***
清潔そうな真っ白なシーツ。
そんな真っ白なシーツの中に蹲る、真っ白な人……。
「旦那さま、起きてください。朝です」
傍らで跪いて声をかけると、真っ白い人は寝返りを打って眠そうな声で返事をした。
『アンタ……誰だっけ?』
女はアーリーモーニングティーを注ぎながら淡々と答える。
「お忘れですか?今日から貴方様のヴァレットを勤めさせて頂くことになりました名前です。
一週間ほど前、旦那様直々に面接したじゃないですか」
注がれたアーリーモーニングティーと新聞紙を差し出すと、彼は寝呆け眼で瞳をこすりながら(そうだった)と呟いた。
「お召物はこちらでよろしいですか?」
そう言って、彼の皺一つない白い燕尾服を差し出す。
『そう。早く着せて』
「それでは、失礼します」
彼のドレッシングガウンに手を掛け、中のシャツのボタンを一つ一つ外していく。
ぷち、ぷち、ぷち……
そうすると、彼の白く逞しい胸板が露になる。
(嗚呼……なんて隙だらけなの)
自分の命を狙っている女に無防備な姿を晒すなんて……。
自分で服すら着替えることのできないこの男の名前はチャールズ・グレイ。
爵位は伯爵。
職業は、女王秘書武官兼執事。
祖父は第26代英国首相。
(そして、いずれ私に殺される男──…)
← →
ページ数[2/3]
総数[2/65]