「それで?今日はどこに行こうっていうんです?」





診察を終えたマイケルを屋敷に帰したあと、とうとう馬車でグレイと2人きりになった。

彼は質問には答えず、不満げな顔でこちらを見ていた。







『……めかしこんで来てって言ったのに、君は本気でその格好で行く気?』







そう言われて名前は自分が着ている服を見返したが、何が問題かわからなかった。


そもそも、さっきまで病院だったのだ。
病院に行く予定があるのに煌びやかな格好で来いという方が無理な話である。







『ま、そんなことだろうと思ってたけどさ』








グレイは呆れたように肩をすくめてみせた。




よく見ると彼は、いつもの眩しいほどの白い燕尾服ではなく、シックな薄墨色のシャツに黒いベロアリボンで長い後ろ髪をまとめていた。

いつもと雰囲気のちがう彼に少しドキリとした。







(一体どこへ行くつもりなのだろう……?)





やや不機嫌に頬杖をついて外を眺めているグレイは、尋ねても応えてくれそうにないので、名前は諦めてただ黙って目的地に着くのを待つことにした。




***












20分ほど馬車を転がし、
見えてきたのは名門仕立て屋が軒を連ねるサヴィル・ロウ。



『ついたよ』




グレイに促され馬車を降りると、目の前に立つ店のショーウィンドウには"HOPKINS Tailor"と書かれていた。



(カララン)







「ようこそホプキンステーラーへ」



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