「こちらがエッペンシュタイン様にお使い頂くお部屋です」








名前はグレイ伯爵家の町屋敷(タウンハウス)で最も広いゲストルームを案内すると、彼女は物珍しそうに部屋を見回した。



彼女が頭をキョロキョロと動かすたびに稲穂のような黄金色の巻き毛が揺れていてとても綺麗だった。












「ねぇ、名前はグレイ伯爵の元に勤めてどれくらいになるの?」








公爵令嬢は瞳をキラキラと輝かせて、こちらを振り返った。


ドイツからの長旅で疲れている筈なのに、不思議とその足取りは軽やかだ。











「まだ半年にも満たないです」







そう応えると、公爵令嬢は心なしか肩を落としたように見えた。






「そう……。随分信頼されてるように見えたけど、案外短いのね。グレイ伯爵のことを色々教えてもらおうと思ったのだけれど」







どこか意味ありげな公爵令嬢の言葉に、名前は疑問を投げかけた。






「……お嬢様は留学の必要がないくらい英語が流暢に思えますが、今回はどうして訪英をきめたのですか?」









すると、彼女は頬を赤らめ照れくさそうに自身の巻き毛に指を絡めた。







「……実はね、以前 大叔母様の在位50周年記念式典(ゴールデン・ジュビリー)で家族と英国を訪れた時に、大叔母様の護衛をしているグレイ伯爵をお見かけしてね」








彼女が語る大叔母様とはヴィクトリア女王のことだろうか。

公爵令嬢は目を伏せて、話の続きを言うのを躊躇っていた。







「それで?」


「それで……その時に恋しちゃったのよ!グレイ伯爵に!」









思いがけない公爵令嬢の告白に、名前は思わず間抜けな声を上げた。





「は……?」











「どうしても彼を忘れられなくって、大叔母様にお願いして、留学という建前でグレイ伯爵のお屋敷に居候させてもらうことにしたの。まぁ要は縁談のためにやってきたってわけね」








公爵令嬢は熱くなった熱を冷ますように自分の頬に両手を当てて、いかにも恥ずかしそうに語った。

彼女がここに来てから、ずっと瞳を輝かせて足取りが軽やかだった理由がわかった気がした。
あれは恋する乙女の眼差しだったのだ。









「前回は姿をみただけで、お話しできなかったけど、今回は帰国までにお近付きになってこの縁談を成功させたいのよ。だから、それまでここで話したことはグレイ伯爵には内緒にしてね?」





公爵令嬢は両手を合わせて可愛らしく懇願してみせた。

名前が無言で頷くと、彼女はパァッと表情を明るくした。







「よかった!あ、名前は私のことを気軽にクレメンティアって呼んでね。さっきはグレイ伯爵に断られちゃったけど、そういうとこも紳士的で素敵よね」











うっとりと語る無邪気な令嬢をみていると、なぜだか自分でも制御できない感情が湧き上がってきて……



思わぬ言葉が飛び出した。











「……では、貴女はグレイ伯爵に家族を殺されても彼を愛せますか?」













言った後に自分でもびっくりして、思わず自身の口を塞いだ。








「え?何か言ったかしら?」








幸いにも公爵令嬢には聞こえていなかったようで、彼女は首を傾げていた。











「いえ……何でもありません」









名前はスカートの裾を力強く握り、クレメンティア嬢に一礼すると部屋を飛び出した。










何故だか、これ以上彼女の話を聞いていたくなかった。

純粋培養のご令嬢が屋敷に1人増えたところで、暗殺計画には何の支障もないはずなのに……








(どうしてこんなに、胸のざわめきが収まらないの……)










「君の愛が真実ならば」
続く??



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