短編 | ナノ







今日は日曜日。

週末は人が多いから出かけるのは苦手なのだけれど今日が終われば当分休みがなく、会社に缶詰状態になる。買い物には行きたい。
少し早目に家を出れば少しは人がいないだろうと思ったのに寝坊してしまうこの体たらく。我ながら自分が嫌になる。

ショッピングモール等が並ぶ通りについた。なんとまぁ、人がゴミのようだと形容した男性の気持ちが痛いほどわかった。
さて何から買おうかと青になる信号を呆然と眺めていると、同じように遠くを見つめる男が横にいた。私はまだ端にいたからいいけど彼はど真ん中に居て、邪魔そうにされる目線を気にした風もなくひたすら遠くを見つめていた。


迷子だろうか?


なんとなく気になってしばらく見ていることにした。





しかし何度目かの青信号を目にしても全く動く気配がなかった。流石に不審に思って近づくことにした。



「あの、どうされましたか?」



緩慢な動きで、ゆっくり目線だけをこちらによこす。
よく見れば男はかなりの容姿の持ち主で、しかも近づいてから背がかなりあることに気づいた。どうりでいいシルエットをしているわけだ。しかも羨ましいほどの美白。通り越して蒼白か、これ。



「大丈夫ですか…?」



特徴的な前髪ですね、なんて言えなかった。
こちらに向けられた切れ長の目には吸い込まれるような力がある、と同時に何も映ってはいなく、ああ…この人は体調を崩しているのかもしれないと咄嗟に思った。
気づいたときには彼の手を引いて、



「家が近いのでとりあえずそこで休みましょう」



とかよくわからないことを口走ってた。この瞬間の私を今ものすごく殴りたい。

1LDKのマンションで一人暮らしをしている私はドアの鍵を開けるととりあえず彼をリビングの暖房をつけてソファーに座らせた。春はまだまだ遠い季節だからまずはあったかくしなければとココアを作りにキッチンに向かった。

二人分のココアを手にリビングに戻ると彼は背もたれに体重をかけて目を閉じていた。



「少し仮眠をとりますか…?」



ココアでよければどうぞ、
そう言ってココアをテーブルに置いて彼のいるソファの前のフローリングに正座をする。
それにしても彼はモデルだろうか?スタイルもだが服のセンスもいい…センスどうの言える程のセンスを持ち合わせていない私でもセンスがいいと思える服を身にしていた。
鼻筋とか綺麗だし、睫毛とか何気長いし、何より銀髪だ…自毛だろうか?

ハーフなのかな…ああ、なら私が何を言っても答えないのは言葉がわからないとかか…
じゃあやっぱさっきのは迷子だったんじゃん…うわ、道も言葉もわからない状態で見知らぬ女に急に家まで連れ去られるとか恐怖しかない。



「あー…なんかごめんなさい」

「……なぜ謝る」

「あ、喋った」



また緩慢な動きで、視線だけこちらにやる。おお、激しく見下ろされているぞ。



「いや、なんか拐っちゃったみたいになってますし」

「拐ったのか」

「いや、ないよ」



そうなのか?と首をかしげる。
なんだ…なんだこの人、何か話してるとこっちまで何がなんだか分からなかくなってくる。会話が迷子になる。なんなんだ。



「それよりあんなところでどうしてああもつっ立ってたんですか?」

「……あんなところ…?」

「通りの信号の前」

「……記憶にない」

「冗談ならすぐやめて面白くないですよ」

「冗談なのは貴様の顔だろう」

「酷!!それ初めて会う人に言うことですか!?」



いや、初対面拐うような行為した私が言えることじゃないか…待ってだから拐ってないって。私の行為だって。優しさ。

しかしなんで自分があんなところに居たのかわからないとか重症だろ、疲れすぎなんじゃないの?



「ちゃんと寝てるんですか?」

「睡眠など時間の無駄だ」

「寝ろ、今すぐ寝ろそのソファー貸すから」



立ち上がった反動を活かしてそのまま彼の顔を抑えて力づくで横にさせる。
何をする、と対して慌てた声色もなく言われるがいいから寝てくれ…そして復活したら帰ってくれ…。



「夕飯までには家に帰れるように起こしますから」

「夕飯など時間のm――」

「いいから黙って寝ろ」



こいつ食事も碌にとってねぇの!!?なんなの?ホントなんなのこの人モデルだとしたらハードスケジュールとか減量とかなんかハードすぎんでしょ!!



「…起きたら夕飯食べていってください…」

「いくとは、どこにだ…?」

「どこって家ですよ。あなたの自宅」

「………どこだ…」



手を彼の目もとに置いたままのやり取り。静かに話す彼の唇の動きが色っぽい…ちくしょう。
ってどこだってこっちが知るわけないでしょ。え、まさか家出とか言わないよね?



「私がどこかに行く必要があるのか…?」

「だからお家に…」

「ここも家だろう…?ならばわざわざ他の家に行く理由はない」



しばらくここで寝る、起きるまでに布団の用意をしておけ、
そう言って間もなくスースーと規則正しい小さな寝息を立てた。

手をどけて、彼に背を向けるように机に置かれたココアを眺める。ああ…冷めちゃった。てかこの人の名前も知らないよ。なんだよこの状況。なんだよ…え?この人ここに居座るつもりでいるの…?マジで…?



なんかすっごい変なもの拾った気分だよ。捨て猫ならぬ捨て人?すごい複雑な気分。















拾い者

ただ三成を拾ってみたいっていう願望。
無知で無垢で無茶ぶりを当たり前な顔して言ってくる三成で困ってみたいって願望。




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