ねむりとぬくもり



秋になった。
熱斗は夏の終わりから睡眠薬を使わなくなった。
不眠症の進行と共に薬への耐性がつき服用量も最初の頃よりも当然多くなる。
耐性により効果を発揮しなくなった薬の多量服用は無意味な上に体にもよくないと医者が判断したのだ。

「あら炎山くん。熱斗くんのお見舞い?」

廊下を歩く炎山に看護婦が声をかける。

「あ、はい」

「ふふ、いいことね。でも熱斗くん今は眠ってるわよ」

「大丈夫です。もう他の方から聞きましたから」

笑顔でそう返して彼女と別れ、炎山は熱斗の病室へ足を早めた。

熱斗は不眠症といえども眠れないわけではなかった。ただ、1度眠ってしまえば4日は起きることはない。
それが大体1ヶ月に1度。今日は6日目。
病室に入りベッドの横の椅子に腰かけた。
ベッドに横たわった青色の少年はすう、すう、と規則正しく寝息を立てている。
傍らには生命維持をするための点滴。
炎山はそっと熱斗の手首に手を当てた。
とく、とく、とく、とく、とく。
こっちも乱れなく規則正しい。

「夢をみてるのか、熱斗」

返事はない。もちろん問いかけた彼も返事があるなんて思っちゃいない。
すう、すう、とく、とく。小さな音。

(生きてる、よな。熱斗)

炎山は思う。彼がこのまま目を覚まさなかったらと。
こうして熱斗が眠っている時だけではない。そんな不安は心の深い場所でゆらゆらと揺れていて、うわべのところで自分に大丈夫だと言い聞かせ続けている。
本当はいつもこわくてこわくて仕方がないのだ。
キスで目が覚めるのだろうかなんて思ったのち、そんなおとぎ話のようなことがあるわけないかと目を伏せた。



「ん……」

約1週間ぶりに眠りから目覚めた熱斗は何時だろうかと思い時計を見やる。夜の11時半だった。
手元にあたたかさを感じて目を向けると、炎山が自分の手を握ったまま寝息をたてていた。
彼の体に毛布がかかっているところと小さな棚の上にPETが置いてあるところを見ると、ブルースが看護婦さんに事情を説明してくれたのだろう。
左手はそれはそれは大切そうに赤色の彼に握られていた。
熱斗はその手を彼に握られていないもう片方の手で包む。

「俺はいなくなったりしないよ、炎山」

少しだけ開いた窓から、秋とまだほんの少しだけ残っている夏のにおいが通りすぎた。







だいじょうぶ、ちゃんとここにいるから。



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