お子様の取り扱いにはご注意を@
「あ"ー…くそ、疲れたぜぇ……」
こっちは暗殺部隊だっつってんのに何で護衛しなきゃならねぇんだ、それなら本部の守護者どもにやらせりゃいいだろぉが。ちまちま戦うのは性に合わねぇ。ああ、盛大に暴れられる任務は来ないものか。これじゃストレスが溜まる一方だ。
そんな不満を垂れ流しながら、談話室に入る。
と、最初に目に入ったのは、自分と同じ隊服を着た誰かがソファに横になってる姿だった。
「……んだぁ?」
確か今他の奴らは各自任務と仕事で散っている。居るとしたら真守か?シリアの会合に付き添っていたと聞いていたが、戻ってきてたのか。
疲労が溜まると自室まで戻らずここで寝ることが度々ある。部屋に戻ってから寝ろっつってんだけどなぁ……。
「う"ぉ"お"い、そんなとこで寝てんじゃねぇ。また体がいてぇとか言う羽目に」
仕方無い奴だと思い近付くと、異変に気づく。
彼女は三十歳の大人だが、服のサイズが可笑しい。何故こんなにもでかいんだ?ズボンから足が出てねぇじゃねえか。というより、そもそも立体性もない。着衣した様子のまま本体がいない、という不可思議な状態だ。
更に近付くと、可笑しいというレベルではない自体が目の前に姿を見せた。
「………あ"ぁ"?」
誰だ?このガキは。
そこには、ソファに横たわってすやすやと眠る子供の姿があった。
歳にして三、四歳。隊服を布団のようにして無防備に寝息を立てている。このボンゴレ最強の暗殺部隊ヴァリアーの本部で、気持ち良さそうに。
「(………状況が、理解できねぇ。まず何処から入ってきやがったこいつ)」
人生初の事態に、何とかそれらしい理由を探ってみる。
迷い混んできた?それなら隊員が追い払うだろうし、わざわざ中まで入れはしない。まさかどっかの組織の令嬢か?匿ってくれとか少しの間見ててくれとかそういうやつか?宅育所じゃねーんだぞここは……、と言いてえが、以前真守がそう言う仕事を引き受けていたらしい。ならこれもそうか?だがそんな話は来ていないし、仮にそうならここに独りで寝かせてるのも可笑しな話だ。
こいつは一体なんなんだぁ?
「しっかし……真守によく似てんなぁ…」
黒髪にこの寝顔、彼女を退行させたらきっとこんな感じなんだろう。………いや、まさかな。
そんことを思ってると、もぞりと子供が身じろいだ。
「ん、んん………」
寝返りをうって、少し意識が浮上してきたのか薄く目を開けた。子供の視界に映るようにしゃがんで、反応を見ることに。
ぼんやりした視線が交わると、目の前の状況を捉えて次第に目が見開かれていく。漸く覚醒したらしい。さて、事情を聞き出すとするか。
ぎらりと、剣をちらつかせながら問い質す。
「う"ぉ"お"い、てめぇ何者だぁ。どっから入ってきやがった、ゲロっちまわねぇと痛い目に」
「ひ、ぃ!」
「あ"っ!待てクソガキぃ!」
剣を見た瞬間体を強張らせて、一気に表情が恐怖に染まる。ほぼ反射的に逃げ出そうとする少女の腕を掴もうと手を伸ばしたが相手はガキ、サイズを見誤り腕ではなく袖を掴んでしまった。まぁ捕らえられるならどちらでもいいか、などと思っていたらガキは逆にバランスを崩して顔面から着地。ガツン!と痛々しい音がする。
しまった、これは少しやり過ぎたか。と反省したのも束の間、鼻をすするイヤな音を捉えた。もぞりと小さな体が蠢いて、その音はあっという間にボリュームを上げて、
「い、たい、っ………!ふ、え。ぅあぁ"ーーーーーーーーーーッッ!!」
「う、お"っ?!」
全力で泣き出した。
わんわん泣く真守似の子供に、思わずたじろぐ。これはたまったもんじゃねぇ…!なんつー声量してやがる。
恥も体裁もない大泣きは屋敷中に響く勢いで、軈てバタバタと誰かが耐えきれずに談話室の扉を開けた。
「ちょっとぉ!煩いわよ!何なのよこの声、上まで響くじゃない!」
「ルッスーリア!丁度いい、こいつを何とかしろぉ!」
「はぁ?」
つんざくような声に耳を押さえながら、オカマ幹部ルッスーリアに助力を求める。
ぐしぐしと涙を拭うも溢れるように溢れて手も顔も濡れた少女を見て、緊急会議を発足した。
「ぅ、ひく、ひッぅ」
「あらあら。スクアーロ、あなたどこから拾ってきたのよ」
「俺なわけあるかぁ!ここで独りで寝てやがったんだ!」
「独りで?」
ルッスーリアもこの事態に首をかしげる。そりゃそうだよなぁ、分かるわけねぇか。ホントにどこから来やがったんだ。
唸っていると、それにしてもとルッスーリアが少女を見て呟く。
「でもこの子、シバちゃんにそっくりねぇ。妹かしら」
「あいつに妹がいるなんて聞いたことねぇぞ」
「何にせよ、名前ぐらいは教えてもらわないとね」
まだ嗚咽を溢しているものの次第に泣き声が治まってきた。助かった、ずっと泣きっぱなしでいられたら鼓膜が破れるところだ。
ルッスーリアがしゃがんで、少し優しめの声色で問い掛ける。
「あなた、お名前は?」
「……、ひッ、ぅ。ま、もる…」
「はぁ?!」
声に反応してびくつく少女を目にしてちょっとスクアーロ、また泣くでしょと釘を刺され、口を結ぶ。
まもる、真守だと?まさか本当に?いや、待て待て。同名ってこともある。まだここで結論付けるのは早計ってやつだ。……しかしこのヴァリアー本部を知ってる人間の中で、『まもる』と名前のつくのは彼女しか該当しないが……。
「………苗字は?」
「しばの………」
…………、嘘だろ…。
ルッスーリアも半信半疑の状態で、本当に彼女なのかを確かめる。
「……、あなた、シバちゃんなの?」
「………、?うん……」
「歳は?」
「さんさい…」
「好きなものは?」
「おちゃ……」
「住んでるところは?」
「にほん。……あ、でもいまはいたいあにいる!」
「イタリアね。魚といえば?」
「かわはぎ!」
少女とひとしきり話をしたあと、俺のところに戻ってきた。緊急会議を再開する。
「身体も精神も退行してるけど、シバちゃんに間違いはないようね。この隊服も彼女のものだし」
「三歳つったが指は四だったしな。…だとしても何でこんなザマになってんだぁ?敵の攻撃か?」
「私に言われてもねぇ……、これが幻覚の類いならフランになんとかしてもらいたいところだけど…。幻覚云々を抜きにしてもこの状況は不味いかもしれないわね」
「真守のやつはボンゴレの外交官的な一面も担ってるからなぁ…、ボンゴレの情報は勿論同盟ファミリーや他組織の内情を知っている。まあ、この状態じゃ喋れるもんも喋れねぇだろうけどなぁ」
「ボンゴレを潰して名を挙げたい輩は星の数ほど居るだろうし、アタシたちも買うものは恨みばかりだものねぇ。もしこれが侵攻の一部だとしたら、相当厄介ね。フランちゃんは今任務かしら?」
「あいつならあと一、二時間で戻ってくるはずだが……。……ん"?ありゃあなんだ?」
床に小さな小瓶が落ちている。この部屋では見たことないものだ。
「小瓶?何か入っていたようねぇ」
「これをお茶に入れられて……ってことかぁ?おいおい、んな怪しげなもん飲むたぁ気が緩みすぎなんじゃねぇかあ?」
「あの子、疲れるとぼんやりしちゃうからねぇ……」
「後でたっぷり説教してやらねぇとなぁ」
さて、それまでこいつをどうするかだ。
敵の気配はないし、そもそもヴァリアー本部に乗り込んでくる命知らずがいるやつがいるのかというところだが…。しかし、これが幻覚だとしたら見破る術は正直ほぼない。殺気やら気配やらで探ることはできるが…、術士でない以上ここまで違和感をもなくされては本物か偽物か見分ける手立てがないのだ。それに、侵入者の意図もまだ分からない。本部内に居ることは充分考えられる。
本部内を捜索と同時に、このガキはフランが戻ってくるまで隔離、監視しておくのがベストだが……、
「……あら?あの子は?」
ルッスーリアの声でハッと顔を上げる。しかしそこに少女は居らず、忽然と姿を消していた。
「……?!あのガキ、どこに……」
見渡すが姿が見えない。あの身長でドアノブに手が届くとは思えないが、万が一にもここから出ていかれたら厄介なことになる。
……と、そこまで考えていたがなんてことはなく、戸棚に置いてあるお菓子に手を伸ばしていた。
「う"ぉ"お"い!勝手にどっか行くんじゃねぇ!!」
「っ!!……ぅ、え」
「ちょ、ちょっとスクアーロ!」
「あ"、」
表情を歪ませ、目に涙が溜まり出す。不味いと思ったが時既に遅し。
二度目の爆発のような泣き声に屋敷中が震えた。
何とか大泣きは治まり、事態の整理をする。
何者かが本部に侵入し(または身内か)小瓶に入っていた液体を飲み物に混ぜて真守を縮ませた。目的は不明だが特に襲撃や異常が起きる様子はない。まだ機会を伺ってるのかもしれないが…警戒しておいて損はないだろう。
ひとまず不審者の捜索と幼くなった真守の監視をすることとなった。
「って、俺がかぁ?!」
「っ!!」
「だから大きな声出さないの。また泣いちゃうでしょ」
あんたが一番親しいんだからあんたが面倒を見ろと言われたが、さっきの有り様を見たら結果なんて分かるだろうが!まぁルッスーリアにはなついて、俺には大泣きってのもショックはショックだが…、ちいせぇ頃の真守はこんな泣き虫だったのかぁ?
ルッスーリアに抱えられ落ち着いてる真守をちらっと見ると、ふいと顔を背けられた。理由なき胸の痛みが俺を襲う。
「つーか、お前になついてんだからお前が見てればいいだろぉ」
「見ていたいのは山々だけど、アタシだってやることがあるのよ?服だってこのままにしておくわけにはいかないし。あなた、この子の服買いに行けるの?」
「ぐ、ぅ………それはそうかもしれねぇが…、やることあるのは俺も同じだぁ!」
「とにかく、小さい子は大きな声に敏感なのよ。びっくりさせてまた泣かせないでちょうだいね。あなたが感じてることはその子にも伝わるものよ。まぁ、まずはその怖い顔を止めなさいね」
「うるせぇ!顔は元々だぁ!」
「それじゃ、頼んだわよお兄ちゃん」
はい、と抱えていた真守を差し出される。しかし真守は引き剥がされると不安になったのか、一気に表情が歪んだ。まるで母親から離されるような不安な顔に、俺が悪いわけではないが罪悪感が湧く。
「またね、シバちゃん」
「ふ、ぅえ………う"ーーーッ……」
ルッスーリアがいい、というように体を捻って手を伸ばす。この不条理に嫌われるは流石の俺でも胸が痛い。ああ、目に涙が溜まり出した。まずい、また泣かれる。だが子供のあやし方なんて知るわけがない。どうする……! やり方を知らない俺ができることは、腕につけていた剣を真守の頬に近付けて、
「う"ぉ"おい、ぴーぴー喚くんじゃねぇ!刻むぞぉ!」
「ひッ……!」
強引に泣き止ませることぐらいなもので。
案の定びくり、と体を強張らせて固まった。泣くのは阻止できたが、これはこれで複雑だな……。
まるで強盗犯が人質とったみたいねと言われ全くその通りだと思うが、うるせぇと返しておいた。ルッスーリアは服の調達をすると言って談話室から出ていく。
二人談話室に残された。さてどうするか……。真守はビビって固まってるし、他のやつにこの姿を見られるわけにもいかない。
「一旦部屋に戻るか……」
子供の真守を抱えたまま、彼女の衣類を手にして談話室を後にした。
こっちは暗殺部隊だっつってんのに何で護衛しなきゃならねぇんだ、それなら本部の守護者どもにやらせりゃいいだろぉが。ちまちま戦うのは性に合わねぇ。ああ、盛大に暴れられる任務は来ないものか。これじゃストレスが溜まる一方だ。
そんな不満を垂れ流しながら、談話室に入る。
と、最初に目に入ったのは、自分と同じ隊服を着た誰かがソファに横になってる姿だった。
「……んだぁ?」
確か今他の奴らは各自任務と仕事で散っている。居るとしたら真守か?シリアの会合に付き添っていたと聞いていたが、戻ってきてたのか。
疲労が溜まると自室まで戻らずここで寝ることが度々ある。部屋に戻ってから寝ろっつってんだけどなぁ……。
「う"ぉ"お"い、そんなとこで寝てんじゃねぇ。また体がいてぇとか言う羽目に」
仕方無い奴だと思い近付くと、異変に気づく。
彼女は三十歳の大人だが、服のサイズが可笑しい。何故こんなにもでかいんだ?ズボンから足が出てねぇじゃねえか。というより、そもそも立体性もない。着衣した様子のまま本体がいない、という不可思議な状態だ。
更に近付くと、可笑しいというレベルではない自体が目の前に姿を見せた。
「………あ"ぁ"?」
誰だ?このガキは。
そこには、ソファに横たわってすやすやと眠る子供の姿があった。
歳にして三、四歳。隊服を布団のようにして無防備に寝息を立てている。このボンゴレ最強の暗殺部隊ヴァリアーの本部で、気持ち良さそうに。
「(………状況が、理解できねぇ。まず何処から入ってきやがったこいつ)」
人生初の事態に、何とかそれらしい理由を探ってみる。
迷い混んできた?それなら隊員が追い払うだろうし、わざわざ中まで入れはしない。まさかどっかの組織の令嬢か?匿ってくれとか少しの間見ててくれとかそういうやつか?宅育所じゃねーんだぞここは……、と言いてえが、以前真守がそう言う仕事を引き受けていたらしい。ならこれもそうか?だがそんな話は来ていないし、仮にそうならここに独りで寝かせてるのも可笑しな話だ。
こいつは一体なんなんだぁ?
「しっかし……真守によく似てんなぁ…」
黒髪にこの寝顔、彼女を退行させたらきっとこんな感じなんだろう。………いや、まさかな。
そんことを思ってると、もぞりと子供が身じろいだ。
「ん、んん………」
寝返りをうって、少し意識が浮上してきたのか薄く目を開けた。子供の視界に映るようにしゃがんで、反応を見ることに。
ぼんやりした視線が交わると、目の前の状況を捉えて次第に目が見開かれていく。漸く覚醒したらしい。さて、事情を聞き出すとするか。
ぎらりと、剣をちらつかせながら問い質す。
「う"ぉ"お"い、てめぇ何者だぁ。どっから入ってきやがった、ゲロっちまわねぇと痛い目に」
「ひ、ぃ!」
「あ"っ!待てクソガキぃ!」
剣を見た瞬間体を強張らせて、一気に表情が恐怖に染まる。ほぼ反射的に逃げ出そうとする少女の腕を掴もうと手を伸ばしたが相手はガキ、サイズを見誤り腕ではなく袖を掴んでしまった。まぁ捕らえられるならどちらでもいいか、などと思っていたらガキは逆にバランスを崩して顔面から着地。ガツン!と痛々しい音がする。
しまった、これは少しやり過ぎたか。と反省したのも束の間、鼻をすするイヤな音を捉えた。もぞりと小さな体が蠢いて、その音はあっという間にボリュームを上げて、
「い、たい、っ………!ふ、え。ぅあぁ"ーーーーーーーーーーッッ!!」
「う、お"っ?!」
全力で泣き出した。
わんわん泣く真守似の子供に、思わずたじろぐ。これはたまったもんじゃねぇ…!なんつー声量してやがる。
恥も体裁もない大泣きは屋敷中に響く勢いで、軈てバタバタと誰かが耐えきれずに談話室の扉を開けた。
「ちょっとぉ!煩いわよ!何なのよこの声、上まで響くじゃない!」
「ルッスーリア!丁度いい、こいつを何とかしろぉ!」
「はぁ?」
つんざくような声に耳を押さえながら、オカマ幹部ルッスーリアに助力を求める。
ぐしぐしと涙を拭うも溢れるように溢れて手も顔も濡れた少女を見て、緊急会議を発足した。
「ぅ、ひく、ひッぅ」
「あらあら。スクアーロ、あなたどこから拾ってきたのよ」
「俺なわけあるかぁ!ここで独りで寝てやがったんだ!」
「独りで?」
ルッスーリアもこの事態に首をかしげる。そりゃそうだよなぁ、分かるわけねぇか。ホントにどこから来やがったんだ。
唸っていると、それにしてもとルッスーリアが少女を見て呟く。
「でもこの子、シバちゃんにそっくりねぇ。妹かしら」
「あいつに妹がいるなんて聞いたことねぇぞ」
「何にせよ、名前ぐらいは教えてもらわないとね」
まだ嗚咽を溢しているものの次第に泣き声が治まってきた。助かった、ずっと泣きっぱなしでいられたら鼓膜が破れるところだ。
ルッスーリアがしゃがんで、少し優しめの声色で問い掛ける。
「あなた、お名前は?」
「……、ひッ、ぅ。ま、もる…」
「はぁ?!」
声に反応してびくつく少女を目にしてちょっとスクアーロ、また泣くでしょと釘を刺され、口を結ぶ。
まもる、真守だと?まさか本当に?いや、待て待て。同名ってこともある。まだここで結論付けるのは早計ってやつだ。……しかしこのヴァリアー本部を知ってる人間の中で、『まもる』と名前のつくのは彼女しか該当しないが……。
「………苗字は?」
「しばの………」
…………、嘘だろ…。
ルッスーリアも半信半疑の状態で、本当に彼女なのかを確かめる。
「……、あなた、シバちゃんなの?」
「………、?うん……」
「歳は?」
「さんさい…」
「好きなものは?」
「おちゃ……」
「住んでるところは?」
「にほん。……あ、でもいまはいたいあにいる!」
「イタリアね。魚といえば?」
「かわはぎ!」
少女とひとしきり話をしたあと、俺のところに戻ってきた。緊急会議を再開する。
「身体も精神も退行してるけど、シバちゃんに間違いはないようね。この隊服も彼女のものだし」
「三歳つったが指は四だったしな。…だとしても何でこんなザマになってんだぁ?敵の攻撃か?」
「私に言われてもねぇ……、これが幻覚の類いならフランになんとかしてもらいたいところだけど…。幻覚云々を抜きにしてもこの状況は不味いかもしれないわね」
「真守のやつはボンゴレの外交官的な一面も担ってるからなぁ…、ボンゴレの情報は勿論同盟ファミリーや他組織の内情を知っている。まあ、この状態じゃ喋れるもんも喋れねぇだろうけどなぁ」
「ボンゴレを潰して名を挙げたい輩は星の数ほど居るだろうし、アタシたちも買うものは恨みばかりだものねぇ。もしこれが侵攻の一部だとしたら、相当厄介ね。フランちゃんは今任務かしら?」
「あいつならあと一、二時間で戻ってくるはずだが……。……ん"?ありゃあなんだ?」
床に小さな小瓶が落ちている。この部屋では見たことないものだ。
「小瓶?何か入っていたようねぇ」
「これをお茶に入れられて……ってことかぁ?おいおい、んな怪しげなもん飲むたぁ気が緩みすぎなんじゃねぇかあ?」
「あの子、疲れるとぼんやりしちゃうからねぇ……」
「後でたっぷり説教してやらねぇとなぁ」
さて、それまでこいつをどうするかだ。
敵の気配はないし、そもそもヴァリアー本部に乗り込んでくる命知らずがいるやつがいるのかというところだが…。しかし、これが幻覚だとしたら見破る術は正直ほぼない。殺気やら気配やらで探ることはできるが…、術士でない以上ここまで違和感をもなくされては本物か偽物か見分ける手立てがないのだ。それに、侵入者の意図もまだ分からない。本部内に居ることは充分考えられる。
本部内を捜索と同時に、このガキはフランが戻ってくるまで隔離、監視しておくのがベストだが……、
「……あら?あの子は?」
ルッスーリアの声でハッと顔を上げる。しかしそこに少女は居らず、忽然と姿を消していた。
「……?!あのガキ、どこに……」
見渡すが姿が見えない。あの身長でドアノブに手が届くとは思えないが、万が一にもここから出ていかれたら厄介なことになる。
……と、そこまで考えていたがなんてことはなく、戸棚に置いてあるお菓子に手を伸ばしていた。
「う"ぉ"お"い!勝手にどっか行くんじゃねぇ!!」
「っ!!……ぅ、え」
「ちょ、ちょっとスクアーロ!」
「あ"、」
表情を歪ませ、目に涙が溜まり出す。不味いと思ったが時既に遅し。
二度目の爆発のような泣き声に屋敷中が震えた。
何とか大泣きは治まり、事態の整理をする。
何者かが本部に侵入し(または身内か)小瓶に入っていた液体を飲み物に混ぜて真守を縮ませた。目的は不明だが特に襲撃や異常が起きる様子はない。まだ機会を伺ってるのかもしれないが…警戒しておいて損はないだろう。
ひとまず不審者の捜索と幼くなった真守の監視をすることとなった。
「って、俺がかぁ?!」
「っ!!」
「だから大きな声出さないの。また泣いちゃうでしょ」
あんたが一番親しいんだからあんたが面倒を見ろと言われたが、さっきの有り様を見たら結果なんて分かるだろうが!まぁルッスーリアにはなついて、俺には大泣きってのもショックはショックだが…、ちいせぇ頃の真守はこんな泣き虫だったのかぁ?
ルッスーリアに抱えられ落ち着いてる真守をちらっと見ると、ふいと顔を背けられた。理由なき胸の痛みが俺を襲う。
「つーか、お前になついてんだからお前が見てればいいだろぉ」
「見ていたいのは山々だけど、アタシだってやることがあるのよ?服だってこのままにしておくわけにはいかないし。あなた、この子の服買いに行けるの?」
「ぐ、ぅ………それはそうかもしれねぇが…、やることあるのは俺も同じだぁ!」
「とにかく、小さい子は大きな声に敏感なのよ。びっくりさせてまた泣かせないでちょうだいね。あなたが感じてることはその子にも伝わるものよ。まぁ、まずはその怖い顔を止めなさいね」
「うるせぇ!顔は元々だぁ!」
「それじゃ、頼んだわよお兄ちゃん」
はい、と抱えていた真守を差し出される。しかし真守は引き剥がされると不安になったのか、一気に表情が歪んだ。まるで母親から離されるような不安な顔に、俺が悪いわけではないが罪悪感が湧く。
「またね、シバちゃん」
「ふ、ぅえ………う"ーーーッ……」
ルッスーリアがいい、というように体を捻って手を伸ばす。この不条理に嫌われるは流石の俺でも胸が痛い。ああ、目に涙が溜まり出した。まずい、また泣かれる。だが子供のあやし方なんて知るわけがない。どうする……! やり方を知らない俺ができることは、腕につけていた剣を真守の頬に近付けて、
「う"ぉ"おい、ぴーぴー喚くんじゃねぇ!刻むぞぉ!」
「ひッ……!」
強引に泣き止ませることぐらいなもので。
案の定びくり、と体を強張らせて固まった。泣くのは阻止できたが、これはこれで複雑だな……。
まるで強盗犯が人質とったみたいねと言われ全くその通りだと思うが、うるせぇと返しておいた。ルッスーリアは服の調達をすると言って談話室から出ていく。
二人談話室に残された。さてどうするか……。真守はビビって固まってるし、他のやつにこの姿を見られるわけにもいかない。
「一旦部屋に戻るか……」
子供の真守を抱えたまま、彼女の衣類を手にして談話室を後にした。
(2017.12.28)