ぎゅっ、
「…離れよ」
むぎゅう…っ、
今日は雨。んーん、今日も雨。ここはよく雨が降る。
外出しない日の雨は嫌いじゃない。だって落ち着く。定期的にも、不定期的にも感じる雨音のリズムが好き。雨色に染まる景色が好き。
でも元就は太陽が好きだから雨の日はしょんぼりする。不機嫌にもなる。
今日は動く気力もないようでベッドに横になってた。のを見てたら抱きつきたくなったから抱きついた。
「鬱陶しい」
背を向けたまま紡がれた言葉は鋭利なものだけど、気にせず後ろから抱きつき背に顔を埋める。
あたたかい…。
雨の日は元就が家にいてくれることが多い。口数はいつにも増して減ってしまうけどそこにいてくれる、手を伸ばせば届く距離に。
息を吸い込めば一緒に元就の匂いが肺に入ってくる。シャレではなくて、ただ心地いい。目を瞑って頬をすり寄せれば不思議と訪れる睡魔。
鬱陶しいと言いながらも振り払ったりしない元就が好き。
「……」
「…ん……」
元就のお腹に回してた手を捕まれ、お腹からそれが離されたかと思えばこちらに体を向けてくれた。顔を見ようとすれば見るなとでも言うようにギュッと抱きしめられた。
朝夕冷え込む初春、桜は咲き始めたけど雨が降ればまだ冷たい風が吹く。
寒い、さむい…けれどそんな日には元就がこうして抱きしめてくれる。寒さを感じさせないでくれる。
「……貴様のせいぞ」
「わたし何もしてない」
「責任をとって我を温めよ」
「だか…んぐ……」
回された腕に力を込められ、続きを言えなかった。
苦しい、少し痛いくらいの強い包容、息は浅くしかできなくて、肌に食い込むように回された腕で包まれる。
聞こえるのは互いの息と鼓動と、雨音だけ。
見えるのはあなただけ、
なんて閉鎖的な空間…。
あなたは好きな太陽が見れないと下を向くけれど、私は普段見れないあなたが見れて嬉しい。
雨音はこの空間を他から切り離して、それは寂しくも感じるけれどこうして抱きしめてくれてる時は大丈夫だと思える、狭く暗く寒く感じる空間では…元就が私にとっての太陽みたいな…そんなくさいことを考えてみたり。
ふふっと小さく笑えば不気味ぞと眉をしかめる。
何気ないやり取りで、誰かに話しても何がいいのか分かんないって言われるけど、私はこの何気ない日常が好きなの。ね、元就。
あなたといる日常が好きなの。
それを作ってくれる雨が好きなの。
雨色
(貴様といるといつも雨ぞ…)
(雨女め…)