短編 | ナノ







携帯の新機種発売を知らせるCMが流れる。

"儂とお前の絆をk"うるさい黙れ斬滅するぞ"

今回は二色同時に出すらしく、中々格好いい携帯なのできっと人気はすぐに出るだろうと思いながらコーヒーをすする。


「…名前よ、そろそろ出ねば…」
「ん?ああ、もうそんな時間か」


今日は外部から人を招き入れての会議があるためいつもより早く家を出ねばならない。アラームをかけといてよかったとつくづく思う。


「ありがとう、刑部」
「…ヒッ、構わぬ。が、ちと急ぎやれ」
「ん、そうする」


彼は刑部、





私の携帯だ。












「助かった、おかげでギリギリだけど遅刻せずに済んだよ。ありがとう」


愉快な顔で話すは名前。われのモチヌシよ。
こやつは物好きにも此度のように些細なことに対してまでわれに礼を言う。やれと申すからわれはやっておるだけというに…それを当然の事として流そうとはせぬ。
常と変わらぬその様に、われも常と変わらぬ返しをする。


「気にしやるな」


名前ほど携帯を大事に扱うものはそう多くはおらぬ。こやつの手に渡ったのがわれの生に置いて最大の幸であるといえよう…ヒヒッ、世も末よ。スエ。








「否、そうとも言いきれぬなァ…」


男に二言はないという言葉もある故われは前言をいかに撤回したくともせぬが…ヤレ参った。マイッタ…溜め息をつくことくらいは許しやれ…
誰とて今のわれと同じ目に遭えば…気を落とさずにはおれまいて。


「われを落としていきやるとは…」


はぁ、とまた1つ不幸の元を世に吐き出す。
ことの発端はなんてことのない帰り道、好天だからと電車でなく自らの足で帰ると申した名前は途中、旧友と会うて談笑に夢中になりおってなァ…ヒヒ…われを落としおった事にも気づかずに歩いていったわ

幸い、ここはあまり人がおらぬ道のようで踏まれることを危惧することはないが…言い替えれば人目につかぬというこのになる。はて、名前はわれに気づくか否か。


「さすけぇ!!見よっ、携帯殿が何やら地面に伏せておられるぞ!!」
「…落ちてるよう見えるの、俺様だけ?」
「一体何ゆえ斯様なことをなさっておるのか訊いてくるでござる!」
「そっすねー……ってぁあああ旦那!頼むから同じように地面に伏せるのだけはやめて下さいよ!?!」


もう一度息を吐き出そうとしたときであったか。人気がおらぬと思うておった矢先から騒がしい声がしたかと思えば…よもや名前以外にも携帯の"声"に耳を傾ける者に巡り会えようとは…

見やれば赤き服を身に纏った若き男子と、その右にあるは橙の携帯。なんと暖かき色の組み合わせよ。


「もし!某真田幸村と申す者でござる!失礼ながら携帯殿は、斯様なところにて一体何をなさっておられるのかお尋ねしとうございまする!」
「ちょっと旦那ぁ!?!何携帯に名乗っちゃってんの!!っていうか携帯じゃなくてもなんの関わりもないのに名乗っちゃダメだから!」
「今持った」
「それじゃだめなのぉおおおおおお!!!!」
「…………………ヒ、」


やれ、あの携帯は心労に絶えぬ様子であるなァ…愉快、ユカイ。


「日向ぼっこでござるかっ?」
「んなわけないでしょ、ソーラー機能がついてる毛利の旦那じゃない限り誰が好き好んでk」
「なればあちらのベンチにて腰を落ち着けなさることをおすすめいたしまする!」
「無視!?せめて最後まで言わせてよ!」


こちらは少々危のぅございますので、僭越ながら某が携帯殿をお運び致しましょうぞ!などと橙が喚き、反対するのに耳を傾けずにわれを左に持ち、ベンチに座らせる。その際、われについた砂埃をはらうことも忘れずに。

確かに先よりは、幾分か楽であった。


「あい、すまぬ」
「気になされるな!某の勝手でやったことにござる」
「やれ、そうか?」
「うむ、時に携帯殿、くどいようではありまするが何ゆえあのようなところに…?」


ちょっと旦那!いい加減にしてよ!となにやら必死の形相で話しかける橙を赤は無視よ、ムシ。人の不幸ほどよいものはないと改めて思う(橙は人ではないが)


「なに、主が旧友との再会を楽しんでおった故われはそれまで留守番をすることになったのよ」
「なんとっ!」
「それ気づかずに落としちゃった奴じゃん!」
「佐助ッ!無礼なことをいうでない!」
「いたっ!ちょちょちょ、旦那!痛いって待って待って!イヤホンジャックぐりぐりするのやめてよ!!」


賑やかな主従よなァ…われと名前とでは起こり得ぬ光景よ。恐らく日常と化しているであろうそのやりとりは、良きにも思えるが…そうよなァ…われは名前とあのようにはなりとぅない。今のままが一番よ、

しばしその主従のやり取りに耳を傾けながら名前が歩き去った方をぼんやり眺める。
名前は来やる。されど日が沈んでも尚姿を現さねばいかにしようか…。われに探すほどの価値がないと捨て置いたととらえ、身が朽ちるのを待ちやるか?野良などに加えられなければ痛みを伴わずにすむが、……


「携帯殿?」
「………………………あい、」
「大丈夫でござるか?」
「?この通り無事であるが…いかがしやった」
「…否、某、これよりお館様の元へ行かねばならぬのでござるが、その、」
「…あぁ、よい、ヨイ。行きやれ御仁。われに構わずともすぐ迎えは来やる故、そのようにわれに時間を費やす必要もない」


いかにも心苦しいような面持ちで赤はそう言いやるが、面白いほどに橙は真逆で早く去りたいと顔に書いてあった。主従揃って賑やかかと思えば似ているわけでもなく…否、感情が顔に出やすいという点に置いては似ておるか?
どちらにせよ、われと名前とではあり得ぬ関係性であると少し朗らかな気分になった。


「申し訳ござらぬ…なにかあっては大変でござるからその時は佐助にて某を呼んでくだされ。すぐに駆けつけて参ります」
「げっ、俺様コイツに番号教えるの超嫌なんですけど!!」
「うるさいぞ佐助、さっさとしろ」
「ぁあああああ!!!わかった、わかったから脱がさないで!今教えるから!!」


はい、他に漏らさないでね。
と殺気だった目で番号を送られたが…正直要らぬ。名前が自分の知らぬうちに勝手に己が電話帳の番号が増えているのを見たらどう思うか…複雑そうに顔を歪めるに違いない…あぁ、それはヨイなァ…


「ありがたく」


小さく言えば笑みを返された。はて、なにか面白き小とはあったか…?

あの主従はよほど急ぎの用が入っていたようですぐさま姿が見えなくなった。


「む、…なにやら雲行きが怪しくなってきたぞ、名前よ…」


ちぃとばかり、急ぎやれ。われに防水機能はついておらぬ。














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