よっつのおねがい
※盗賊王パパと幼少バクラと宿主♀の七夕のお話。
捏造設定乱立してるのでご注意下さい。

「………」
7月の暑苦しい夜。
よく寝つけなくてバクラはむくり、と布団から体を起こした。
隣では獏良がすやすやと寝息をたてて気持ちよさそうに眠っている。
同じ部屋の同じ布団で寝ているのに何故こんなに寝つきのよさが違うのだろうか。
そんなことを考えながらかれこれ20分も寝返りをうっているので、もう諦めて盗に少し何か話してもらおうと思い1階へと階段を降りて居間をのぞいた。
「盗ー…………」
その時彼は見てはいけないものを見た気がした。
今は亡き母の仏壇の前で泣いている父親の後ろ姿。
そんな彼に話しかけるわけにもいかず、バクラは足音をたてないように2階に戻り布団に潜って目を閉じた。

「ええーっ!バクラそれ嘘でしょ!」
「ばっか了声でけえよ!……嘘じゃねえよ」
次の日の学校からの帰り道バクラは獏良に誰も話しちゃダメだぞ、と念を押して夜見たことを話した。
弟から父親の話を聞かされた彼女は
「んー、でも盗が泣くなんて信じられない」と
道に転がった石ころを蹴りながら言った。
「俺だって見間違えかと思ったんだよ」
夕立後の空を写した水溜まりをジャンプした。
ちょうどこの時期だっただろうか、自分たちの母親が交通事故で死んだのは。
正直まだ小さかったから母親のことはあまり覚えていない。
だけど、あの温かさだけは確かに覚えている。
母親が死んでからは、お父さんである盗が1人で今もなお自分たちを育ててくれている。
「でも、私よくお父さんに言われるよ。『了の優しいところはお母さんに似たんだな』って」
「俺も『飲み込み早いところは〜』って言われるな」
「私たちはお母さんのことあんまり知らないけど、やっぱりお母さんの子どもなんだよね」
ぽそり、と獏良が呟いた言葉にバクラも
「そうだな」と言って畳んだ傘をくるりと回しながら夕飯のことを考え、帰路を急いだ。
「今週の日曜日はお母さんの墓参り行くからな〜。友達と遊ぶ約束とかすんなよ?」
そんな日の夕飯で盗がそう告げた。
それに2人とも「はーい」と元気よく返事をし、食器を片付けていつも通りテレビのリモコンの争奪戦に入った。

日曜日の7月7日は最高気温を記録する猛暑日になった。
獏良は麦わら帽子を目深に被り、バクラは水筒を持って3人でバスに乗って母親の墓がある外れの地域まで向かった。
バスの中はクーラーがきいていてまるで冷蔵庫の中みたいだったけど、猛暑日の今日はこれくらいがちょうどいい。
そんなふうにかれこれ1時間ほど揺られると特に目立つものもない土地に着く。
目的地までの1本道は脇にたくさんの昼顔が咲いていて、バクラがそれをぶんぶん振り回して歩くのが恒例になっている。
「ま、待って〜。2人とも歩くの早いよ……」
獏良が息を切らせて足を止めた。
彼女があまり体力がないことを知っている盗は、獏良のいる場所まで引き返して「ほれ」と背中におぶさるように促した。
「あーっ!ずりい!!」
「お前はまだそんな元気あんだから歩けよ」
「ちぇー」
「えへへ」
そうこうしながら歩けば、いつの間にか墓の前に着いていた。
軽く墓石を磨いて、母親の好きだった花と菓子を供え、ロウソクに火をつける。
「はい、じゃあ」
盗のその言葉で3人一緒に両手を合わせて目を閉じる。
その間はさわさわと風が昼顔を揺らす音とやっと目を覚まして出てきた蝉の鳴き声だけが響いていた。
「………………っよしっ!!ほら、もう目開けていいぞ」
再び彼の言葉で目を開けると太陽光線のカウンター攻撃に獏良はめまいがした。
一方バクラはぐぐーっと伸びをして「今日はこのまま帰るのか?」と盗に訊いた。
「今日はすいか買って帰るぞ!!七夕だからな!」
「「ほんと!!!?」」
七夕とすいかがどう関連があるのかなんて些細なことで、今年初すいかに獏良とバクラは飛び上がって喜んだ。

夕飯を終えた3人は仲良く台所に立ち、すいかを切り分けた。
「あっ了それ俺のだぞ!!」
「早い者勝ちだもーん!」
「はいはい俺が種ちょっと取ってやるから待ってろって」
なるべく種の少ないすいかを奪い取ろうと2人の間で喧嘩が勃発する前に盗が上手い具合に間に入る。
その後シャクシャクと気持ちよい音をたてて、笑いあいながら食べ終わると
「お前ら七夕ってことはもう1つなにか忘れてないか?」と盗が言った。
その問いは2人にとっては易しすぎるもので、すぐに「お願いごと!」と答えた。
「正解」と言いながら盗は笑顔でスーパーの袋の中から模造品の小さな笹と短冊を取り出した。

「お?了は俺のこと書いてくれんのか。優しいなあ」
そう言われた獏良の短冊に『お父さんが笑っていられますように』と書かれていた。
「だって、お父さんの泣くところなんて見たくないもん」
「バカ了!!!」
「あっ。」
とっさに口を塞いだか遅かった。
盗も何のことか分かったようで、恥ずかしげに頭をかきながら「見られちまったかあ……」と呟いた。
「あ、ごめ、ごめんなさい………」
「なんでバクラが謝るんだ。別になんにも悪いことなんかしちゃいねえだろ」
ありがとうな、そう言って盗は幼い2人を抱きしめた。
「じゃあ俺はバクラが笑っていられますようにって書くか」
その言葉に察しのよいバクラは迷わず短冊に『了が笑っていられますように』と書いた。
 3人が3人の幸せを願った短冊をぶら下げた笹を玄関先に飾ると、獏良が「お母さんの分!」ともう1つ下げた。
天国の彼女も、彼らをみてきっと幸せそうに微笑んでることだろう。 
2人に歯磨きをするよう促して、盗は今日は3人で川の字になって寝ようと考えながら布団を敷いた。


とある家族のしあわせな話。
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