***




『ふーん……?悪くないんじゃない、及第点ってかんじ?』






ホプキンス・テーラーで、文字通り頭の先からつま先まで総替えさせられた名前をみてグレイはそう呟いた。






「ええ、まぁ確かに素敵に仕上げて頂いたんですが……」





洋服だけでなく、靴、ストッキング、アクセサリー、メイク、ヘアセット…etc


何から何まで、こだわりの強いニナによってすべて新調された。 
しかも、これだけの量をグレイの要望によりたった30分で済まされ、目がまわるようなひとときだった。




途中で不安なり、こっそりと伝票を覗き込むと見たことのない桁の数が追加されていたので、慌てて身につけられた装飾品を振り払ってでて来たのだった。

放っておいたら、店ごと買い占めてしまいそうな勢いだ。








「ニ、ニナさん!もうそれ以上の装飾は充分ですから!」


「ま、いけませんわ!せめて、この靴とイヤリングだけは絶対そのワンピースにあわせて頂かなくては!」


「これ以上買い足すと伯爵家が破綻してしまいます!」


『ちょっと、ウチはそんなに貧乏じゃないけどー?』







そんなやりとりを10分以上繰り返し、なんとかホプキンス・テーラーの試着室から解放されたのであった。








「……ま、採寸も取ったことですし、今日のところはこれでいいでしょう。それでは舞踏会用のドレスは仕上がり次第納品にあがりますわ、完成をおたのしみに」







若干、不満げなニナを残してようやく店を後にした。

あれだけ当初の予定からオプションを削除したにも関わらず、グレイが切った小切手には名前の月収ほどの額が並んでいたのだから恐ろしい。










***




まだお昼にもなっていないというのに、なんだかどっと疲れてしまった。
慣れないことはするものではないとしみじみ思う。










『じゃ、いきますか!』






そんな近侍の気も知らず
名前の身支度が整い、ようやく満足したのかグレイは上機嫌になっていた。







「服まで着替えさせて本当にどこに行くつもりなんですか?」










履き替えたばかりの慣れない靴で、慌てて彼の後ろを追いかける。








『それはついてからのお楽しみ』





そう言って彼は悪戯っぽく口角をあげた。




馬車は灰色のサヴィル・ロウを抜けテムズ川を越えると、気付けば緑豊かなクリスタルパレスまで来ていた。







『ほら、もう着いた』








目の前には、ガラス張りの新鋭的なデザインの建物が聳え立っていた。








『はい、君の分のチケット』






グレイはジャケットの内ポケットからごそごそと紙切れを取り出して名前に手渡す。

そこには、"Crystal Palace Aquarium"と書かれていた。













「おいで、優しくしてあげる」
続く??



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