お子様の取り扱いにはご注意をA


部屋に戻ってきて真守を下ろすと、部屋の中をうろうろしだした。場所が変わったことで物珍しさを感じているらしい。見飽きるほど来てる筈だが…記憶もなくなってるということか。まあそれはそうか、精神も退行してるんだからなぁ。

「にしても……、」

チョロチョロ動き回る真守を眺めていて、思うことがある。

「……うー…、」

なんというか、癒しだな…。
抱えていたときもそうだがあのサイズ感と肉感……、元の姿とはまた違う体の柔らかさ、ずっと触ってても飽きねえな。見た目もさることながら、覚束無い足取りでよたよた歩く姿がひよこのようで大変和む。目は離せないが。

「(ガキなんかと関わる機会なんて皆無だからなぁ……)」

仕事上、命を取ることはあっても世話をすることは俺にはない(真守本人は上から押し付けられたことはあるようだが)。未だにどう対応すべきか悩むし、こいつがどういう行動を取るかも未数値だが…、見てる分には悪くねえ。あいつも今でこそ凛とした態度を取るが、昔はこんな感じだったのかと思うと可愛らしく見える。元の姿も充分だが。
しかし問題は…、

「って、そんなとこ潜るんじゃねぇ!汚れるだろぉ!」
「……!」

椅子の下に潜り込もうとする真守を引っ張り出すと、矢張表情が強張り引きつっている。泣かれないところが救いだ。

「(また泣かれるよりマシだが……、ん"ん……)」

これが真守ということも相俟って、にこりともされないのは些か傷付く。ルッスーリアのときはもっとリラックスしてなついてたんだが…、何が悪いってんだぁ?声量か?口調か?顔だって言われてもどうしようもねぇしな……。
そう思いながらベッドに腰掛け少女を膝の上に乗せる。依然マネキンのように動かない少女を見下ろした。

「……お前ホントに真守かぁ?ガキの頃はこんなにビビりで泣き虫だったのか?」
「……、…う"ーーー……」

名前に反応して頭が動くがすぐに俯いてしまった。とりあえず抱えたままでいるが、じっとしてられないのか腕の中でもぞもぞと動いて抜け出そうとする。大人と違って力こそ弱いが加減しようという気はないし、何かまた唸り始めた。なんて扱いにくいんだガキってやつは…。
そこでふと、
この小さな手が、僅かに震えているのが目に入った。

『あなたが感じてることは、この子にも伝わるのよ』

オカマ野郎の言葉がよぎったのは不本意だが…、腹に手を回して膝の上に何とか居させ、真守の頭に手を置いてみた。見えないところから触れられたというのもあるだろうが、何かされると思ったのか過剰に肩が揺れる。まぁそう思うのも無理はないか。
だが、別に危害を加えようって訳じゃねぇんだ。
少女の頭に乗せた手で、宥めるようにぽんぽんと頭を撫でる。

「なにもしねぇよ。なにもしねぇから、そう構えるなぁ」
「………、!」

暫く撫でてると肩の力が抜けてきた。少しは警戒が解けたか……?
すると、唐突にくるりと顔をこちらに向けた。今度は直ぐに俯かず、こちらを見詰めてくる。この世の汚いものなんて見たことないというような、純粋な目で見られるのも何か気まずいな…。真ん丸いどんぐりみてぇな目は可愛らしいが。
興味を注がれるようなことをしただろうかと戸惑いながら言葉を待ってると、ノック音が聞こえた。こちらが返事をする前にドアノブが動かされる。

「スクアーロー、入るわよ。どぉ?仲良くしてるかしら〜ん?」
「……、ルッスーリア」

姿を見ると、真守は腕からすり抜けてルッスーリアのもとへ駆け寄った。居なくなった空間に物寂しさを感じつつも、何ともない体を装い、声をかける。

「何のようだぁ」
「んま、まだ避けられてるの?ダメねぇスクちゃん」
「うるせぇ!ガキは専門外だ。……で、首尾はどうだぁ」
「本部内にはそれらしい人も気配もなかったわ。シバちゃんの部屋も荒らされた形跡はなかったし…、もうここには居ないんじゃないかしら」
「だとしたらこいつをガキにした意味が分からねぇ。犯人は幼女趣味かぁ?」
「それ、あなたにも言えるんじゃない?」
「んだとぉ?!」
「もう少し警戒はしておくわ。あ、そうそう!この子の服を持って来たわよ〜!いつまでもぶかぶかの隊服を着せてるわけにはいかないからねん」

がさ、と紙袋を揺らす。確かに、サイズのでかい服のままでいさせるのは不味い。服はぼろぼろになるし転びかねないいやなにより、今こいつは下着もなにも身に付けていない。ぶかぶかな服じゃチラリズムなんてレベルじゃ済まされない。
ということで、ルッスーリアが持ってきたという服を見てみることにした。紙袋の中から服を一着取り出し、広げてみる。袋の中には下着類も入っている。確かにこの小ささじゃ元の下着なんて使えねぇからなぁ。
…………、……ちょっと待て。

「………、てめぇ、サイズはどうした」
「そんなの抱っこと見た目で分かるわよ。これぞ、ヴァリアークオリティーよぉ〜〜〜っ」

……この分野においては俺にはできねえ芸当だなぁ。
すると袖をぐいぐいと引かれた。どうやら真守も紙袋の中を漁って、気に入った服があったらしい。これ!と広げて見せた服をルッスーリアが着せてあげると言ったが、そこは俺が着せた。何でかって?子供でも真守は真守だ、他のやつに素肌見せたくねぇだろぉ。
服を着せてやると新しい玩具を貰ったように目を輝かせてご満悦な真守。膝下までの紺色ワンピースに白の丸襟と袖口、頭にはリンゴ型のペレー帽。大人には大人の魅力があるが子供には子供のまた違う魅力があるもんだな。
真守は嬉しそうにワンピースの裾を持ってお披露目しに行く。

「んまぁ!とっても可愛いわ〜!やっぱり私の目に狂いはなかったわねぇ、んふふふっ。にしても、あんたパーパみたいねぇ。様になってるわよ」
「う"ぉ"お"い!誰がパーパだぁ!」
「………、」

その時、ぼす、と足に何かがぶつかってきた。何かと目線を移してみれば、真守が足にしがみついてきていた。何かと思ったが特に何もなく、ズボンに顔を埋めてちらりと見上げてはにかむ様に言葉が詰まった。くそ、これが子供の力か……。

「あらやだ、思いの外なついてるじゃない」
「……はっ、当然だろぉ。俺と真守なんだからなぁ」
「それじゃアタシは行くわね。引き続き頼むわよ、パーパ」
「だからパーパじゃねぇつってんだろぉが」
「るっしゅ」

ばいばいと小さな手を振る真守に手を振り返してルッスーリアは部屋を後にした。
再び部屋に二人だけになり、しんと静かになるかと思えばそんなこともなく真守は元気に走り回る。疲れ知らずか子供ってやつは…。

「(ん……?そういやぁ…)」

ルッスーリアのことをさっき呼んでたが…、俺の名前は言えるのだろうかという疑問が湧いた。この姿になってから、まだ一度も呼ばれていない。まぁ、精神的に後退しているから覚えてないのは当然だが(恐らくルッスーリアは最初コンタクトを取った際に教えたんだろう)。そもそも俺が誰かという認識もどうなってるのか怪しい。 最初の反応からして、恐らく見知らぬ人という認識なんだろう。今は慣れて知り合いぐらいな感じかあ?
………、少し確認してみるか。
走り回る真守を呼び止めるとぱたぱたと近寄ってくる。ホントにヒヨコみてぇだな。いや、それは置いといて。

「……、お前、俺の名前が分かるかぁ?」
「……?んんぅ」
「顔は覚えてるか?」
「……しあない」

やっぱりか…。……つーか知らない奴と居て平然としてるこいつが心配になってくるな。戻ったら知らねぇやつには着いてくなって言ってやらねぇと。

「いいかぁ?スクアーロ、だ」
「……?しゅくあーろ?」
「しゅ、じゃねぇ、スだ。スクアーロ」
「しゅくあーろ」
「ス、ク、アー、ロ。おら、もう一回言ってみろぉ」
「しゅ、く、あー、ろ!」

あ"ーーーーーっ!と子供らしからぬ声をあげるがにこにこ笑っている。なんだこの可愛い生き物は。
正しい発声をさせるのは無理らしいがとりあえず覚えはしたようだ。
その時、俺よりふた回り以上小さい手が伸びてきた。動向を見守りつつも思わず体を反らしてしまったが、どうやら興味は髪にあったらしい。髪を引っ張られつられて頭がガクンと傾く。

「う"、お"っ……!な、何すんだぁ」
「しゅくあーろ、にへへ」

玩具でも見つけた気でいるのか……、まぁとりあえず最初のような警戒は解いたようだ。
髪をいじられながら、さてこの後どうしようかと考える。

「あー……、茶でも飲むかぁ?」
「…!のむ!」

ぱぁあ、と表情を明らめる真守が眩しい…。目が眩むような無邪気さに目を覆いつつお茶を用意する。
あいつがよく部屋に居てお茶を飲みたいと言うから棚に常備してたのが役に立ったな。ただ基本飲むのはあいつだから俺が準備することは少ない。やらないことはないが、薄いだの濃いだのと文句を言われるからあまり手を出さないというのが正しい。
ポンポンと急須に茶葉を入れていたが、ふと手が少し悩んで止める。

「(今は子供だからな…、味は薄い方がいいか。いや、飲みもんだし別にそこまで気にすることはない…か?)」

子供の味覚がどんなものか想像できないが、とりあえず温い方がいいだろう。熱いと火傷するかもしれないからな、ガキは色々柔そうだし。
氷を取りにいこうかと思うが、まだ本部内に侵入者が居るという可能性が消えていない。不用心に連れて歩き回るのはあまり得策ではないだろう。あと、好奇の目に晒されたり茶化されたりするのが癪だ、鬱陶しい。部屋に一人にするのも心配だが…、まあ刃物だったり危険なものは遠ざけて見えない位置に仕舞ってあるし…、大丈夫だろう。
お茶お茶と待機してる真守に、目線を落とす。

「ちっと離れる。いい子で待ってろよぉ」
「……、いや。どこいくの?」
「少しだけだぁ、五分程度で戻る。約束だ」
「……う"ー………」

少し愚図ったが、分かってくれたようだ。行ってくる、と軽く頬に口付けると柔らかい感触が伝わる。ずっと触れていたくなるような柔肌だな…、あとで堪能するか。
扉近くまで来て不安そうに見上げる真守に後ろ髪を引かれるが、出てこられては困る。すぐ戻ってくると声をかけて扉を閉めた。
だが、これが失敗だったというのを俺は十分後に知る。

十分後、戻ってくればそこには開けっ放しの扉と誰も居ない部屋がそこにはあった。



(2018.1.10)


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