『名前って、スチュアート公爵夫人と仲良かったんだね』
スチュワート公爵夫人とはサラのこと。
名前は旧友の話題に思わず笑顔になる。
「えぇ、そうよ!サラは故郷の幼なじみで、私にとっては姉のような存在なの」
『ふーん……』
「でも、どうしてそんなことを?」
『別に。ただ……』
チャールズはベッドの中で寝返りを打って名前に背を向ける。
『ボクは君のこと、何も知らないんだなって……』
***
「グレイ、ボタンがほつれてる」
今にも取れそうなボクの燕尾服のボタンを見てフィップスが言った。
『あっホントだ』
朝は確かちゃんとついてたから、たぶん来る途中にほつれたんだろうな。
「待て。動くな」
そう言ってフィップスは自らの裁縫セットを取り出してボクの燕尾服に針を通す。
『それくらい、帰って使用人にやらせるからいいよ』
「服の乱れは心の乱れ。仮にも我らは陛下の執事なのだ。みっともない姿を陛下にお見せするわけにもいくまい。……最近、結婚してから弛んでるんじゃないのか?」
せっせと針と糸を通していくフィップスの指は、まるで楽器を弾いているかのように滑らかだ。
『結婚も楽しいもんだよ。お前もすればいいのに』
「お前が結婚を許されたのは、俺がいたからだ。執事が一人では、職務と家庭の両立ができないからな」
ほら、できたぞ、と言われ、見るとボタンはとても補修したとは思えないほど綺麗にくっついていた。
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