はるのさかな



熱斗の病室からは木が見える。
それは桜の木だったようで、春になった今
たくさんの花をつけ自身を桃色に染めあげていた。
ひらひらひらひら、舞い落ちる花びらを
その上から見つめるのではつまらないだろうと、炎山のはからいで二人は
病院の側の桜並木を歩いていた。

「あんまりテンション上がって転ぶなよ」

久しぶりの外にはしゃいでいる熱斗に炎山は言う。

「だーいじょうぶだって!!」

道の上にはピンクの絨毯。
靴でキュッと踏んで、ワン、ツー、ステップ。くるり一回転。
そんな彼をを見てまばたきした炎山の瞼の裏にひとつの懐かしさが映った。

(『炎山、あんまりはしゃいで転ばないのよ?』

『だいじょうぶだいじょうぶ!!』)

「……んざん、えーんざん!!」

熱斗は急に止まった炎山に呼びかけた。

「あ……すまん」

「どうしたんだよ?急にぴたっとしちゃって」

「なんでもないから気にするな」

そう言いながら炎山の瞳が少し翳ったのを
熱斗は見逃さなかった。
そっと赤色の彼の手をとって歩き出す。

「!?なんだ熱斗!急に…」

驚いた炎山が口にする。
そんな彼の方に熱斗はまたくるりと笑顔で振り向いた。

「連れ去られちゃかなわないからな」

ざあっとひときわ強く風が吹いて、
桜の花びらが空に舞い上がる。
炎山は瞼の裏にまた何かがフラッシュバックした。

「(母さん)」

小さく小さく呟いて、少し泣きそうになる。
見えていてみえていないものに連れ去られないように彼も熱斗の手を優しく握り返した。

ピンク色のさかなの季節。






またきっときみと、こうしてあるけますように。



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