「西海の鬼たァ俺のことよ!!!!」
……目の前に現れたのは、紫を基調とした装束を纏った、銀髪眼帯の大男。
「…我は耳が遠くなったようだ」
そう呟いて目を伏せる。
ぅおいッ!と…我にだろうか…ものすごく嫌だが声をかけられてしまった。
なんだ、と小さく答える。視線は向けない。
「アンタが毛利元就か?」
…改名でもしようか。
本気でそう考えた。
なぜ我のことを知っているのかと顔をしかめたらそれをどう間違えたのか肯定ととったらしくそうかとひとりごちていた。
解釈自体は間違っていないがこんな奴に名など知られたくなかった。
「アンタ、冷酷非道って通ってるらしいな。海を挟んだ俺ンとこまで話が届いてるぜ」
だからなんだというのだ。
いや、海を挟んだ…?異国の者か…なるほど、それでこのような到底理解できない姿を…
だとしたらなぜ日ノ本の言語がわかる?
そんなことはこの際どうでも良いわ。早く我の前から立ち去ってはもらえないだろうか。
少しずつ我の元へ歩いてくる気配を感じて光速で後退したくなった。
だが我の自尊心がそれを許すはずもなく、足をそのまま地面に縫い付けた。
「…この者は我に話があるらしい。貴様らは下がっていろ」
捨て駒にそう告げると素早く下がっていった。
早に我が休めるよう城を整えておけ、倒れ込む勢いよ。
「オイオイ、いいのかよ」
「貴様に心配されるほどヤワではないわ」
「くくっ、そうかよ」
我の目の前、手を伸ばせば届くところまで来ると奴は足を止めた。
くっ、いつの間に…ッ
「おい、」
「…なんぞ」
「こっち見ろよ」
「……何故見ねばならぬ。」
貴様ごときが我の視界に入ろうなどとおこがましいわ。
そう言って視線を奴の後ろに控えているムサイ紫の集団に向ける。
何としてもこやつを我の目に入れるわけにはいかぬ。
「いいから見ろって!!!」
「ッ!!!気安く我に触れるでないわ!!!」
ぐいっと顎を掴まれ、無理やり目を合わせられる。
のをすぐさまパァン!!と小気味のいい音を響かせながら払いのける。
我としたことが…うっかり。
これを原因に戦を持ちかけられるやもしれぬ。まぁその程度で癇癪を落とすような者を倒すことなど造作もないわ。恐ることではない
しかし"おおっと悪かったな"と笑うやつに少し驚いた自身が居たことに驚いた。
「…貴様、我の名を知っておるのならきちんと名乗ったらどうだ。最低限の礼儀だろう」
「それもそうか」
それくらいの常識があったのかと感心する。
笑って名乗ろうとする男と反対に後ろにあった紫の集団は"アニキを知らねぇだと!!"などと叫んでおるが知らぬものは知らぬ。興味すらないわ。
ただ一方的に知られているのは居心地が悪い故問うておるだけよ
「長曾我部元親。西海の鬼って名が通ってるはずなんだがなァ…」
「敗界の鬼?」
「違ぇよ!!!」
それで上の服をまともに着られないほどの経済的痛手を負ったのか。肩にかけておるのはもう袖が通らなくなってしまうほど昔からあるものなのだろう?そしてその左目の眼帯はその数々の負け戦で負ったなのだろうかと一人納得していると否定された。
「ならば徘徊の鬼か?」
暇を持て余しているのか。加えて這って回る趣味もこうじて"這回"と新たな造語と掛け合わせているのか。無駄に頭の回る暇人よ。いや、暇鬼か?
「もっと違ぇ!!」
「………ならばなんだ」
「これからアンタと瀬戸内をかけて死闘を繰り広げるモンだ。西海の鬼神よ」
ニヤリと笑みを浮かべて我に好敵手宣言をする。
…なんだ、鬼の格が何やら上がっていないか?まぁなんでもいい。こやつとの会話を早々に終わらせたい。
これ以上あんな汚物を目にしてたまるか。
「さいかいの鬼…フン、頭の隅にでも置いておいてやろう」
「ハハッ、今はそれでいい。」
人として最下位だと認識して覚えておく。
結局何をしに来たんだと疑問を抱きながら安芸を去る紫の集団を見送ると城に戻って横になった
苦手意識