沈黙は墓場に入らない
「お前って物欲ねぇよなぁ」
それは、彼から投げ掛けれた何気ない一言だった。
カフェの店先、食後の珈琲を一杯嗜んでいた私には何か含みのある言葉のように聞こえた。
「ないわけじゃないのよ。そこまで執着しないタチなだけ」
「武器も短刀を初め、ナイフ刀槍薙刀に銃二丁拳銃弓クロスボウトンファー……一つに定めずに使ってるしなぁ」
「武器にこだわりはないの。使いやすければ問題ないわ、必要なのは馴染みやすさと技量よ」
「だが俺達から得た戦闘技術もそうだがどれも八割九割程度の完成度だ、中途半端は好きじゃねぇ」
「使うのは私よ。あなたが好きじゃなかろうがなんだろうが、それで生きられれば問題ないわ」
そうかよ、と彼は不服そうにそっぽを向いた。
一つを極めた彼からしたら、色んなものを広く浅く使う私はさぞ焦れったく映ることだろう。
「……私はあなたほど鉄の意思を持ってる訳じゃないの。情にも流されるし、雑念も多い。一つを極めるよりも百を扱える方が性に合ってるってだけよ」
「へーへーそうかよ。這ってでも生き残るがモットーのお前にはお似合いのスタイルだなぁ」
「馬鹿にしてるの?」
「いいや?褒めてるんだ」
どこがよ、と不貞腐れたように言うと彼は確信犯のようにニヤリと笑う。熱々の珈琲をお見舞いしてやろうかしら。
「何の話してたんだったっけか」
「もうモウロクしてるの?早死にするわね」
「お前一人残したんじゃ心配で逝けるかよ。死ぬときぐらい戦ってスッキリ死にてぇからなぁ」
「あら素敵なお節介。でも物欲がないっていうのは語弊があるわ、私にだって欲しいものの一つや二つあるのよ?」
「新しい急須とか湯飲みかぁ?」
「それはサンタさんに頼んであるから抜かりない」
「じゃあ何が欲しいんだ」
「…………秘密よ」
欲しいものがないわけじゃない。ただ、それを口にするにはちょっと勇気が必要で、私にはそのちょっとの勇気がないだけのこと。
たった一つ。たった一言。
まるで中学生の初恋みたいに焦れったい、やきもきする初々しいその感情を。
大人の自分が言葉にするには、些か時間が経ち過ぎて。色んなものを、身に付け過ぎてしまった。
言ったからといって関係が拗れてしまうわけではない。拗れるとしたらそれは自分だけだ。
それでも。
この場所が心地好くて。
この関係で安心していて。
安寧などないこの世界で、彼の背中に思いを馳せているだけで充分満たされている。
そうして誰にも知られず自分の中だけで満足して、完結させるのだろう。
私は、そういう人間だ。
「(やらずに諦めてしまうのはとても心残りになりそうだけど、まあ、仕方ないわよね)」
狡くなってしまったものだ。
大人になるとは、そういうことなのかもしれないが。
「それにしても、どうして突然そんなことを?」
「天気の話をするのにいちいち理由を求めるかぁ?雑談のネタに理由があるとしたら沈黙がキツいか、気になることがあるかぐらいだろ」
「気になる?今さらそんなことがあるの?」
彼はそう言う私に、見付からない間違い探しの最後の一つを知っているような、確信を得た笑みを向けた。
「お前は一つに執着しねぇと言ったが、そりゃ嘘だ」
「何を根拠に言うのかしら」
「俺からしたら、随分執着してるように見えるぜぇ。執念深いといってもいい。お前は分かりやすいなぁ」
「あなたにそう言われると自信を失うところなんだけれど。どうして?」
「無自覚か。こええなぁ」
「煽らないでくれる?それ以上言われたら刺しちゃいそう」
「言わなくたって伝わるって言ってんだぁ」
白手袋で覆った指先で、白いティーカップを引っ掛かる。
「日本のことわざであんだろぉ、そういうの。目には目を…みたいなやつ」
「目は口ほどに物を言う?」
「多分それだ」
「目しかあってないけど……私がそうだと?」
「好意を含んだ視線を見抜けねぇ程節穴じゃねぇ。それが惚れた女のものなら尚更な」
カラン、と。グラスの中の氷が音を立てる。
思わず彼を凝視した。
「………、今なんて?」
「この距離で時差があんのか?」
だがその姿を目にすると 反射的に視線が自分の手元に向いてしまった。顔が、見れない。
何て言った?好き?どういうこと?まさか。そんな。
先へ進まない雑念が頭をめぐる。思考停止と言っても良い。私とあろうものが情けない。
だが確かに音として捉えた言葉は、それほどまでに。
何か、何か返さなければ。皮肉でもいい。嫌みでもいい。仕方ないと思っていたのだ、伝えずに居ることを望んだのだ。それなのに、これでは。
お前は、と。何時もよりも落ち着いた声で彼は言う。
「俺が好きでもねぇ女と飯を食いに行ったり家に上がったりする軟派野郎だと思ってたのか?嫌いなモンを無理して食う趣味はねぇのはお前も分かってんだろぉ」
「……仕事上、必要なことだってあるじゃない」
「オフの時にまでやるほど真面目じゃねぇ」
「……、だとしても私が」
「まだ言うか?」
びくっと肩が揺れた。俯いた視界に影が差すと、手袋をはめた手が伸びて顔に触れる。顎を持ち上げられれば、視界は自然に彼の方に広がった。彼の視線が交わる。
やめて。見ないで。こんな、こんな。
はっ、と彼は、スクアーロは、短く息を吐いた。テーブルに身を乗り出して相も変わらず傲慢を貼り付けたようなしたり顔で私の方を見て、一笑した。
「イイ顔してんじゃねぇか」
「……う、るさい」
頭が沸騰しそうだ。思考も溶けて、唇が震える。顔が熱い。こんな時、どんな風に表情をつくればいいの。どうすればよかったんだっけ。作り笑いも苦笑いも薄ら笑いも失笑も馬鹿笑いも嘲笑もできない。困惑を示そうとも皮肉を示そうにも、表情筋は思ったように動いてくれない。今私は、どの表情も作れずとても変な顔をしているのだろう。それは、スクアーロがにやにやと愉快そうに笑っていることからよく分かる。
からかうように口角を上げて、彼は続ける。
「嬉しいんなら素直に言ったらどうだぁ?」
「う、るっさいッ。それ以上言うと拳銃突っ込んでその口塞ぐわよ」
「うるせえのはお前だ。照れ隠しで物騒なこと喚くんじゃねぇ」
「あなたに物騒と言われるなんて。世の中のあらゆる物騒なことに土下座したあと三角倒立しながら謝ってほしいわ」
「俺のこと大好きなくせに」
「どの口で言うのかしら。相手の力を見誤って調子に乗るのはあなたの悪い癖よそれで余計な傷を負ったのをよもや忘れたと言うわけじゃないわよね痛い目を見ても繰り返すなんてハイヒールのピンで踏みつけられて興奮する類いの趣味を持っているのかしら」
「好きじゃねぇのかぁ?」
「……………………………………………」
沈黙。視線が痛い。彼は言わせたいのだ、自分と同じ言葉を。今まで口にしてこなかった、沈黙で隠した言葉を。
…いや、別に貶したいわけじゃないのだ。言えるのであれば、口に出したい。だが私も捻くれた人間だ。子供のように好きなものを好きだと叫ぶほど若くはないし、その純粋さはとうに影を潜めてしまった。
見栄や意地が素直な言葉に蓋をして。
体裁と建前が空気を伝うのだ。
言わなきゃ伝わらないのは百も承知だが、それが出来れば苦労はしていない。そもそも普通に接していたつもりだったのにバレていたという事実と不意を突く告白に動揺してしまう気持ちは分かってほしい。
カラカラとグラスの中の氷を無意味に掻き回して、彼の視線から逃れる。
「……なあ」
「………」
「真守」
「………」
「…真守」
「ああもう!煩いわね!」
にやにやと笑っているスクアーロの顔面にベシっとユーロ札を押しつける。顔を見られないようにとさっさと踵を返して彼を置いたままテーブルを離れる。後ろで待てだの何だのと喚く声が聞こえるがスルーだ。
雑多に行き交う人の中で、タッタッとわざとらしく音を立てて追ってくる足音が聞こえた。
「ったく、可愛くねぇなぁ」
「可愛い子をご所望なら他へ行くといいんじゃないかしら。きっと踏んだり蹴ったり詰ったり、あなたが喜ぶようにしてくれるわよ」
「そんな性癖ねぇっつってんだろ!あとそれ他へ行くなって言ってるように聞こえんぞ天の邪鬼」
「分かってるなら言わせないで欲しいわ」
バカ、と在り来たりな罵倒をしても彼には効かないことは知っている。何せ彼はもう確信しているのだから、何を言っても照れ隠しぐらいにしか思わないだろう。…当たっているのがまた気に入らないのだが。…まあ、今日のところは文句を言わないでおこう。
休憩のため訪れたカフェは昼前ほど賑わってはおらず、人波が引いていた。ピークが過ぎて店員さんの足取りにゆとりがある。ご苦労様。昼休憩を終えた人達が仕事を再開する中、私たちはお休みでこの後の予定は特別ない。牛歩の歩みでイタリアの町並みを眺め、その中で彼を視界に捉える。
なあ、と雑多に聞こえる音の中、彼の声は明瞭に耳に届いた。
なに、とこんな時まで無愛想な返事をする。
「好きだぜぇ」
「……私もよ」
ムードも雰囲気の欠片もない、そんな中での彼のはっきりとした言葉と握った手の力強さに。
それは、彼から投げ掛けれた何気ない一言だった。
カフェの店先、食後の珈琲を一杯嗜んでいた私には何か含みのある言葉のように聞こえた。
「ないわけじゃないのよ。そこまで執着しないタチなだけ」
「武器も短刀を初め、ナイフ刀槍薙刀に銃二丁拳銃弓クロスボウトンファー……一つに定めずに使ってるしなぁ」
「武器にこだわりはないの。使いやすければ問題ないわ、必要なのは馴染みやすさと技量よ」
「だが俺達から得た戦闘技術もそうだがどれも八割九割程度の完成度だ、中途半端は好きじゃねぇ」
「使うのは私よ。あなたが好きじゃなかろうがなんだろうが、それで生きられれば問題ないわ」
そうかよ、と彼は不服そうにそっぽを向いた。
一つを極めた彼からしたら、色んなものを広く浅く使う私はさぞ焦れったく映ることだろう。
「……私はあなたほど鉄の意思を持ってる訳じゃないの。情にも流されるし、雑念も多い。一つを極めるよりも百を扱える方が性に合ってるってだけよ」
「へーへーそうかよ。這ってでも生き残るがモットーのお前にはお似合いのスタイルだなぁ」
「馬鹿にしてるの?」
「いいや?褒めてるんだ」
どこがよ、と不貞腐れたように言うと彼は確信犯のようにニヤリと笑う。熱々の珈琲をお見舞いしてやろうかしら。
「何の話してたんだったっけか」
「もうモウロクしてるの?早死にするわね」
「お前一人残したんじゃ心配で逝けるかよ。死ぬときぐらい戦ってスッキリ死にてぇからなぁ」
「あら素敵なお節介。でも物欲がないっていうのは語弊があるわ、私にだって欲しいものの一つや二つあるのよ?」
「新しい急須とか湯飲みかぁ?」
「それはサンタさんに頼んであるから抜かりない」
「じゃあ何が欲しいんだ」
「…………秘密よ」
欲しいものがないわけじゃない。ただ、それを口にするにはちょっと勇気が必要で、私にはそのちょっとの勇気がないだけのこと。
たった一つ。たった一言。
まるで中学生の初恋みたいに焦れったい、やきもきする初々しいその感情を。
大人の自分が言葉にするには、些か時間が経ち過ぎて。色んなものを、身に付け過ぎてしまった。
言ったからといって関係が拗れてしまうわけではない。拗れるとしたらそれは自分だけだ。
それでも。
この場所が心地好くて。
この関係で安心していて。
安寧などないこの世界で、彼の背中に思いを馳せているだけで充分満たされている。
そうして誰にも知られず自分の中だけで満足して、完結させるのだろう。
私は、そういう人間だ。
「(やらずに諦めてしまうのはとても心残りになりそうだけど、まあ、仕方ないわよね)」
狡くなってしまったものだ。
大人になるとは、そういうことなのかもしれないが。
「それにしても、どうして突然そんなことを?」
「天気の話をするのにいちいち理由を求めるかぁ?雑談のネタに理由があるとしたら沈黙がキツいか、気になることがあるかぐらいだろ」
「気になる?今さらそんなことがあるの?」
彼はそう言う私に、見付からない間違い探しの最後の一つを知っているような、確信を得た笑みを向けた。
「お前は一つに執着しねぇと言ったが、そりゃ嘘だ」
「何を根拠に言うのかしら」
「俺からしたら、随分執着してるように見えるぜぇ。執念深いといってもいい。お前は分かりやすいなぁ」
「あなたにそう言われると自信を失うところなんだけれど。どうして?」
「無自覚か。こええなぁ」
「煽らないでくれる?それ以上言われたら刺しちゃいそう」
「言わなくたって伝わるって言ってんだぁ」
白手袋で覆った指先で、白いティーカップを引っ掛かる。
「日本のことわざであんだろぉ、そういうの。目には目を…みたいなやつ」
「目は口ほどに物を言う?」
「多分それだ」
「目しかあってないけど……私がそうだと?」
「好意を含んだ視線を見抜けねぇ程節穴じゃねぇ。それが惚れた女のものなら尚更な」
カラン、と。グラスの中の氷が音を立てる。
思わず彼を凝視した。
「………、今なんて?」
「この距離で時差があんのか?」
だがその姿を目にすると 反射的に視線が自分の手元に向いてしまった。顔が、見れない。
何て言った?好き?どういうこと?まさか。そんな。
先へ進まない雑念が頭をめぐる。思考停止と言っても良い。私とあろうものが情けない。
だが確かに音として捉えた言葉は、それほどまでに。
何か、何か返さなければ。皮肉でもいい。嫌みでもいい。仕方ないと思っていたのだ、伝えずに居ることを望んだのだ。それなのに、これでは。
お前は、と。何時もよりも落ち着いた声で彼は言う。
「俺が好きでもねぇ女と飯を食いに行ったり家に上がったりする軟派野郎だと思ってたのか?嫌いなモンを無理して食う趣味はねぇのはお前も分かってんだろぉ」
「……仕事上、必要なことだってあるじゃない」
「オフの時にまでやるほど真面目じゃねぇ」
「……、だとしても私が」
「まだ言うか?」
びくっと肩が揺れた。俯いた視界に影が差すと、手袋をはめた手が伸びて顔に触れる。顎を持ち上げられれば、視界は自然に彼の方に広がった。彼の視線が交わる。
やめて。見ないで。こんな、こんな。
はっ、と彼は、スクアーロは、短く息を吐いた。テーブルに身を乗り出して相も変わらず傲慢を貼り付けたようなしたり顔で私の方を見て、一笑した。
「イイ顔してんじゃねぇか」
「……う、るさい」
頭が沸騰しそうだ。思考も溶けて、唇が震える。顔が熱い。こんな時、どんな風に表情をつくればいいの。どうすればよかったんだっけ。作り笑いも苦笑いも薄ら笑いも失笑も馬鹿笑いも嘲笑もできない。困惑を示そうとも皮肉を示そうにも、表情筋は思ったように動いてくれない。今私は、どの表情も作れずとても変な顔をしているのだろう。それは、スクアーロがにやにやと愉快そうに笑っていることからよく分かる。
からかうように口角を上げて、彼は続ける。
「嬉しいんなら素直に言ったらどうだぁ?」
「う、るっさいッ。それ以上言うと拳銃突っ込んでその口塞ぐわよ」
「うるせえのはお前だ。照れ隠しで物騒なこと喚くんじゃねぇ」
「あなたに物騒と言われるなんて。世の中のあらゆる物騒なことに土下座したあと三角倒立しながら謝ってほしいわ」
「俺のこと大好きなくせに」
「どの口で言うのかしら。相手の力を見誤って調子に乗るのはあなたの悪い癖よそれで余計な傷を負ったのをよもや忘れたと言うわけじゃないわよね痛い目を見ても繰り返すなんてハイヒールのピンで踏みつけられて興奮する類いの趣味を持っているのかしら」
「好きじゃねぇのかぁ?」
「……………………………………………」
沈黙。視線が痛い。彼は言わせたいのだ、自分と同じ言葉を。今まで口にしてこなかった、沈黙で隠した言葉を。
…いや、別に貶したいわけじゃないのだ。言えるのであれば、口に出したい。だが私も捻くれた人間だ。子供のように好きなものを好きだと叫ぶほど若くはないし、その純粋さはとうに影を潜めてしまった。
見栄や意地が素直な言葉に蓋をして。
体裁と建前が空気を伝うのだ。
言わなきゃ伝わらないのは百も承知だが、それが出来れば苦労はしていない。そもそも普通に接していたつもりだったのにバレていたという事実と不意を突く告白に動揺してしまう気持ちは分かってほしい。
カラカラとグラスの中の氷を無意味に掻き回して、彼の視線から逃れる。
「……なあ」
「………」
「真守」
「………」
「…真守」
「ああもう!煩いわね!」
にやにやと笑っているスクアーロの顔面にベシっとユーロ札を押しつける。顔を見られないようにとさっさと踵を返して彼を置いたままテーブルを離れる。後ろで待てだの何だのと喚く声が聞こえるがスルーだ。
雑多に行き交う人の中で、タッタッとわざとらしく音を立てて追ってくる足音が聞こえた。
「ったく、可愛くねぇなぁ」
「可愛い子をご所望なら他へ行くといいんじゃないかしら。きっと踏んだり蹴ったり詰ったり、あなたが喜ぶようにしてくれるわよ」
「そんな性癖ねぇっつってんだろ!あとそれ他へ行くなって言ってるように聞こえんぞ天の邪鬼」
「分かってるなら言わせないで欲しいわ」
バカ、と在り来たりな罵倒をしても彼には効かないことは知っている。何せ彼はもう確信しているのだから、何を言っても照れ隠しぐらいにしか思わないだろう。…当たっているのがまた気に入らないのだが。…まあ、今日のところは文句を言わないでおこう。
休憩のため訪れたカフェは昼前ほど賑わってはおらず、人波が引いていた。ピークが過ぎて店員さんの足取りにゆとりがある。ご苦労様。昼休憩を終えた人達が仕事を再開する中、私たちはお休みでこの後の予定は特別ない。牛歩の歩みでイタリアの町並みを眺め、その中で彼を視界に捉える。
なあ、と雑多に聞こえる音の中、彼の声は明瞭に耳に届いた。
なに、とこんな時まで無愛想な返事をする。
「好きだぜぇ」
「……私もよ」
ムードも雰囲気の欠片もない、そんな中での彼のはっきりとした言葉と握った手の力強さに。