こどものくに




「小さい頃読んだ絵本に、夜を歩くこどもの話があったんだ」

夜の1時半、初夏の緩い風が入ってくる窓の方へ目を向けて
熱斗がぽそりとこぼした。

「外はだーれもいなくて、空には大きな熱帯魚がいて、
降ってきた星屑を集めてこどもだけの国を作るんだよ」

そう話した熱斗は沈んだ夜底に目を向けた。
その絵本を炎山も知っていた。同じように小さい頃読んだからだ。
でも幼い頃に読んだその話は怖くて仕方がなかった。
正直なことを言うと、今でも少し怖ろしい。
大切な大人が一人いない彼にとっては。

「いけたらいいよなあ、そんな国。炎山もそう思うだろ?」

熱斗に問われた炎山は心の中で、
そう思っていられるのは今のうちだけだけだ、と言った。
実際こどもたちは自分じゃなにもできなくて、大人に生かされていることを知っているから。
分かっていながら炎山は彼の期待を裏切ることなく「そうだな」と一言口にした。


眠れない深海のよる。








こどもだけの国なんて、あるわけないのに。



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