『ねぇ、名前。アシュレイ侯爵って知ってる?』






名前は曇りひとつない銀食器に紅茶を注ぎながら、滔々と答えた。






「存じてますよ。マーキス・オブ・アシュレイ。保守党に所属している貴族院議員で、確か最近は貿易業に力を出してる御仁ですよね」



『そーそー。よく知ってるね』







グレイは頷きながら、名前の注いだ紅茶の横のマフィンに手を伸ばす。







「新聞に書いておりましたので。それで、その方が何か?」









手にしたマフィンを一口頬張ると、彼は口角を吊り上げる。










『アシュレイ侯爵は見かけは老紳士だけど、オンナ癖が悪いっていうか……すこし好色な面があるんだよね。

それで侯爵、キミのこと気に入っちゃったみたい』







グレイは脚を組みかえ、ゆっくりと名前を見据えた。








『キミ、侯爵と寝てくれない?』



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