短編 | ナノ







「匿え!!!!!!!」



いざ出ようと扉を開けた瞬間、目の前に現れた男がそう叫んで家に押しかけてから早半年。なんでかその男、三成と私は同棲している。

悪い奴じゃないんだ。個性派イケメンってやつね。ホントに個性の強いイケメンなんだ。

一人暮らしをしている身なんだけど慣れていないということもあってひどく寂しかった。その寂しさを紛らわすために友達の家に泊まりに行こうとした時に三成は転がり込んできたんだ


"いつまでいる気なんですか!!!"
"私の勝手だろう!!!"
"あなたのせいでお泊まり会がおじゃんですよ!!!"
"ならば私が貴様の家に泊まって嫌というほどお泊まり会を設けてやる!!!"


今思えばすっごいむちゃくちゃなことを言ってたんだ、三成…
でもその時の私からしたら、不安と恐怖と寂しさで押しつぶされそうな時に現れた救世主のような人で、すごく嬉しかったのを覚えている。表には出さないけど。

彼はどこかの学校に通っているわけでもなければ働きに出ているわけでもない。ずっと一日家にいる、いわゆるニートだ。ニートってNEETとNEATと二つあるけど三成は両方に当てはまる。そう、小奇麗な自宅警備員だ。私が養っている形になるんだけど特に困ることはない。金銭面は。
三成は一つの場所に長時間とどまっているから電気代はそんなにかからないし、食事の量も全然だから食費もかからない。洗えばいいって冷水でちゃっちゃシャワー済ませちゃうからガス代も…って、なんかホント、いろいろ心配。
食事ね、ホントに食べてくれないんだ。嫌いなものがあるのかと聞いても首を横に振るし逆に好きなものがあるのか聞けばまた首を横に振る。味が気に入らないのかなーっていろいろ工夫して作り変えたりなんたりしても食事の量はあまり変わらない。知人に自分の作ったものを味見させても悪くないという。私は気づかないうちにかなり料理の技術が上がったというのに結局三成にきちんと食べさせるという目標を未だに成し得てない。

それともう一つ。
彼は変なときに無駄に叫ぶ癖がある。

例えばそれは私がいつもより服に気を使った時、帰りが遅くなった時、朝急にカーテンを開けたりと結構変な時に。しかも叫ぶ内容も内容だ。



「きさま…私を裏切るのか!!!!名前!!!!!」
「お願いだから落ち着いて三成」



食事も睡眠もそんなにしていないのにどこからそんな元気が出るのか気になる。



「私は…わ、たしは……」
「…え…」





「三成!!!」



そんな三成が、今、目の前で倒れた。










すぐ近くのソファに横にさせて、容態を軽くだけど見る。特に熱もなければ咳き込んだりもしていないので風邪ではないのかもしれない。というか違う。けど気づいた。
はじめの頃と比べて彼の髪が色褪せてること、ただでさえない肌の血の気がますます減ったこと、唇が荒れてること…。

ひとつ、思い当たることがあった。



「…栄養失調か…」



たしか知人でそうだった人がいた。その人の場合はめまいとか動悸とかが症状として出ててすぐに対応できたんだけど三成はあまり動かないからそんなのに気づけない。むしろ平気だろと今まで碌に視線を向けていなかった気がしないでもない。

どうしたものかと考えながら手持ち無沙汰な手で髪を梳いてやる。

罪悪感に襲われる。当たり前だ、三成がこうなったことに少なからずの罪が私にあるんだ。でも作ったものを食べてくれない三成も悪いと思う。なんて最低なことを考えてみたり…



「馬鹿でしょ、」



馬鹿とはなんだと、いつもなら食いついてくる三成も今はただ横になっていて、それが寂しくて、なんでか悲しかった。










「う…、」
「!!三成!!き、気がついた…」



よかった…と胸をなでおろす。
しかし目が覚めてしまえば今まで不安と心配とでいっぱいだった胸に別の感情がふつふつと湧き始める…



「こんの…馬鹿三成!!!!」



パァン…ッ!!
といかにも痛そうな音をたてて平手打ちをかましてやる。少し頬の血色が良くなった。



「なんでこんなになるまで放っておいたの!!?!馬鹿なの!?!?」
「………なまえ…」
「今の私の気持ちがわかる!!?分からないでしょうね所詮他人だもんね!!!」
「…なまえ…」
「なんで何にも言ってくれないの!?なんで…なん…で、」



イライラする…本当にイライラする!!!!
私だって色々頑張ってるのに、食べてくれないし理由を言ってくれないし何しても全然効果がないもん!!人に聴いたり調べたり自分でなんとかアレンジを加えたりって料理も頑張ってるしなるべくストレスになるようなことがないように気をつけてるつもりだったのに…なのに…っ、



「そんなに…ッ、そんなに……、私は…」





頼りないですか…?





視界が、歪む…。
情けない…

ホント、自分で自分に呆れる…。こうなったのには少なからず自分にも責があるのに…それ全部棚に上げて三成のせいだけにして。
もっと色々、してやれることが…出来ることがあったはずなのにそれを考えようともしないで…



「…ごめんなさい…」



ごめん、三成…
ごめん……



「ごめ、…なさい、ごめんなさ……」
「なまえ…、泣くな…」



頬に手を添えられる。親指でそっとぬぐわれる涙。感情が高ぶったせいか暑い顔に、三成の手の冷たさは居心地よくて無意識にすりよってしまう。
起き上がった三成に引き寄せられ、抱き締められる。さっきまで意識がなかったんだから少しくらい体温が高くてもいいのにって思うくらい三成は手だけじゃなく身体も冷たくて…少し吃驚して顔を上げたときと、同時だった…と思う。





「ん、ぁ…」



甘いしびれを残して、三成は私の首に噛みついた。









好物


(ちょ、三成さっきのはどういうことなのよ!説め…っ、…)
(…あまり大きな声を出すな。貧血の身には辛いだろう)
(誰のせいだと…っ、)
(まだ余裕なようなら私は遠慮なく貰う)
(やっ、)








――――――…
気づく方は気づく。近々続き書きます(多分)




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