短編 | ナノ







コンコン…



きたっ!!

一日に一度だけ、どんな天気でも、この時間が来ると俺の部屋にある唯一の窓が叩かれる。
俺はそれを聞くと急いで窓に駆け寄ってそれを開けるんだ。



「元気か」

「昨日の今日だよ?」

「それでも、だ」

「元気だよ」



人は多分、今の俺の表情を満面の笑みっていうと思う。でも本当に嬉しいんだ。今日も、今日も名前がきてくれた!
今日はどんなお話を聞かせてくれるんだろ、





俺の家の人は、俺をこの部屋から出してくれない。
外はすごく危ないんだって…。だから俺はこの部屋に一つだけあるこの窓に、今まで近寄ることもしなかった。

この窓が、"アラシ"の"ヨル"よりも激しく、強く揺れたある日のこと。すごくすごく怖かった。外にあるすっごく危ないそれが来たんだって。だから急いで反対の壁際に行って、毛布に隠れて体を小さくまとめた。

お願い、気づかないで、
怖くない、怖くないよ…っ

でもひどく苦しそうな吐息が聞こえて、俺が高熱を出した時よりも苦しそうだったから助けなきゃって、怖かったけど窓を開けたんだ。


それが、俺と名前の出会い。
初めて近づいた窓を何とかして開けて、そこに居た名前をお部屋に入れた。とにかく俺は必死で、その時名前に何をしてあげたのか覚えてない。なんであんな状態になったのって何回か名前に聞いたことがあったけど、いつもの顔で、でもすごく悲しそうな瞳の色で、ごめんなって名前は俺の頭を撫でるんだ。

名前に撫でられるのは嫌いじゃないけど、名前のその目が嫌い…。だからもう聞かないようにしてるんだ。今こうして、毎日僕のところにお話をしに来てくれる。それが幸せで、それで十分だから。





「今日は…そうだな、何か聞きたい話はあるか…?」

「えっと、じゃあ海!!」

「またか…姫は海が好きだな」

「ひ、姫じゃないもん…」



小さく笑みを浮かべて、すごく優しい顔で名前が俺を見てくれる…。それを見る度、すっごく嬉しいんだけど、胸がすっごく苦しくて…でも嫌な苦しさじゃなくて…俺は病気なんじゃないかって、名前に聞きたくなった…。
でもなんとなく、名前に聞いちゃいけないと思った。だってこの苦しいのは名前と居る時にだけ来るんだ…、それを名前に言って、自分のせいだって俺のところに来なくなっちゃったら…きっと、きっと嫌な苦しさが俺の息を止めようとする気がするんだ…。



「海はあの空よりもずっと青く、深い。空は広く広がっているが、海は深く沈んでいくんだ」

「…深く、沈む…?」

「ああ、目に見えない、暗く、遠い底まで在るんだ」



…目に見えない、暗く…



「まるで、名前の目みたいだね…」

「そうか?」

「名前の目を見ていると吸い込まれていくような…どこまでも続いているような…そんな、……」



ずっと、見ていられる…
んーん、目を離せなくなっちゃうんだ。目を外すことを許さないって言っているように、ただ一点しかないそれが俺を包むような…覆うような…



「…なら、姫の瞳は空のようだな」

「っ」



名前が手を伸ばして、そのまま俺のほっぺたに添える。目元をゆっくり親指で撫でられて、くすぐったいけど、居心地よくて、俺は名前の手に俺の手を重ねて擦り寄った。


俺の部屋は結構高いところにあって、いつもどうやって登っているんだろって不思議に思うけど、ちょうどいい距離にある木の幹にいつも名前は腰掛けているんだ。
たまにこうやって手を伸ばして触れてくれる時は落ちちゃうんじゃないかって怖くなったりもするけど…。



「空を曇らせて、雨を降らせてしまわないように、気を付けないとな」



俺は…優しく笑ってくれる、名前が  ――…














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