『ねぇ、名前。アシュレイ侯爵って知ってる?』
名前は曇りひとつない銀食器に紅茶を注ぎながら、滔々と答えた。
「存じてますよ。マーキス・オブ・アシュレイ。保守党に所属している貴族院議員で、確か最近は貿易業に力を出してる御仁ですよね」
『そーそー。よく知ってるね』
グレイは頷きながら、名前の注いだ紅茶の横のマフィンに手を伸ばす。
「新聞に書いておりましたので。それで、その方が何か?」
手にしたマフィンを一口頬張ると、彼は口角を吊り上げる。
『アシュレイ侯爵は見かけは老紳士だけど、オンナ癖が悪いっていうか……すこし好色な面があるんだよね。
それで侯爵、キミのこと気に入っちゃったみたい』
グレイは脚を組みかえ、ゆっくりと名前を見据えた。
『キミ、侯爵と寝てくれない?』
← →
ページ数[1/4]
総数[13/65]