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『我は倭国の王…

戦乱のこの世に安寧の地を…』



「必ずや貴方様の御心のままに…我が命にかえても」


目付きの鋭い男が言う。


黒髪の少女はその男を見遣ると、男は一礼して下がっていった。


『我がしっかりしなければ…この国に安寧は訪れなんだ…はよう、皆が心休まる国を作らなければ…』


私には前世の記憶がある。それゆえ、現在の立場に付いて思うところもあった。


生まれ持って身についていた力。


未来を見ることができる。


しかもそれは己が望んだ未来を―


だから戦に負けることもなかった。


犠牲はあった。


犠牲なき戦はありえない。


これは私の持論だ。


それはどんなに私の力で未来予知をしようとも…変わることはなかった。


だから、私はいつも最善、とは言い切れないがそれに近い戦事、及に戦略をとってきた。


女王だから、と敵国に舐められることもあった。


でもそんな奴らには報復を。


二度と舐めたことを言う奴らを作らぬためにも―


『まこと、愁いの多い常世だ―』


私はそっと、祓いの言葉を告げる。


『とふかみえみためかんごんしんそんりこんたけんはらいたまひきよめいたまう…』


祝詞を唱得きる前にそれは姿を消した。


否、消滅させたのだ。


『我が命もあと幾何か…

ふ…それもまた一興、か』


夜も更けて、日麻は静かに寝台へと向かう。


いつか…いつか平和な日を夢見て…


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