『はぁ〜今日もつっかれたー!』
月明かりが照らすグレイ伯爵家の長い廊下で、前を歩く当主は思い切り伸びをしてみせた。
無理もない。時刻は深夜の1時。
朝からずっと働き詰めで、町屋敷に帰るのも久々だったのだから。
「ここ数日は本当にハードスケジュールでしたね」
言いつつも、彼の近侍である自分も同じスケジュールだったわけだが。
『本当にクッタクタだよー。お腹も空いたし、シェフに何か夜食でも作らせようかなァ』
我儘な伯爵様は己の空腹を満たすために、すでに眠りについているであろう料理人を叩き起こす気でいた。
「シェフはもう就寝している時間ですし、お食事はまた明日にでも……」
哀れなシェフの安眠を守るためグレイの提案に口を挟むと……
(グスッ…グスッ…,)
「?」
どこからか、何かの声が聞こえた気がして思わず立ち止まった。
『なに?どうしたの?』
途中で言葉を切ったことに違和感を感じたようで、グレイは怪訝そうにこちらを振り返った。
「いま、何かの声が聞こえた気がして……」
『ハァ?!ちょっ、変なこというのやめてくれる?!』
そう言うと、彼はみるみる顔を青くさせ瞳に動揺の色を浮かべた。
こんな表情は仕えてから初めてみる。
「……もしかして、怖いんですか?」
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