短編 | ナノ







名前は四国にいる間、ほとんど城から出ることはない。出たとしてもいつも夜になってからだ。


「…名前、それ…なに?」


夜が明けてから半刻、朝餉を一緒に食べようと寝泊まりしている客室に行けばいつもの装束に、見慣れないものを頭につけ、目元に回るようにそれを下げた。


「眼鏡…いや、ゴーグルと言った方が正しいのかもしれない」
「ごーぐる?」
「ああ」


さて、と名前は立ち上がり、荷物入れ(かばんって言ってた気がする)を肩にかける。出掛けるのだろうか…?着いていっていいかは分からないけど離れたくなかったから、その…ごーぐるを口実に着いていった。


「何のためにしてるの?」
「ん?風や光が目に入りすぎるのを防いでるんだ」
「…?」


目の甲冑のようなものだろうか…?
でも別に明るすぎるというわけでも突風が吹いているというわけでもないから大丈夫な気がするんだけど…


「夜目は利くんだが光に弱くてな。太陽の元にさらすのは少し辛いものがある」


首を傾げていると名前がそう言ってくれた。目元が見えないからあれだけど、苦笑しているんだろうって口元を見て思った。
そういえば名前が城外、屋外にいるのは初めて見た。なるほど、初めて知るわけだと一人頷く。

でも少し、残念だなぁ…


「名前は綺麗な目をしているのにみんなに見てもらえないのはもったいないよ」
「!」
「……?」


言うと名前が息を呑んだのが分かった。
どうしたんだろって見上げると小さくだけど驚いたように口が開かれていて、初めて見るその表情に嬉しくなったけど原因が分からなくてまた首を傾げる。


「いや…言われたことが、なかった…」
「…、そうなの?」


こくんと頷かれる。

か、かわいい…っ///
いつもかっこよくて憧れてる名前のまさかの一面に…なんだろ、心を鷲掴みにされたような…そんな錯覚に落ちる。今まで感じてきたのとは桁が違う胸のうずきに、甘く感じる苦しさに見舞われる。


「血の色のようだとなら、よく言われる」
「………」


そう言った名前は、一体どんな目をしていたんだろう。

やっぱりごーぐるは邪魔だと思った。見えない、名前の目が、表情が…


心が。


ぎゅっと名前の服の端を掴む。


「弥三郎…?」


名前が歩みを止めてこっちに視線を向けているのを感じた。
何か…言わなきゃ、…言ってあげなきゃいけないんだろうけど、感情がぐるぐると渦巻いて、うまく言葉がまとまらなくて…声が出てくれなくて、


「…ありがとう」
「……え…、」


ちゅ、と音がなった

頬がなんだか暖かくて、…だんだん熱を帯びて熱くなっていった


「朝餉、まだだろう?私もだ」


付き合え、

そう言った名前が笑った顔はいたずらっぽく笑っていて、
ああ…口付けられたんだと気づいたときには必死にその背中を追いかけていた。













(名前…っ!///)
(んー…?)
(っ…、な、なんでも…ない…///)




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