にため息をついた。

「読みは外れてなかったわね」
「全くだぁ……」

彼も額に手を当てて同様にため息をつく。とりあえずボス宛に高級酒とお酒のお供を買ってきたのでそれを彼に持たせる。もし口に合わない場合は彼が酒瓶で殴られるわけだが、これ以上の被害を出すわけにはいかない。頼むよスクアーロ、と背中を押すととても嫌顔をされた。
休暇の余韻に浸る暇もなく雪崩れ込む様な現実に、気持ちを切り替える。

「さて、お仕事頑張りますか」


これにて、イタリア旅行記お仕舞い。
また次の旅行で。

Arrivederci.


(2017.11.23)


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