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チャールズ・グレイの部屋を追い出された後。
与えられた私室に戻ると、名前は内密に所持していた携帯電話を取り出し、どこかへ電話をかける。
その人物は、予想より早く3コール待っただけで繋がった。
<お前の方から電話なんか珍しいじゃねぇか>
「すみませんアズーロ。ターゲットに目覚められて、寝込みの襲撃に失敗しました」
電話をかけた相手は名前の上司でもあり裏社会の師でもあるアズーロ・ヴェネルだった。
<使えねぇ奴だな。三日もあれば十分殺せただろう>
電話の向こうでアズーロは舌を切る。
貴族と言えど、仮にも彼は女王の護衛……そう簡単に隙を見せてはくれなかった。
「“殺すときは対象者をよく知り、計画を練った上で殺せ”
貴方の口癖でしょう?アズーロ。
貴方の方は例のファントムハイヴ伯爵と接触が取れたみたいね」
そう言うと一瞬 沈黙が流れたが、すぐにアズーロは鼻で笑う。
<フン……伊達に俺の元で働いてたワケじゃねぇみてぇだな。その情報、どこで知った?>
「ヴァレット専用のパブってのがあるのよ。女の客は私くらいだけど。
彼ら使用人たちは貴族の動向を常に把握しているから、この程度の情報なんてお手のモノよ」
<……末恐ろしい女だねェ。
お前のいう通り、女王の番犬を手懐けてドラッグの流通をもっと効率よくしようって画策だ。
ま、お互い計画がうまくいくよう祈ろうじゃねぇか。あとは上手くやれよ>
そう言い残すと、アズーロは一方的に電話を切った。
元々 近況報告が目的で長電話をするつもりは毛頭ないし、そんな間柄でもない。
名前のような復讐という私情で動くような人間は、裏社会では疎まれる。
(アズーロは人間として好きになれる男ではないが、私のような世間知らずだった人間を拾ってくれたという点については、感謝しなければいけないかもしれない……)
窓の向こうでは既に朝日が昇ろうとしていた。
まるで彼女の願いを祝福するかのように。
「稚拙さと狡猾さを纏う青年」
続く??
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